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「朝青龍」から「シンボリック・アナリスト」まで
2007年09月07日
(栗林 敦子)
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調査研究といった仕事をしていると、情報の「解釈」に悩む事が往々にしてある。アンケートを行うなどして、あるものの支持率が明らかになったとき、それを多いと考えるか少ないと考えるか、周辺情報もあわせて多面的にかつ客観的に分析することを心がける。しかし、実際には、解釈者の立場や価値観がかなり影響する。与党側の立場に立てば現在の内閣支持率は低いと考え、野党側であればその逆と考えがちである。情報を収集し提供する立場の人間は常にそれを意識しているべきである。
しかし、インターネットや各種情報機器の発達で、世の中には数多くの情報発信者が登場し、提供される情報がどの程度信頼できるものなのか、なかなか判断しにくい時代になってきた。
また、最近はランキング情報が世に溢れている。商品の売れ筋情報ならともかく、ニュースでさえもランキングされる時代となった。メディアも注目度の高いニュースの提供に励むようになり、初期に注目されたニュースが深堀りされたりねじられたりして、結局は同じ話題ばかりが繰り返し伝えられる。ランキング情報は、ニュースの増幅装置の役割を果たしている。
この結果、ニュースの問題自体の大きさ、深刻さ、つまりニュースの本当の価値より、注目度の方が意味を持つようになり、情報の受け手はよほど自分自身で情報感度を高め情報価値を見抜く力を持たない限り、増幅されたニュースに振り回されることになる。
9月に入り他のニュースも目に入るようになったが、多くの人が夏休みをとった8月は、巷に流れるニュースは横綱「朝青龍」関連に終始した。夏休みで報道が「人手不足」だったのかもしれない。あるいは本当に「記事枯れ」だったのかもしれない。しかし、実は、メディアがランキングにこだわったためなのかもしれない。
そこで今流行の「格差」を考えてみよう。経済的な格差ばかりが注目されているが、実はこの格差の根元はこの「情報力」にあるのではないだろうか。周囲にある情報の本質を見抜き、社会や個人にとって何が有用かを考えて取捨選択して活用していく力である。懸念されたIT技術の利用に関するデジタル・ディバイドのその先にある、考える能力の問題である。当然、学校の成績といった学力とも異なる。
と、ここまで書いて、アメリカの元労働長官ロバート・B・ライシュの書いた「ザ・ワーク・オブ・ネイションズ」という本を思い出した。いささか古いが、日本では1991年に翻訳出版されたこの中では、アメリカが国際競争力を高めるために増やすべき仕事として「シンボリック・アナリスト」を細かく紹介していた。まさに、情報をきちんと解析し、頭を使って働く知識職であったと記憶している。
暑さにぼーっとしてランキングされたニュース記事にばかり振り回されていると、シンボリック・アナリストにはなれそうもない。ニュースが「朝青龍」ばかりだったとぼやいていると、シンボリック・アナリスト失格と言われそうだ。
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