地球温暖化対策が大きな社会的課題となった4年前、ニッセイ基礎研究所では、公開されている情報だけでオフィスビルの環境性能を"勝手格付け"しようと試みたが、設備のエネルギー利用効率や窓の断熱性、省資源対策などといった評価に必要な個別情報がほとんど入手できず、問題提起はしたものの
1結局実用化を断念した経緯がある。当時でも、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構の『CASBEE(建築環境総合性能評価システム)』に基づく認証取得実績や、東京都の『建築物環境計画書制度』に基づくビルの省エネルギー性能、『地球温暖化対策計画書制度』に基づく温暖化ガス排出量などが開示されていた。しかし、これらの制度自体が広く認知されていなかった上、新築の公共建築物や自社ビル、大規模な事業所が主な対象で、既存の賃貸オフィスビルや商業施設などの収益物件情報は限定されており、J-REIT(不動産投信)や私募ファンドなどの評価に活用することが難しかった。
それだけに、2011年4月に日本政策投資銀行が公表した『DBJ Green Building 認証制度』は、顧客企業の所有するビルの設備や管理などに関する詳細な情報を入手できるという金融機関の立場を活用することで、公開情報だけに頼る勝手格付けの限界をクリアしている点にまず感心した。また、不動産の環境性能(エコロジー)だけを評価するのでなく、耐震性能や防災・防犯対策(リスク・マネジメント)、利用者の快適性(アメニティ)、景観や緑化など周辺環境・地域社会への配慮(コミュニティ)、ビルオーナーとテナントの省エネ連携やBCP策定(パートナーシップ)という5つの視点で総合評価している点も特徴的だ。2011年3月の東日本大震災以後、テナント企業や投資家は不動産のサステナビリティ(持続可能性)を強く求めるようになっており、構造躯体や設備の性能だけでなく、管理・運営面への関心も強い
2ことからすれば、実にタイムリーな評価基準といえた。さらに、ビルの建築計画段階の評価だけでなく、既存の築古物件も同じ尺度で評価できる点でも汎用性が高いと感じた。その後、これに追随するかのように同様の認証制度
3が他の金融機関などからも相次いで公表され、グリーンビルディング認証を受けた民間の収益物件数は急増している。
ところで東京では、Aクラスといわれる最上位の賃貸オフィスビルがオペレーショナル・アセット化しており、特に、有力企業の本社誘致にあたっては、立地や構造・設備などビルそのものの商品性はもちろん、営業力や提案力、運営力など事業者の総合力が問われるようになっている
4。一般に、Aクラスビルは、立地、規模(延床面積や基準階の賃貸床面積、高さや階数)、新しさ(築年数、共用部や専用部の設備仕様など)に関する公開情報を基に選定
5された最上位のビルである。しかし、第三者が別途の調査をせずに格付けする以上、あくまで物理的な要件による選別にとどまっており、DBJなどのグリーンビルディング認証が評価している環境性能、耐震性能や防災・防犯対策、利用者の快適性、景観や緑化など周辺環境・地域社会への配慮、ビルオーナーとテナントの省エネ連携やBCP策定といったソフト面は考慮されていない。Aクラスに分類されるような新しい大型ビルであれば、構造躯体や設備面だけでなく、このようなソフト面も充実しているはずだ、とある意味で割り切っているわけだ。
しかし、すべてのAクラスビルが「プラチナ」といわれる最上位クラスのグリーンビルディング認証を取得できるかどうかがわからないのと同様、築古ビルや中規模ビルの中にもサステナビリティに非常に優れたビルがあってもおかしくない
6。少なくとも、現在のA~Cクラスという格付けだけでは、BCP対策や省エネ性能に関心を強めている利用者や投資家のニーズを満たせない以上、ビル事業者など市場関係者は、グリーンビルディング認証を規模や新しさによるビル評価の補足情報として積極的に利用すべきだろう。J-REITや私募ファンド、生保などの機関投資家が保有する不動産の認証取得を大幅に増やすことができれば、不動産の規模や築年数に関わりなく、利用者や投資家、社会の視点からビルのサステナビリティを評価する尺度が日本の不動産格付けのスタンダードになる日は近い。サステナビリティの高い不動産はコアアセット投資に適した不動産ともいえ、グリーンビルディング認証制度の普及は、内外の年金基金などからの投資資金の呼び水にもなるだろう。