薮内 哲()
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研究・専門分野
企業向け税制改正は、どの程度景気の下支え役を担えるのだろうか。
消費税率引き上げ後の消費拡大を図るため、平成26年度税制改正にて交際費の非課税枠が拡大された。これまで大企業は交際費を全額損金不算入としなければならなかったが、今年度の改正で交際費(飲食費1に限る)の50%を損金算入できるようになった。また中小企業においても平成25年度税制改正により交際費非課税枠が拡大されている。従来、交際費の損金算入については、年600万円を限度として、その90%まで認められていたが、年間800万円を上限に全額損金算入できるようになった。(図表(1)参照)
足元、雇用情勢の改善傾向が続いており景気の回復基調は続いているが、GDPの約6割を占める個人消費は4月の消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動減から持ち直しが遅れている。4月以降、名目賃金は上昇傾向にあるものの、物価はそれ以上の伸びをみせており、実質賃金ではマイナスが続いているからだ。企業の生産活動にも陰りがみえる。
こうした状況下で企業の交際費非課税枠拡大の実施は、どの程度景気の下支え役となりえるのだろうか。そこで非課税枠拡大の効果をみるために、国税庁の会社標本調査結果(税務統計から見た法人企業の実態)3(平成24年度)を用いて、企業負担軽減額を簡易的に試算してみた。
まず、平成25年度税制改正によって中小法人が追加で損金算入できる額を求める。図表(2)より中小企業1法人当たりの交際費等支出額は、全ての資本金階級において600万円を超えていない。よって、全ての法人に図表(1)のAを適用し、損金算入額が10%増加(90%→100%)すると仮定する。中小企業の法人実効税率は、所得のうち400万円以下は21.43%、400~800万円以下の部分が23.16%、800万円超の部分が36.05%と仮定4し、資本金階級ごとに1法人当たりの申告所得金額に対して適した実効税率を用い負担軽減額を求めた。それらを合計すると約390億円との試算結果が得られた。これは企業にとっての負担軽減額であり、国から見れば税収の減少見込み額となる。
次に平成26年度税制改正における大企業について求める。交際費の50%を損金算入する場合、その損金算入できる交際費は接待による飲食費に限られる。そもそも、交際費等とは交際費、接待費、機密費、その他の費用で、法人がその得意先、仕入先、その他事業に関係のある者等に対する「接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為」のために支出するもの5をいう。そこで、交際費等総額のうち8割を飲食費と仮定し、その50%を損金算入可能とした。損金算入可能額に実効税率6を乗じることで大企業の負担軽減額は約680億円との結果が得られた。したがって、平成25、26年度税制改正による中小企業と大企業を合わせた負担軽減額は年間で約1,070億円となる。日本のGDPは約500兆円であるから対GDP比では約0.02%程度にすぎない。
また、当税制改正における非課税枠の拡大を活用し、企業は税額負担を変えずにどれだけ交際費を増やすことができるかを考えてみた7。先の試算値で用いた税負担額を固定し、課税所得の増加額を求めると、25年度改正によって中小企業は約2,843億円、26年度改正によって大企業は約3,178億円分の交際費を年間の税負担を変えずに増やすことが可能になる。合計すると約6,021億円8となり、企業の負担軽減額の約6倍に当たる。この額が交際費非課税枠拡大によって消費増大を狙う政府の期待かもしれない。
ただ、非課税枠が拡大されたとはいえ、景況感の足踏み状態続く中では、企業業績が改善せず企業が交際費を抑制する動きもでてくるだろう。今後、景気回復の足取りが確かになることが鍵であり、好況感と企業業績改善が相まってくれば、上記試算規模に匹敵する消費拡大効果も期待できよう。
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