コラム

インド・インドネシア・中国が有望投資先候補の上位3カ国に-アセアンの人気は依然続く、中小企業の海外展開への政府・自治体・関係諸機関によるサポートの一層の充実も期待

2014年12月11日

(平賀 富一)

2014年11月28日、国際協力銀行(JBIC)が「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2014年度海外直接投資アンケート調査結果(第26回)-」を公表した。同調査は1989年以来年次で実施されており、その中の日本企業(製造業対象)による「中期的(今後3年程度)有望事業展開先国・地域」に関する設問は92年以来継続して実施されており、わが国企業の投資先の動向や関心・期待度を見る上で参考になる点が多い。

13年の調査では、インドネシアが初の首位にランクされ、92年から首位を継続してきた中国が4位になるという大きなトレンドの変化が起きたが、14年の調査では、インドが初の首位となり、インドネシアが2位、中国が3位、タイが4位、等という結果となった。

直近公表の同調査の結果を踏まえ、私見を併せて、直近の日本企業の投資先選好に関する動向や事情を以下に論じることにしたい。

図表に示すように、このところ2位のポジションを継続してきたインドが首位となったことは、この調査の時期が14年7-9月であり、14年5月に就任したモディ新首相の政権下での経済発展や投資環境の改善、外資規制の緩和への期待などが反映されていると考えられる。インドネシアについては、14年の順位は2位となったが、同国への回答社数・得票率共に14年は13年の数値を上回っており依然として関心度が高いことが分かる。中国のランキングの回復は、13年には大きく順位を下げたものの、その生産拠点としての意義および巨大な消費市場の存在ゆえに、同国が日本企業にとって依然重要な投資先であることを示しているといえよう。タイについては、14年は前年に比べて得票率も低下しており、不安定な政情や洪水によるリスク懸念の影響が考えられる。さらにタイに拠点を有する企業が周辺国に新たな拠点を設ける「タイ・プラス・ワン」の動向にも注視が必要であろう。上述のインドネシア・タイを除く、その他のアセアン(東南アジア諸国連合)諸国(小国であるが、石油・天然ガスによる収入が大で、個人に対する所得税・住民税がないなど特殊な事情にあるブルネイは除く)については、経済規模・市場規模の小さいラオスが14年に上位20位圏外となったものの、5位ベトナム、10位ミャンマー、11位フィリピン、12位マレーシア、14位シンガポール、15位カンボジアと20位以内に入っており、さらに、ミャンマーを除く各国が13年よりも得票率を上げていることが注目され、アセアン諸国全般に対する日本企業の人気度が依然として高いことが窺える。ただし、アセアンへの投資については、韓・中企業によるベトナム・ミャンマー・カンボジア・ラオス等への積極的な進出を典型例に、欧米企業や域内企業も含めて増加しており、その中で日本企業がビジネスチャンスを掴むためにはタイムリーな意思決定と行動が必要であると考えられる(ミャンマーでは、調査・検討には熱心だが決定・行動が遅い日本企業を揶揄して「NATO」(No Action Talk Only)や4L(Look, Listen, Learn and Leave)というフレーズがある由)。




また近年は、わが国の中堅・中小企業の海外進出も増加傾向にあるが、調査結果の対象をそれら企業に絞ると、上位5カ国が、インドネシア、インド、中国、ベトナム、タイとなっており、インドネシアが首位となっている。

従来のコスト節減や製品販売先である大企業への追随に加え、新たな取引先の拡大や成長する消費市場での販売強化等によるビジネスチャンスの獲得といった新たな重要なステージを迎えている中小企業の海外展開 の増加傾向に関連して以下の点を述べたい。

先般、インドネシアを訪問した際に伺った事項の中で、新たに同国に進出した中小企業の中には、会社として初の海外進出であり、現地のビジネス慣行等に不慣れな中、日本人の派遣者(駐在員)が現地人の従業員に対して高圧的等不適切な言動や対応を行いひんしゅくを買うという事例が見られるとのことであった。このようなケースが増えれば、長年にわたり築いてきた日本・日本企業に対する信頼・信用や親しみを損なう懸念がある。現地での事業を成功させる上では、現地の慣行・文化などを理解し尊重することが必要であり、この点について、当該企業のトップおよび駐在員諸氏が、政府・自治体や官民の諸機関の提供する海外ビジネス情報やセミナー、アドバイス等のサービスも活用しつつ理解を深めることが期待される。同時に、政府・自治体や諸機関には、それぞれが提供する情報やサービスについて、互いに連携しつつ、利便性や認知度の向上へ向けての取組みの推進を望みたい。また、インドネシアはじめ新興国の多くでは、法制度、税制、会計制度が複雑で、その改定や変更も頻繁で、運用の透明性が低いとの課題が指摘されているが、中小企業は、費用面の負担の大きさから、法律事務所、会計事務所等専門家の助言やアドバイスを聴取せず、自らの理解と判断で対処し、その結果、追徴課税・重複課税などといった問題に遭遇する事例が相当数あるとも聞く。この点については、まさに企業の命運をかけて海外に進出するわが国中小企業の現地での成功を支援するため、上記法務・会計・税務の現地所在の専門家によるサービスフィー(相談料等)の一定部分を支援する公的制度の創設などのサポートが有用と考えられる。



 
 中小企業の海外子会社の地域分布は、中国44.6%、その他アジア34.4%とアジア地域計が79%と太宗を占めている(中小企業庁『中小企業白書(2014年版)』による)。
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