資金決済法や犯罪収益移転防止法などの改正による仮想通貨に対する規制導入の最大の目的は、マネロン・テロ資金供与規制と消費者保護である。
たとえば、ロシア・中国などでの仮想通貨禁止は、アングラマネーなどのビットコインを経由した他国口座への安価な手数料での送金によるマネーロンダリング防止のために打ち出された。
東京渋谷に本拠を置くビットコイン業者Mt.Gox社の破綻は、顧客の大半は外国人であったものの、社長が顧客資金を横領したなどの容疑で逮捕され、仮想通貨に対する信頼を大きく損なう事件となった。これらは、仮想通貨の「陰」の部分といえる。
一方、仮想通貨には、金融分野の技術革新であるFintech(フィンテック)としての「光」の部分もある。
第一に、技術の革新性である。
ビットコイン技術の核心はブロックチェーン(取引履歴の連鎖)であり、その転々流通の仕組みは、「社会インフラストラクチャーの1つとして利用できる可能性を持っている」
32と指摘されている。
仮想通貨については、金融業界では三菱東京UFJ銀行がさまざまな取組を行っていると報道されており、とくに「MUFGコイン」
33と称される独自の金融サービス構想は、仮想通貨のブロックチェーンによる流通性に着目したものといえよう。
第二に、ビックデータとしての活用の可能性である。
仮想通貨に関する膨大な取引履歴は、決済行動の分析やマーケティングなどに大きく貢献しうる
34。
第三に、低コストであることである。
たとえば、海外送金については、現在銀行での通貨の送金では一件当たり数千円のコストを要しているが、仮想通貨の海外への移転については数十円程度であり、通貨における為替変動や、仮想通貨における価格変動および通貨への換金の際の手数料を除外して考えれば、顧客の負担は軽くなる。
銀行での取組みは、これまでの銀行特有の重厚長大なシステムに代えて、「ブロックチェーンを使うことで、コストを削減できた分だけ顧客の負担を軽くできる」
35ものと評価されている。
銀行のほか、証券会社や保険会社など金融業界全般が顧客との膨大な取引データを維持・管理しており、効率的なシステム構築によって、顧客に対して低コストでサービスを提供できる可能性がある
36。
このようなさまざまな可能性を秘めた仮想通貨について、規制導入を契機に、「光」と「陰」の両面を踏まえ、消費者保護や利便性向上を優先した健全な発展を期待したい。
32 岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
33 「三菱UFJ銀、独自の仮想通貨を開発中 コスト減へ期待」『朝日新聞』(2016年2月1日)、「三菱UFJ、独自の仮想通貨発行へ 一般向けに来秋」『朝日新聞』(2016年6月10日)。
34 岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
35 真壁昭夫「三菱UFJ銀行、ひそかに一大計画推進・・・『莫大なカネ食い虫』巨大システムを捨てる日」『Business Journal』(2016年7月5日)。
36 ニュースリリース「日立と三菱東京UFJ銀行が、シンガポールにおいて小切手の電子化を対象としたブロックチェーン技術活用の実証実験を実施」(2016年8月22日)においても、小切手の電子化について、「ブロックチェーン技術の応用により、システム投資コストを低減しつつセキュリティを確保した利便性の高い金融サービスの実現」が期待できるとしている。