コラム

家計金融資産はどこに向かうのか - 金融機関は選択基準の世帯間差異を読み解けるか

2013年11月15日

(井上 智紀)

既に各処で報道されているとおり、先日公表された金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、二人以上世帯の世帯あたりの家計金融資産は平均で1,101万円と3年連続で減少し、金融資産を保有しない世帯の割合も前年比5ポイント増の31.0%となった。一方で、単身世帯では、金融資産を保有しない世帯の割合が37.2%と前年比3.4ポイント増加したにも関わらず、金融資産の平均は前年に比べ98万円増加し、798万円となっている。

金融資産全体に占める金融商品種類別の構成比をみると、二人以上世帯では「株式」が8.3%と前年に比べ2.7ポイント増加し、「預貯金」(55.0%)が1.9ポイント減少している。単身世帯でも同様に、「株式」は1.7ポイント増加し、「預貯金」は47.2%と3.3ポイント減少している(図表 1)。



二人以上世帯と単身世帯とを比較すると、二人以上世帯で「預貯金」、「生命保険」の構成比が単身世帯に比べ高く、単身世帯では「個人年金」、「株式」、「投資信託」が高い。特に「株式」では単身世帯で14.4%と二人以上世帯に比べ6.1ポイント高く、「投資信託」を含めれば家計金融資産全体の約2割をリスク性の金融商品に配分しており、単身世帯は金融商品への配分について、より高いリスクをとっているとみることができる。

また、金融商品の選択基準についてみると、二人以上世帯では「安全性」が41.8%でひときわ高く、「流動性」(29.5%)、「収益性」(14.5%)と続くのに対し、単身世帯では「安全性」が最も高いものの、その割合は27.7%であり、「流動性」(24.1%)と、「収益性」(24.0%)が僅差で続いている(図表 2)。それぞれ前年と比較すると、二人以上世帯では「収益性」が2.3ポイント減少しているのに対し、単身世帯では「収益性」が2.0ポイント増加し、「流動性」が4.7ポイント減少しており、世帯類型により、変化の方向が異なっている。



このように、世帯構成によって金融資産の配分やその選択基準、前年からの変化の方向性はそれぞれ異なっている。両調査とも、属性別などの結果についてはまだ公開されていないため、詳細については改めて分析していく必要はあるが、このような変化の背景には、社会経済環境に対して、消費者が向けている視線の差異があるものと思われる。

大手企業における冬の賞与増加の報道をうけて、さらに所得増への期待が高まる中、金融機関が貯蓄・投資先として消費者に選ばれるためには、このような消費者間の差異を読み解く力も、求められているといえるのではないだろうか。


 
 1 60歳以上(単身世帯は60歳代)の構成比が二人以上世帯で43.9%、単身世帯で21.0%と、両調査で回答者の年齢構成が異なっていることも、このような選択基準の差異の背景となっているものと考えられる。
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