名古屋オフィス市場の現況と見通し(2017年)

2017年02月22日

(竹内 一雅)

1. はじめに

名古屋駅前では2015年秋に大名古屋ビルヂングとJPタワー名古屋が竣工した。大量供給にもかかわらず、空室はほぼ解消され市況は堅調に推移している。その後も、2016年秋のJRゲートタワーの入居開始や、2017年のグローバルゲートウエストタワーの竣工など、大量供給が続いていることから、今後の二次空室の動向への関心は高い。本稿では名古屋オフィス市場の現況把握とともに、2023年までのオフィス賃料の将来予測を行う1
 
1 2016年の見通し結果は竹内一雅「名古屋オフィス市場の現況と見通し(2016年)」(2016.2.26)ニッセイ基礎研究所を参照のこと。
 

2. 名古屋のオフィス空室率・賃料動向

2. 名古屋のオフィス空室率・賃料動向

名古屋駅前での大規模ビルの相次ぐ開業による大量供給の中でも、名古屋オフィス市況は好調が続いている。大名古屋ビルヂングとJPタワー名古屋が2015年秋に竣工し、2016年にはシンフォニー豊田ビルの竣工やJRゲートタワーでの一部入居開始があったが、空室率は低下傾向が継続している(図表-1)。三幸エステートによると、2017年2月の空室率は6.24%で、一年前(2016年2月)の6.89%から着実に低下している。

空室率の上昇に伴い成約賃料も上昇が続いているが、すでに高水準に上昇していることもあり、上昇スピードは低下しはじめている(図表-2)。2016年下期の成約賃料(オフィスレント・インデックス)は、前期比+1.9%、前年同期比+3.3%の上昇だった。成約賃料は直近の底値(2012年下期)から+31.5%の上昇で、ファンドバブル期の高値(2008年下期)の90.7%にまで回復している。
空室率は全てのオフィス規模2で改善が進んでいる。その中では、大量供給に伴い大規模ビルの改善スピードが鈍化している(図表-3)。なお、大規模ビルの空室率は6.42%、大型ビルは9.57%、中型ビル9.58%、小型ビル10.99%だった。

三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区3の空室は減少が進んでいる。2016年末の空室面積は6万1千坪で、直近のピーク(2012年、12.2万坪)のちょうど半分となった4(図表-4)。
 
2 三幸エステートの定義による。大規模:基準階面積200坪以上、大型:同100~200坪未満、中型:同50~100坪未満、小型:同20~50坪未満。
3 三鬼商事の定義による。名古屋の主要4地区(名駅地区、伏見地区、栄地区、丸の内地区)からなる。
4 ただし、ファンドバブル期のピークと比べた現在の空室面積が50%という水準は、主要都市のビジネス地区で最も改善が遅れている。もちろん、近年の名古屋における大量供給が背景にある。ファンドバブル期のピークと比べた2016年末の空室面積の比率は、東京で42%、札幌で33%、仙台で43%、名古屋で50%、大阪で46%、福岡で28%だった。
 

3. 名古屋のオフィス需給と地区別動向

3. 名古屋のオフィス需給と地区別動向

名古屋ビジネス地区では7年連続で賃貸面積(稼動面積)が増加している(図表-5)。2013~16年の4年間の賃貸面積の増加は合計で約9万坪となり、ファンドバブル期(2005~08年)の増加の約9割だった。ファンドバブル期と比べ供給面積が少ないことから、空室面積は当時よりも大幅に減少している。月次でみると、2015年秋からの大規模ビルの供給に伴い需要も大きく伸びたが、その後の新規供給のない時期の需要の増加面積は、2013年~2014年と比べると縮小している。
名古屋ビジネス地区における、賃貸面積の増加を新築ビルと既存ビルに分けると、2011年以降で新規供給量が多かったのが2015年のみだったこともあり、最近数年間は過去と比べ、既存ビルでの需要吸収が進んでいる(図表-6、7)。2016年は賃貸面積増分の約半分が既存ビルであり、大規模ビルの竣工に伴い発生した二次空室の解消が進んだと考えられる。

三幸エステートの調査においても、2016年のネット・アブソープション5(吸収需要)は、2015年の大量供給の影響で大きく減少したものの1万5千坪に達し、前年との合計で7万坪を上回る面積が吸収されている(図表-8)。
地区別に空室率の推移をみると、名駅地区で大量供給に伴う空室率の足踏みがみられるが、それ以外は全ての地区で大幅に空室率が低下した(図表-9)。その結果、名駅地区と他の地区との空室率格差が縮小しており、2017年1月の空室率は、名駅地区で5.21%(最近の底は2015年6月の4.27%)、伏見地区6.89%、栄地区6.50%、丸の内地区5.87%となっている(図表10左図)。

空室率の低下などに伴い、名駅地区では募集賃料の大幅な上昇が始まっている(図表-10右図)。ただし、その他の地区では伏見地区でわずかに上昇が見られ始めた以外は底ばいが続いており、募集賃料に関する地区別の二極化の解消はようやく始まったところといえる。
名古屋ビジネス地区ではオフィス賃貸可能面積の34.0%が名駅地区に立地し、ついで栄地区(29.7%)、伏見地区(26.4%)、丸の内地区(9.9%)の順となっている(図表-11)。

2016年は新規供給のあった名駅地区だけでなく、伏見・栄・丸の内の各地区でも賃貸需要が増加した結果、栄地区では空室面積が▲5千2百坪の減少、名駅地区と丸の内地区でも▲2千坪を上回る大幅な減少がみられた(図表-12)。
 
5 ネット・アブソープションとは調査期間内のオフィス需要(稼動面積)の増減のことであり、「期初竣工済みビル募集面積」+「新規供給面積」-「期末竣工済みビル募集面積」で算出している。
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