松村 徹()
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この夏、東京都心部で完成した大型複合ビルでは、鳥や小動物が生息できる緑地と水辺を再現した「こげら1の庭」が話題となった。来春には、大型オフィスビルの低層部に約3,000m2におよぶ重層的な緑化空間「京橋の丘」が、2014年春には、3,600m2の人工地盤上に200本を超える高木が密集する「大手町の森」が出現する。新宿区では、工場の地下化によって生まれる約2ヘクタールの公開空地を緑化する「市谷の森」が建設中だ。ビルの敷地や屋上、壁面などを使った大規模な緑化は、1995年、福岡市天神の「アクロス福岡」に設けられた13層5,400m2のステップガーデンが嚆矢だろう。大阪市では、2003年オープンの大型店舗ビルに整備された段丘状の「パークスガーデン(約3,300m2)」2が先鞭をつけたが、最近では高さ120mの高層ビルの壁面全体を10年がかりで緑化する計画も発表された。いまや、ヒートアイランド対策やCO2低減効果にとどまらず、美しく質の高い緑化空間の整備は、大型建築プロジェクトの魅力づくりとして必要不可欠なものとなっている。
このように建築物の屋外緑化は目覚しく進化しているが、室内に観葉植物や花などを置くインドア・グリーンとなると、自社ビルにせよ賃借ビルにせよ、意識的かつ積極的に取組んでいる事例3は多くない。高度な防災・省エネ性能を備え、屋外緑化も申し分のない最新鋭の自社ビルや、最新のICT(情報通信技術)を使いこなす企業の執務室に、まったく緑がないことに驚く経験がしばしばだ。インドア・グリーンは、日々の手入れが必要だが、レンタル業者に委託するとコストが掛かる、社内美化には役立っても生産性向上に結びつかない、地震などで転倒するとやっかいだ、設置できるようなスペースの余裕がない、そもそもオフィス内にグリーンを置く必要性を感じない、ということだろうか。しかし、インドア・グリーンは、(1)美観向上はもちろん、(2)仕切りとして室内の雰囲気を変えたり目線を切ったりできる、(3)視覚疲労を回復させ緊張感を和らげる、(4)蒸散作用で空気の乾燥を穏やかにする、(5)心を安らげる・癒す(ヒーリング効果)、(6)ホルムアルデヒドなど室内の有害物質を吸収する4、といった効果が期待できるとされる。また、レンタル業者を使わず、植物栽培に興味を持つ社員有志のサークルなどが自主的にグリーンの持ち込みと世話をするなら、担当者のコミュニケーション向上やストレス解消効果もありそうだ。
ニッセイ基礎研究所では、昨年度のフロア移転に伴い、執務室内の照明器具をLED(発光ダイオード)に、照明方式を作業エリアとその周辺を分けて全体の照度を抑制するタスク・アンビエント型に切り替えるなど、オフィスのスマート化(省エネ・節電の推進)に取り組んだ。この結果、寒色系のLED照明と濃いグレーの床材、白色の内装と家具が相まって、インテリアは無機質な印象が強くなった。それこそクールでスマートなイメージといえるが、「スマートオフィス」だからこそ緊張の緩和や癒し、リフレッシュのための仕掛けや演出も必要だと考え、元気の出るビタミンカラーとされる明るい緑色をデスクの間仕切りや椅子の座面に採用するとともに、閉鎖的で暗いイメージだった図書室を、コミュニケーションとリフレッシュを促す快適な空間になるようデザインした。さらに、インドア・グリーンの効用にも着目して、オフィス内のポイントとなる箇所に、50種を超える観葉植物を配置5する実験も行っている(写真参照)。
最近は、屋外で培われた自動灌水システムを備えた壁面緑化技術が、リース方式でインテリアにも応用できるようになっている。ユニット単位で植物の入れ替えが可能で、専用の給水タンクがあるため室内に給排水管を引き込む工事の必要もなく、インドア・グリーンの選択の幅がさらに広がったといえる。ICTの急速な進歩や企業間競争の激化などで職場内のストレスが高まり、メンタルヘルス管理の重要度が増している今こそ、インドア・グリーンの視覚疲労回復や癒し効果に注目してはどうだろうか。特に賃貸ビルの場合、ビルオーナーの積極的な関与次第で、インドア・グリーン普及の可能性が高まる。通常、ビルオーナーは館内細則に定めた最低限のルールをテナントに求めるものの、節電協力以外でテナント専用部の使い方について能動的に関与することは少ない。しかし、たとえば、ビル管理会社の専門資格者6が、インドア・グリーンの導入や維持管理に助言・協力するようなサービスがあれば、導入に関心のあるテナントは大いに助かるだろう。温熱環境や日射状況などビルの室内環境を熟知するビル管理会社への期待は大きい。
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