都道府県別に見た生産と民間資本および社会資本の長期的推移 -純資産ストック系列によるβConvergenceの検証-

2000年09月25日

(石川 達哉)

1.
本格的な高齢化社会の到来を前にして、国土と地域の調和ある発展という観点から地域の成長可能性に対する関心が高まる一方、社会資本整備や財政制度のあり方が改めて問い直されている。しかし、議論を突き詰めていくうえで前提となるはずの地域の経済成長の実態や社会資本との関連については共通の理解や認識があるとは言えない。
2.
特に、生活水準に直接関わる1人当たりの生産や所得について焦点を当て、1955 年度以降97 年度までの都道府県別の推移をみると、地域間格差は長期的に縮小傾向にある。当初の水準が低かった県ほどその後の1人当たり成長率が高かったからである。規模の経済効果が働けば、1人当たりのベースで見ても人口減少地域は不利になるはずだが、大都市への人口集中と地方からの人口流出が生じた高度経済成長期も含めて、所得格差が縮小している。
3.
地域間所得格差の縮小が実現したのは1人当たり民間資本の地域間格差が縮小したからである。高い収益率、高い投資効果が見込める地域が残っていれば、そうした地域への投資が促され、1人当たり民間資本、ひいては所得水準が平準化されるという収斂のメカニズムが働いたのである。75~97年度について都道府県別の純資本ストック系列を作成すると、地域間格差の縮小が継続してきたことが非常に明瞭に観察される。
4.
こうした収斂現象を成長論の立場から理論整合的に解釈したのがBarro & Sala-I-Martinである。戦後日本の高い経済成長率と地域間の所得収斂とは裏表の関係にある。彼らのモデルに基づいて計量分析を行うと、1人当たり民間資本の収斂過程が高い説明力をもって示される。計測された収束速度は年率3~4%である。
5.
収斂過程は1人当たり経済成長率が低下する過程でもある。同期間について、労働・民間資本・社会資本からなるトランスログ生産関数を推定すると、民間資本の限界生産力が長期的には低下していることが確認される。しかし、全要素生産性が上昇すれば、限界生産力や成長率は上昇し得る。そうしたプラスの生産性効果を社会資本がそなえていることも計測された。また、代替の弾力性の計測結果からは、社会資本と労働、社会資本と民間資本が補完関係にあることが示される。つまり、労働や民間資本が需要される局面では社会資本もより必要になると言え、地域経済における社会資本の重要性が改めて認識できる。

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