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家計金融資産に占める預貯金の割合が高いのはなぜか?
2001年11月19日
(石川 達哉)
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1.家計の金融資産に占める預貯金と株式の割合
日本の家計の資産選択は安全性重視で、リスクテイクに消極的だとよく言われる。確かに、保有金融資産の内訳を国際比較すると、日本の場合、現金・預貯金の割合が54%と突出して高い。株式の構成比が40%近くを占める米国とはきわめて対照的である。
金融商品を選択する際の基準についても、「元本が保証されている」を挙げる人が35%と最も多く、22%の「預入れ・払戻しが自由」がこれに次いでいる。収益性に関係する「利回りがよい」「値上がり益が期待できる」を挙げる人は合わせても18%しかいない。
これらの事実からは、わが国家計のリスク許容度は低く、安全性偏重の資産選択を行っているとする見方には疑念をさしはさむ余地がないかのように見える。
しかし、以下で見るように、資産を金融資産に限定せず、家屋や土地などの実物資産も含めた総資産ベースで議論すると、認識は根底から改めなければならない。
2.住宅・土地保有と負債および預貯金の関係
当たり前のことだが、家計部門が保有する資産には金融資産のほかに、家屋や土地などの実物資産があり、両者の和が総資産にほかならない。負債も考慮すれば、金融資産+実物資産-負債が正味資産となる。総資産ベースで国際比較すると、実物資産が総資産に占める割合に関しては、日本の方が米国よりもはるかに高い。持家の価格変動という面では日本の家計は現実にリスクを負っているのであり、実物資産と株式をリスク性資産とみなせば、リスク性資産の総資産に対する割合に関して、日本、米国、英国の差はほとんどない。
日本の場合、その持家の住宅ローンが家計部門の負債の大半を占めており、住宅ローン残高の増加額は住宅投資額に連動している。住宅取得の資金に関して、自己資金はだいたい半分であり、残り半分は借入に依存している。自己資金の割合を多くすればその分だけ借入を少なくできるが、金融資産のかたちで蓄えた資金のすべてを住宅取得に充当するのではなく、一部は金融資産のまま残すのが、一般的であろう。生活を営むうえで起こり得る不時の出費に備えるためである。
ここで注目したいのは、住宅取得とひきかえに負債を背負うことになった世帯の金融資産の内訳である。流動性と安全性の高い資産、すなわち、預貯金が優先されるのは当然のことである。実際、負債の総資産に対する割合と金融資産に占める預貯金の割合の推移を見ると、両者は驚くほど似通った動きをしている。地価が右上がりを続けていた時代においてさえ、家屋や土地は流動性の面では不利な資産であった。土地が必ず値上がりするものとはみなされなくなった現在、住宅ローンを抱える世帯が以前に増して預貯金中心の金融資産構成とするのは、きわめて理にかなっている。
逆に言えば、家屋や土地の流動性が高まれば、金融資産の中での配分においてもリスク性資産の比重を上げることができるはずである。もし、家計部門にリスクマネーの供給者として株式保有の積極化を期待するのであれば、株式関連税制を見直すだけでなく、不動産流通市場、とりわけ、中古住宅市場の活性化をはかることが重要であろう。
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