松浦 民恵()
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研究・専門分野
2013年12年1日に、2015年4月入社の大卒採用に対する会社説明会が解禁され、「就活」すなわち就職活動が大々的にスタートした1。折も折12月17日には、厚生労働省によって「若者の『使い捨て』が疑われる企業等への重点監督の実施状況」が公表された。厚生労働省が2013年9月を過重労働重点監督月間と位置づけ、電話相談等から選定された「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」に対して集中的に監督を実施した結果がまとめられたもので、対象となった5,111事業場のうち、82.0%に何らかの労働基準関係法定違反があったとされる。この結果はいわゆる「ブラック企業」の実態として、ニュース等で大々的に報じられた。
「ブラック企業」という言葉は、ここ数年定義がはっきりしないままに急速な広がりを見せ、それに対抗して最近は「ホワイト企業」なる言葉も登場してきた。学生諸氏のなかには、どの企業が「ブラック」でどの企業が「ホワイト」なのか、を見分けようと多くの情報を収集し、結果として情報の海に溺れかけている方もいるのではないだろうか。
筆者はいわゆる「バブル」世代であり、昨今の学生諸氏が聞いたら憤怒しそうな中途半端な就職活動しか経験していないが、研究者として仕事をするなかで、相当多くの情報と付き合ってきた。考えてみれば、筆者が日ごろ情報と付き合う上で気をつけていること(以下に列挙)は、学生諸氏が就活関連の情報と付き合ううえでも活用できるかもしれない。ということで、甚だ僭越ながら、標記のようなタイトルで筆をとらせて頂く次第である。
(1)情報は複眼的にとらえる
情報を鵜呑みにせず、多少の疑いの気持ちを持つことは重要である。物事には両面があり、一見長所に見えることでも、別の見方をすると短所になることもある。「ブラック」か「ホワイト」か、簡単に白黒つけられるほど世の中は単純ではない。もちろん法違反がある企業は厳しく摘発されるべきだが、ある人が「ブラック」と感じる企業が、別に人からすると「やりがいのある仕事を任される」企業と解釈される場合もある。「ホワイト」と言われる企業でも、すべての職場が「ホワイト」であり続けるとは限らない。
(2)情報には偏りが生じやすい
たとえば就活先の企業の担当者からの情報は、立場上、企業にとって都合の良い内容に偏ってしまう可能性が高い。そうだとすると、「就活」には関係ない中立的な立場の社会人から話を聞くほうが、偏りの少ない情報が得られやすいだろう。また、大卒の入社後3年までの離職率などの数値は、客観的である分、偏りが生じにくい。情報を評価するときは、情報の出所や種類などによって、どの程度の偏りがあるかを考慮する必要がある。
(3)情報の価値は取得するための苦労にある程度比例する
インターネットで手軽に得られる情報にももちろん価値はあるが、実際に訪問して得られる情報に比べれば、量も質も劣る場合が多い。また、無料の情報にも良いものはあるが、有料の情報は、買ってもらえるように、質や量を充実させる努力がより多く求められると考えられる2。さらに、苦労なく手に入る情報を持っていても、ライバルの学生諸氏に対して優位に立てる可能性も低い。結局、良い情報を得るためには、それなりの苦労が必要だということになる。
最後に、「就活」は苦しい、悩ましい経験である一方で、関心のある企業に乗り込んでいろいろな人に出会い、話を聞けるという、人生のなかで滅多に訪れない貴重な機会でもある。末筆ながら、情報とうまく付き合うことで、「就活」がより有意義な機会となることをお祈り申し上げたい。
敬具
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