フィリピン経済の動向-望まれる構造改革-

1996年07月01日

(牛越 博文)

<要旨>

  1. フィリピン経済は、現在、ラモス政権の規制緩和政策等から順調に回復しており、投資環境が改善される中、海外から投資対象としても注目されている。しかし、未だ発展途上にあり、低所得水準にとどまっているのも事実である。
  2. フィリピン経済がこれまで持続的成長過程に移行できなかった構造的要因について、戦後の推移を振り返りながら検討・整理すると、地理、歴史、社会、政治的要因としては、自然災害の多発、絶え間のない政情不安などがあげられ、経済的要因としては、工業化の遅れ、貿易・経常収支赤字、対外債務の累積、財政赤字、金融市場の未発達-などが指摘できる。
  3. さらに、貧困の直接的な要因としては、1)農村の過剰労働力と農民の階層分化、2)農村からの人口流入にともなう都市におけるスラムの形成、3)大地主、地方有力者、財閥等による経済の寡占-が重要である。
  4. 最近のフィリピン経済の情勢は好調なものの、これまで経済停滞をもたらせてきた経済構造はほとんど改善されていない。フィリピン経済が最近の成長加速を維持し、中長期的な持続的成長経路に乗るためには、今後の課題は多いといえる。
  5. しかし、最近の直接投資の受け入れ増加傾向が注目され、工業化を牽引していく可能性は十分ある。その意味で、ラモス政権がすすめる規制緩和など経済改革は、外生的なショックをもたらせているという点で大いに評価ができる。
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