伊藤 拓之()
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2013年も残すところ数日となった。今年は「アベノミクス」に代表されるように経済の明るいニュースが増え、日本国内の投資家には良好な成績を収めた方も多かろう。日経平均株価は2012年末の10300円台から16000円近辺まで50%を超え上昇し、為替相場(米ドル/円)は86円台から104円台へと大幅に円安が進み、輸出企業の業績が急回復している。しかし、投資の視点を日本からグローバルに目を移すとやや様相が異なる。今回は各国の為替・債券・株式市場を俯瞰し、グローバルな視点で2013年の金融市場を振り返ってみたい。
今年は各国の金融政策が各金融市場に与えた影響が非常に大きい。日本では4月に黒田総裁率いる日本銀行の『量的・質的金融緩和』が実行され、国債等を毎月買い入れ、マネタリーベース(中央銀行が供給する通貨量)を拡大している。米国FRBは昨年来続いていたQE3(Quantitative Easing)の縮小を12月に決定したことが記憶に新しい。QE3の縮小は半年以上前から市場では懸念されており、金融市場に大きな動揺をもたらした。欧州ECBをはじめとするヨーロッパ諸国やオーストラリアは伝統的な金融緩和政策である政策金利の引き下げを行った。一方、インド・インドネシア・ブラジル・トルコといった新興国はインフレ抑制や通貨安防衛の観点から政策金利を利上げ、金融を引き締めた。
最初に各国の政策金利や金融政策に大きく影響を受ける為替市場について分析してみたい。対米ドルにおける各国通貨の2013年のリターン・リスク(注1)を図表1に示した。G10(注2)、新興国(注3)ともにほとんどの通貨で米ドルに対して、ドル高自国通貨安であった。特にインド・インドネシア・ブラジル・トルコは金利引き上げにもかかわらず、QE3の縮小に伴う新興国市場からの資金引き上げ懸念から大幅な自国通貨安を招いた。日本円についても『質的・量的金融緩和』により通貨量が大幅に増加し通貨価値の下落を招き、大幅に自国通貨安(円安)となった。他方ユーロは利下げに動いたにもかかわらず、PIIGS(ポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)諸国の債務危機問題の懸念が薄れ若干の自国通貨高(ユーロ高)となっている。
次に各国債券市場の2013年のリターン・リスク(注1)を図表2に示した。先進国債券市場のデータはCiti WGBI (World Government Bond Index)を用い(注4)、新興国の債券市場のデータはJP Morgan GBI EM(Government Bond Index Emerging Market)を用いた(注5)。今年はQE3縮小懸念から将来の金利上昇を織り込んで多くの国で金利が上昇し、自国通貨建てで先進国・新興国共にマイナスのリターンとなる国が多かった。日本は『質的・量的金融緩和』により日銀が毎月国債を買い入れているため金利上昇は抑えられ、プラスのリターンを確保できている。さらに一昨年来欧州で問題となっていたPIIGS諸国の債務危機問題が和らぎ、関係国の金利が低下し高いリターンを記録している。一方、利上げを行ったブラジル・インドネシアでは大幅にリターンが悪化している。さらにドル建てで見ると、新興国は自国通貨安もあいまって大幅にリターンが悪化する。
最後に各国株式市場の2013年のリターン・リスク(注1)を図表3に示した。株式市場のデータは先進国・新興国各国のMSCI株価インデックスを用いた(注6) (注7)。全般的に2013年は先進国のリターンが良く、新興国のリターンが冴えなかった。日本は自国通貨建てで見ると、50%近いリターンで先進国中最高のリターンであったが、米ドル建てで見ると大幅な円安のため米国やドイツのリターンを下回る。新興国は大幅な通貨安に見舞われ、米ドル建てリターンでみると、運用成績はさらに悪化する。
全体をまとめると、日本国内では大幅な株高、円安であったが、グローバルに見ると、為替では円安に加え新興国通貨安、債券では欧州PIIGS諸国を除いてマイナスのリターン、特に新興国債券は大幅にリターンが悪化していた。株式市場は、先進国が良好で、新興国は冴えなかった。2008年の金融危機以降昨年までは「株式より債券、先進国より新興国」といった資金フローの構図であったが、今年は従来の流れが逆転し、「債券から株式へ、新興国から先進国へ」と大きく変わった転換の年であったことがわかる。来たる2014年もこの流れが続くか引き続き注目される。
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