コラム

「男」と「女」の健康格差-保健医療システムのパラダイムシフト

2015年07月07日

(土堤内 昭雄)

「健康日本21(第2次)」には、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本方針の一つとして『健康寿命の延伸と健康格差の縮小』が掲げられている。そこで示されている都道府県間の健康格差の状況をみると、平成22年の健康寿命は、男性では最長の愛知県と最短の青森県で2.79年、女性では静岡県と滋賀県で2.95年の差がある。

健康格差は、職業、所得、教育、性別、地域環境、社会心理など多くの社会経済要因から生じる。健康の一つの代替指標として平均寿命を捉えると、富裕層ほど平均寿命が長いという調査結果がある。所得が多ければ健全な食生活や運動習慣が身につき、疾病予防のための保健医療資源へのアクセスも容易だからだろう。もちろん、健康だから所得が多いという逆の因果関係も想定される。

では、性別における健康格差はどうだろう。平成25年の平均寿命は、男性80.21歳、女性86.61歳とその差は6.4年だ。男女差の推移をみると、昭和50年は5.16年、平均寿命の延伸とともに差は拡大している。国際的にみる平均寿命の男女差は、長寿国では大きい傾向にあるが、なかでも日本は相対的に男女格差の大きな国だ。このような男女間の健康格差をもたらす要因はなんだろう。

生物学的要因として、男性の場合、男性ホルモン(テストステロン)がより多くの疾病をもたらすとされている。生活習慣的要因としては、男性は喫煙率が高く、飲酒量も多いなど不健康な生活習慣が見られ、ガン罹患者も多い。また、心理的要因としては、仕事上のストレスや退職後の社会的孤立の影響が女性より大きいと考えられ、自殺者の7割は男性で占められている。このように健康における男女格差は、生物学的要因以外に様々な社会経済状況(SES:Socioeconomic status)に起因している。

今年6月、厚生労働省の「保健医療2035」策定懇談会が、日本が健康先進国となるための20年先を見据えた「キュア中心」から「ケア中心」への保健医療のパラダイムシフトを提言し、健康は個人の自助努力だけで維持・増進できるものではないため「健康の社会的決定要因」を考慮することを求めている。それは個人の健康の前提として保健医療分野のみならず社会全体のあり方が問われているからだろう。

このようなパラダイムシフトを進めるには健康格差を生み出す社会経済要因を分析し、われわれの「暮らし方」、「働き方」、「生き方」を見直すことが必要だ。「男」と「女」の健康格差の解消に向けた取り組みを契機にした平均寿命や健康寿命の延伸が健康先進国・日本の実現をもたらすことを期待したい。そこから21世紀の日本の新たな社会経済システムのあり方も見えてくるのではないだろうか。



 
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