コラム

G20の陰の主役:ユーロ圏内の不均衡

2010年10月27日

(櫨(はじ) 浩一)

1.主役は人民元

日本では韓国で開催されたG20で円高の進行を止めるために何か新たな合意が出てこないかと注目する向きも多かったが、世界的な関心事は人民元のレートを柔軟にするように、どうやって中国を説得するかということだった。

2000年代に入ってから中国の経常収支黒字は急速に拡大しており、米国の経常収支赤字拡大による世界的な経常収支の不均衡という問題を悪化させ、サブプライム問題の背景ともなっていた。中国に要求されていることは、はっきりしている。政府がコントロールしている人民元の為替レートを、より市場の動きにまかせて人民元を切り上げる速度を加速することだ。中国の輸出は鈍化し、輸入が増加して黒字は拡大しなくなり、世界的な国際収支の均衡に役に立つ。

2.突然の米提案

米国は、事前の報道にはなかった経常収支黒字国の黒字幅を名目GDPの一定幅に抑えるようにするという提案をして驚かせた。ここで急に浮き上がってきたのが、ドイツの経常収支黒字の大きさだ。ユーロ圏全体としてみれば2008、2009年の経常収支は若干の赤字だが、GDP比で1%にも達しておらず、大きな不均衡があるわけではない。しかし、国別に見ればドイツやオランダは大幅な黒字となっている一方で、ギリシャやスペインは大幅な赤字だ。
中国の経常収支黒字は、困難ではあるにせよ縮小の処方箋がはっきりしているのに対して、ユーロ圏の経常収支不均衡は、そもそも問題解決の処方箋自体が難しい。ユーロを切り上げてドイツの経常収支黒字を縮小させると、今度はギリシャやスペインの経常収支赤字が拡大してしまうからだ。

3.困難なユーロ圏内の調整

ユーロ発足時の1999年を基準としてユーロ圏内の物価を比較すると、ドイツとギリシャでは2割程度も物価水準の差が開いたことになる。ユーロ圏内の経常収支不均衡が解消されるためには、ドイツとギリシャの物価水準の差が大幅に縮小しなくてはならない。ギリシャの物価水準を下げるのは失業の悪化など大きな痛みを伴うし、インフレで調整ということはドイツが受け入れないだろう。結局、時間をかけて少しずつドイツやギリシャなどの物価格差を縮小する以外には手立てがなさそうだ。
「経常収支=財政収支+民間部門の貯蓄投資バランス」という関係からは、ドイツが財政赤字の縮小を進めると、さらに経常収支の黒字幅が拡大する可能性が高いことが分かる。米国はドイツなどに財政赤字の縮小を急ぐべきではないというシグナルを送ったとも言える。

今回のG20は小康状態にある欧州経済の問題が解決までに時間のかかるやっかいなものであることを改めて浮彫りにした。大きく取り上げられることは無かったがユーロ圏内の不均衡問題は陰の主役だったと言えるだろう。
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