コラム

Ruby言語はいかにしてグローバルになり得たのか?- 情報発信の重要性について -

2012年04月11日

(荻原 邦男)

まことに唐突だが、Ruby言語という、わが国発の世界に誇りうるプログラム言語がある。これは、まつもとゆきひろさんが90年代前半に開発し継続して発展させてきたオブジェクト指向言語なのだが、このたび国際規格として承認され、いまや国際的な認知も定着している。IT業界の方はもちろん、ご存知の方も多いだろう。最近では、Rubyを利用した新たなビジネスの創出に向けた取り組みがわが国でも活発化しているようである。

Rubyがここまでグローバルに活用されるようになった要因として、以下の点が挙げられるだろう。

(1) まず、言語の出来がもともと良いことだ。言語開発者である まつもとさんの創造性・感性に帰するものであるが、日本人の感性の肌理の細かさが、機能のバランス良い結合や、ユーザーの使いやすさ向上に、大いに活かされたものと言ってよいだろう。

(2) ただ、いくら良い物であっても、それを他人が知らなければ普及はしない。Rubyにおいては、この言語の初めての本格的な解説書が、IT業界で著名な米国人によって米国で発行されたことが大きかった。同時に、わが国の関係者がネット上で英語による解説記事を多く発信されていたことも著者から評価されている。その後、海外における言語のカンファレンスに積極的に出向いてコミュニケートする開発者の姿勢も普及を後押しした。

(3) また、言語の普及期にRuby On Railsと呼ばれるキラーアプリケーションが登場したことが決定的であった。優れたWebアプリケーションフレームワークとして注目を集め、これがRubyの知名度を一気に高めた。

(4) さらに言えば、オープンソースであるRubyの開発・利用に関するコミュニティが良質なことである。このことも言語の魅力を高める大きな要因となっており、海外からも評価されている。

知的生産の場でわが国の貢献の重要性が指摘される昨今であるが、プログラム言語といった基礎的な領域で日本人たちが活躍するのを見るのは実に楽しいことである。こうした成功事例を見るにつけ、コアとなる技術の重要性もさることながら、広く海外の人たちと円滑にコミュニケートし、世界に向けて積極的に発信していく努力が重要と言えるだろう。

さて、わが国は引き続きデフレ経済に悩んでいるが、これに関する経験を国際的な場で発信し共有していくことの重要性が指摘されて久しい。旧聞に属するが(本年1月)、ロンドンにおける日銀総裁の講演録「デレバレッジと経済成長 ―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―」を読み、Beetlesを引き合いにした趣向といい、わが国のこの間の経験を伝えようという熱意が感じられ、感動したものであった。

翻ってわが国の生保もこの20年、超低金利のなかで貴重な経験をしてきたが、こうした点についての発信や情報共有は十分なのだろうか、少し気になるところである。
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