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円ドルレートの貿易収支調整効果とその長期的な動向の考え方
1996年12月01日
(井口 譲二)
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<要旨>
大幅な対外黒字、クリントン政権の円高誘導発言により、93年1月以降、急速な円高が進行した。当時、円高による貿易収支調整効果(黒字削減効果)があるか否かに関しては様々な議論が噴出したが、振り返ってみれば、「調整効果はあった」といえる。今回の円高がなかった場合、経常黒字のGDP比率は、過去最高水準である85年レベルまで膨らみ、「プラザ合意前夜」の状況が再来していたであろう。
貿易黒字縮小は、円高の進展によりある程度予想可能であったとしても、その減少ベース・規模は、一般の予測をはるかに上回るものであった。この貿易黒字減少の主因となった輸入急増は、主に海外生産比率上昇による逆輸入増加によるものであった。従来の円高効果に「円高→海外生産比率の上昇→逆輸入増加→貿易黒字減少」というメカニズムが加わり、予想以上に貿易黒字が減少したといえる。
為替レートは、やや長い目でみれば、インフレ率格差・対外不均衡・内外金利差の経済ファンダメンタルズに沿って動く内生変数である。時間軸で分けると「(長期的な)均衡レート」、「中短期の動き」の2つの動きで形成されている。
「均衡レート」は、マクロ約な対外(経常収支)・対内(完全雇用)均衡を達成する「マクロバランスレート」と一致する。「均衡レート」の算出については、様々な試みが行われているが、輸出入関数に構造変化が生じた際には「均衡レート」にも誤差が生じる。将来的な「均衡レート」の議論を行う際には、「貿易構造一定」等の前提を置く必要がある。
実際の為替レートの動きは、「均衡レート」 と一致するわけでなく、国際資本の移動を映じ、「均衡レート」からの乖離・収斂という「中短期の動き」を形成する。対外債権・債務残高拡大による国際金融市場の不安定化、G7による実質的な「緩やかなターゲットゾーン制度」導入から、「中短期の動き」の「均衡レート」からの乖離幅は縮小方向にある。今後の為替動向をみるにあたっては、「均衡レート」の方向性を考察することがますます重要となっている。
現状の貿易構造が持続すると緩やかながらも「均衡レート」の円高ドル安化が進む可能性が高い。しかし、海外生産比率上昇等、もう一段の貿易構造の変化が伴えば、円高方向への動きは更に緩やかなものとなると考えられる。今後の長期的な為替動向、「均衡レート」の方向性は貿易構造の変容がどこまで進むかにかかっている。
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