研究領域
最適地生産と高付加価値化で新たな成長に挑む家電産業
1996年05月01日
(吉久 雄司)
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<要旨>
90年代前半のAV家電産業は、市場成熟化によるリーディング商品の不在、円高進行にともなう海外生産シフト、製品価格の持続的低下により、深刻な低迷に陥っていた。しかし現在では海外生産を軸とした生産規模拡大に加えて、デジタル家電市場の立ち上がりなど新たな成長に向けた方向性が見え始めている。90年代後半の家電産業の成長戦略としては、(1)生産コスト極小化を主眼とする「最適地生産」、(2)デジタル家電による製品の「高付加価値化」が、主軸になると思われる。
今後90年代後半にかけて、最もコスト競争力を有する最適生産拠点として選択される可能性が高いのは、先発ASEAN地域(マレーシア・タイ・シンガポール)である。それは日系電子部品メーカーの集積により、部品調達面の優位性が大きいからである。ただし現状では先発ASEAN地域においても円コストの影響は強く、このため今後は海外での製品企画・設計の強化、現地部品メーカーの育成、機動的な現地経営組織の構築などを通じて、生産面・経営面の「脱円コスト」化をいっそう進める必要がある。
製品の高付加価値化を担うデジタル家電は、技術基盤の大きな転換にともなう新しいリーディング商品として期待され、画質や音質の良さや情報容量の増大など従来製品にない技術的特長を持っている。当面のデジタル化による付加価値アップは従来製品の機能拡張が中心であり、買替え需要が主な市場となる。そうした製品として普及が期待されるMD(ミニディスク)・DVC(デジタル・ビデオカメラ)・DVD(デジタル・ビデオディスク)等は従来製品の低迷をカバーし、90年代後半の緩やかな市場成長に寄与しよう。
将来的にはデジタル技術の特性を活かした「新カテゴリー製品」として、情報通信分野の要素を取り込んだ製品開発が期待されるが、その段階でわが国のAV家電産業が競争力を保持するためには、90年代後半における上記の2つの戦略推進による体力強化が不可欠である。またそうした「ハードメーカー」としての競争力強化に加えて、外部企業との連携を通じて重要性が高まる「ソフト」分野のノウハウ蓄積に努め、ハードとソフトを事業の両輪としてその相乗効果により収益拡大を目指す、「マルチメディア産業」へと脱皮を進めることも期待されよう。
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吉久 雄司
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