コラム

団塊の世代と社会起業家

2007年09月18日

(神座 保彦)

団塊の世代において社会貢献への関心が高い。これは、ニッセイ基礎研究所が定年前後の中高年男性を1997年から8年間にわたってトレースしてきた「中高年パネル調査」の結果にも出ており、リタイア後の重要な関心事として社会貢献が浮上している。

ところで、このところ社会起業家という言葉が急速に市民の間に浸透しつつある。社会起業家は、社会貢献の世界にイノベーションを引き起こし、社会問題の画期的な解決をもたらそうとする存在である。書店をのぞくと、社会起業家が解決困難といわれた社会問題の解決に獅子奮迅の活躍をしている様子を伝える書籍がコーナーを飾り、有名雑誌が特集記事で社会起業家100人を取り上げるといった具合である。

団塊の世代も、出版物やインターネットといった様々な媒体を通じて社会起業家の先達たちの社会貢献に対する熱い思いに触れ、勇気づけられることが出来る。だが、それと同時に、彼らの持つ強烈なアントルプレナーシップには到底かなわないという思いに駆られるというのも現実ではないか。

アントルプレナーシップは、営利の世界では「起業家精神」と訳されてきた。営利の世界のアントルプレナーシップは利潤獲得の場面で発揮されるが、社会貢献の世界の「ソーシャル・アントルプレナーシップ」では、それが社会貢献の場面で発揮されている。

このアントルプレナーシップは、精神面だけが強調されると固有のパーソナリティーとしての色彩が強くなる。ただ、最近では、営利・非営利を問わずアントルプレナーシップの概念は拡張されてきており、固有のパーソナリティーに加え、イノベーションの推進者としての機能に注目する、あるいは、高いマネジメント能力を発揮して仕事を遂行する行動様式にも注目する流れとなっている。

拡張されたアントルプレナーシップの観点から見ると、ビジネスの世界で経験を積んできた団塊の世代の得意分野であるビジネスの知識・スキルを社会貢献の場面で活用する余地があることが見えてくる。

社会貢献は、それに対する強い「思い」が無ければ始まらない。ところが、「思い」だけでは物事は効率的には進まない。悪くすると、高邁な社会貢献の「思い」に賛同して集まった資金を非効率に使うという事態になりかねない。これは資金の出し手からすれば複雑な気持ちであろう。

より良いマネジメントが出来れば、同じお金でより大きな社会貢献成果を生み出すことが出来るはずである。社会貢献の現場には、団塊の世代の皆さんが、マネジメント能力を発揮する場所が残されている。

なお、ニッセイ基礎研究所の「中高年パネル調査」のエッセンスは定年前後の中高年男性の生活設計にお役立て頂くべく10月に朝日新聞社より「定年前 定年後」と題して出版の運びとなりましたので興味のある方はご高覧頂ければ幸いです。
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