コラム

もしもエコノミストが「もしドラ」を読んだら

2010年12月16日

(櫨(はじ) 浩一)

1.2010年のベストセラー

筆者の世代だと、高校野球の女子マネージャーで「みなみ」と言えば、野球漫画タッチのヒロイン、浅倉南を思い起こす。今の世代は「もしドラ」の主人公「川島みなみ」を真っ先に思い起こすことになるのだろう。「もしドラ」こと「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、今年のベストセラーだそうだ。

女子高校生のアニメが描かれた表紙を見ると、なかなか買う気にはならなかったが、自宅にころがっていたのを読んでみると、学園小説としても面白いし、ドラッカーの「マネジメント」を実際の問題にどう適用するのかという解説として読んでも役に立つ。なるほど、ベストセラーになるというのも頷ける。

1990年代末から雑誌に連載された漫画「ヒカルの碁」はアニメ化もされて、囲碁棋士を目差す少年・少女が増えたという。「もしドラ」はアニメ化と映画化の計画があるそうで、この本がきっかけになって、経営学や経済学を目差す高校生が増えてくれれば良いことだと思う。

2.公務員という専門家を使いこなす

「もしドラ」のテーマは沈滞している高校野球部をマネージャーがどう活性化していったかという話だが、2009年夏の衆議院選挙における政権交代は、問題を抱えた企業が新経営陣を迎えた状況に例えることができるだろう。どうも問題企業の従業員は新経営陣の思うようには仕事をしてくれない。何事につけ現状を変えようとしない従業員に業を煮やした新経営陣は、政治主導というトップダウンによる経営革新を試みているが、激しい従業員からの抵抗を感じているというところだろうか。

「もしドラ」では、専門家をどう使いこなすかということもマネジメントの重要な要素として取り上げられている。民主党が衆議院選挙で掲げたマニフェストの実現に、様々な問題が生じていることを見ると、専門家である従業員の言い分にもそれなりの理はある。政治が行うべきことは、公務員の専門的な知識をうまく使いこなして、望ましい方向に導くことではないか。政治主導という言葉の本当の意味は、政治家が公務員の仕事を全部するということではないだろう。

3.もしも「もしドラ」を読んだら

筆者の友人に企業再生の専門家がいるが、彼によれば、企業を立て直すには従業員をいかにもり立てるのかということが重要だという。経営破綻に追い込まれた企業の従業員は、しばしば周囲から非難を浴び、冷たい目で見られがちだからだ。新経営陣が、こんな仕事のやり方をしているから会社がつぶれてしまうのだと、従業員を叩くだけでは経営問題は一向に改善しないだろう。野球部員になったのは野球をやりたいからであるように、多くの公務員は国民のために役に立ちたいという志をもって就職してきた人達だ。仕事の方向付けと意欲付けを間違えさえしなければ、倒産企業の従業員に対してよりも、大きな成果を得ることができるのではないか。

エコノミストが「もしドラ」を読んでも、マネジメントを行うわけではないので猫に小判で、このような駄文を書くだけだ。しかし、もしも政府のマネジメントを行う人達が「もしドラ」を読んだら、国民が本当に感動するような物語にすることもできるのではないだろうか。
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