櫨(はじ) 浩一(はじ こういち)
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1. 中越沖地震の経済への影響
7月16日に発生した中越沖地震では、自動車部品メーカーが被災し、一時国内の自動車生産がストップするなど、鉱工業生産への影響が出た。阪神淡路大震災の際には地震の発生した1月は鉱工業生産が前月比▲2.6%減少した。2004年の中越地震では10月の生産は▲1.1%の減少となっている。被災地域で生産していた部品が調達できなくなったことで、全国的に生産が停滞した。しかし翌月になると、国内の他の工場で部品を生産したり海外からの供給に切り替えたりするなどの対応が取られたこともあって、ほぼ震災前のレベルを回復している。
今回の地震では、報道によれば自動車の生産台数が12万台程度減少したと伝えられており、これを基に計算すると7月の鉱工業生産は1%弱押し下げられた可能性がある。自動車部品メーカーは生産を再開しており、今回も8月には震災の影響は見られなくなるだろう。
2. のど元過ぎれば
2004年秋から2005年春にかけて、国内では新潟県中越地震や福岡県西方沖地震が発生し、海外ではスマトラ島沖で大地震が発生したなどから、地震に対する関心が高まった。2005年には、政府の中央防災会議が首都圏直下型地震による被害想定をまとめ、死者は最悪のケースで1万3000人に及び、経済的な被害も日本の1年間のGDPの2割を上回る112兆円という規模にのぼるというショッキングな数字を提示したこともあって、地震への関心はさらに高まった。
阪神淡路大震災でも2004年の中越地震でも、特定製品の生産が集中することによる被害が発生し、企業は危険分散を図ろうとしたはずだが、実際には十分な対応がとられていなかったということになる。一時はさかんだった首都圏直下型地震に対する備えの議論も、最近は下火になっていた。のど元過ぎれば熱さを忘れるとは言うものの、熱しやすく冷めやすいというのは、わが国の欠点である。
3. 大阪に求められる予備機能
首都圏直下型地震による被害は、道路や建物の損壊などの直接的な経済被害も67兆円と大きいが、間接的な経済被害がこれに匹敵する45兆円となっている。これを最小限に食い止めるためには、国内の他の工場で部品を生産したり海外からの供給に切り替えたりするなどの対応が必要だが、各地に散らばる工場や支店は個々の判断だけで迅速な対応を取れるだろうか。
それにも増して懸念されるのは、政治・行政の中枢機能がマヒすることで救援や復旧活動に支障が出ることだ。長距離通勤が当たり前の首都圏で大震災が起きた際に、交通が寸断される中で霞ヶ関の中央官庁に職員が迅速にたどり着いて十分な機能が発揮できるとは期待できないだろう。
東海道新幹線ができた1964年ごろに、大阪に東京に匹敵する中枢機能を求める「東京・大阪二眼レフ論」がもてはやされたことがある。効率性や費用対効果を追求する中で東京へと中枢機能の集中は進み、レンズが二つ必要な二眼レフのカメラも廃れてしまった。起こるかどうかわからないことに備えるのは一見非効率でムダにも見えるが、実は必要なコストである。東京が打撃を受けた場合には代わって大阪が救援の指揮機能を発揮する、というバックアップ機能を予め用意しておくべきではないだろうか。
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