進藤 由美()
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福島県相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、新地町、飯舘村。福島第一原子力発電所の事故以降、ニュースで取り上げられる地名がいくつも並んでいることにお気づきだろう。これらの地域は総称して、「相双(そうそう)地区」と呼ばれている。この地域にはもともと5つの精神科病院があったが、東日本大震災ならびに原発事故後、5つの病院全ての入院患者710人が避難を余儀なくされ、900床の病床が稼動できなくなってしまった1 。災害後にはPTSD(Post Traumatic Stress Disease:心的外傷後ストレス障害)が発症する危険が高いといわれているにも関わらず、東日本大震災、津波、そして原発事故と、3つの災害が折り重なって起こった地域において、精神科医療を専門とする医療機関が崩壊してしまったのである。
しかし、それまで治療を必要としていた人たちへのフォローアップはもちろんのこと、将来的にメンタルヘルスのニーズが高まる可能性が高まることを危惧した人たちが、福島県立医科大学の丹羽真一教授を中心に結束。心のケアチームをつくり、震災直後から精力的に活動をしてきた。その後、当事者、支援者、医療関係者など、様々な人たちの協力により、特定非営利活動法人「相双に新しい精神科医療保健福祉システムを作る会(通称:つくる会)」2が設立され、心のケアチームが実施してきた活動を継続的に行えるよう、今年1月に「相馬広域こころのケアセンターなごみ3」が開設された。
現在「なごみ」では、クリニックでの個別相談の他、仮設住宅におけるサロン活動、個人のお宅への訪問活動、消防士や教師といった公的機関に勤める職員のためのメンタルヘルス教室など、様々な活動を通じ、震災・津波・原発事故という複合的な災害に見舞われた地域のメンタルヘルスに関する支援活動等を行っている。
・・・と、言葉にするのは簡単だが、実際には大規模災害後の様々なメンタルヘルスのニーズに対応するため、スタッフの方々は日々大変な努力をされている。また、忘れてはならないのは、なごみで働くスタッフたちも「被災者」たちであるということだ。米倉センター長(写真左から2人目)ご自身も、震災・事故後に仕事を失い、なごみの仕事が決まる前は、パートの仕事をつなぎながら生計を支えてこられたそうだ。
今回の東日本大震災ならびに福島第一原発事故は、東北から関東の一部にまたがる大規模災害であり、ほとんどの地域において「支援者も被災者」であるということは、今後も続く復興支援を考える上で、常に心に留めておくべきことであろう。
同時に、特筆したいこととして、なごみの活動資金の一部は、米国日本人医師会4、Japan Society5といった米国の団体からの助成金であり、今後も助成継続が決定されているということである。
東日本大震災以降、米国では日本の復興支援のために数々の基金が作られているが、なごみに資金を援助している米国日本人医師会、Japan Societyの場合、設立から今後3年間の助成金の継続支援を決定している。というのも、特定非営利活動法人等、社会的ニーズに対応するための団体・法人であっても、設立当初はとかく活動資金不足に陥りやすいからである。しかし、設立~活動が軌道に乗りはじめるであろうまでの約3年の間、決まった額の助成金を受け取ることが確定していれば、その間被災者のため、また地域のための活動に集中できるし、また助成金の期限が切れた後の活動展開のための準備もできる。そういった先々のことを考えて、遠くアメリカから被災地にむけて多額の助成金が送られているということを、復興支援に携わる人たちにぜひ知ってほしいと思う。
なごみの活動はまだ1年目。色々と大変なこともあると思うが、世界からの善意の期待に応えるべく、益々の活動の充実と発展を期待したい。
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