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分譲マンションは「不利な金融商品」か?
2008年08月12日
(松村 徹)
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年金不安など家計のリスクが高まる中、われわれは金融リテラシーをしっかり身につけるべき、という意見にはまったく同感である。ただ、個人の金融リテラシーが高まると、分譲マンションはますます売りづらくなるだろう。つまり、新築の分譲マンションを金融商品という視点でみると、物件の資産価値は年々目減りするため、住宅ローンを組んでまで投資すべきでない、という結論になるからだ。
1980年代まで、不動産は借金をしてでも購入すべき最も有利な資産である、と企業も個人も考えていた。土地神話が過去のものとなった現在、新築分譲マンションは、人生最大の買い物とされるほど投資単位が大きく、住宅ローンという大きな負債を抱え込む上、将来の大規模修繕には追加投資も必要で、ブランド地域の優良物件など一部を除けば、長く住めば住むほど値下がりは避けられない。耐震性能やコンクリートの品質などが偽装された欠陥商品をつかむリスクもあり、大幅な容積率未消化分でもない限り、建替えの合意形成もほぼ不可能に近い。このようにみれば、新築分譲マンションはハイリスク・ローリターンのかなり不利な資産であるといえ、頭金を他の資産運用に回し、賃貸マンションで生活する方が賢い選択と言えそうだ。
しかし、分譲マンションは金融商品の特性を持つと同時に、利用することにより減価していく償却資産でもあり、生活のために利用するという意味で自家用車と同じ大型耐久消費財でもある点に留意すべきである。確かに、ワンルームマンション投資は、金融の視点だけで評価すべきだが、マイホームでは自ら利用する価値の部分を無視できない。つまり、従前の住宅になかった間取りや広さ・設備・インテリアの実現、所有欲の充足、減価するとはいえある程度の資産価値が保持でき、相続できるという安心感、借金を背負っても万一の場合の保険がある、仕事のモチベーションが高まる、家族が喜ぶなど、マイホームで得られる便益も少なくない。
これを住宅投資のプレミアムとして積極的に評価できる人にとって、毎年の資産価値が減価しても人生の総合収支はマイナスにはならないはずだ。気に入った街の気に入ったマンションに長年住み、充実した人生を送れたのであれば、使い込まれた結果としての物理的劣化や資産価値の減価は、その対価として十分に受容できるものであろう。ただし、そのためには、優良なマンションを確実に購入する必要があり、金融リテラシーに加えて『住まい選びのリテラシー』も身につける必要がある。
また、マンションの資産価値を維持していくためには、購入後も専用部内の適切なメンテナンスを行うと同時に、管理組合活動に協力し、近隣住戸と円滑なコミュニケーションを心がけるなどの努力も惜しんではならない。自らが資産価値の維持に関与せざるをえないのも、マンション購入が株式や投信などの金融商品への投資とまったく異なる点である。
とはいえ、所有者が最善の努力をしても、ほとんどの物件は値下がりして当然、寿命はせいぜい40年、劣化・陳腐化が著しくても建替えは困難、という現状はやはりおかしい。背景にある躯体構造や中古住宅評価などの根深い問題が解決できない限り、「200年住宅ビジョン」は絵に描いた餅でしかないだろう。
(注)「不動産経済ファンドレビュー」2008年8月5日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。
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