米国における時価会計を巡る議論について-FAS115号(有価証券の時価評価)と金融機関の動向を中心として-

1993年10月01日

(栁田 宗彦)

<要旨>

  1. 生命保険会社や銀行といった金融機関の抱えるリスクは、経営環境の変化を大きく受けているだけでなく、資産・負債の両側に金融商品を保有していることから、格段に大きくなっている。このような金融機関の経営実態、財務状態を表す情報として、時価情報の有用性があることが認められている。
  2. 従来、米国の金融機関では、債券等は取得原価(均等利回り評価額)によって評価していた。しかし、これを利用した「益だし」といった利益操作行動がみられ、また、金融機関の倒産に結びついていたことが指摘されている。そのため、「益だし」の排除および経営実態の表示のためにSEC等は時価会計を支持してきている。
  3. 今年の5月にFASBはFAS115号『債務および持分証券への投資の会計処理』を完成した。この基準書も時価会計を推進するものであり、従来から進めてきた時価会計についてのプロジェク卜を時価情報開示のステップから会計処理のステップへと発展させている。今後は有価証券だけでなくその他の資産、さらには負債についても時価会計が進んでいくことも予想されている。
  4. 金融機関は、今回公表された基準書の時価会計に対してこれまで反対の立場をとってきたがその意に反して基準書として公表された。その結果、金融機関の自己資本の変動や投資ポートフォリオの組み換えが必要となることが予想されている。さらにこれらの金融機関の行動により、米国における社債市場やモーゲージ市場に与える影響が懸念されている。
  5. わが国において今後のリスク管理を考えるにあたっては、米国における環境とは異なる面があるものの、(1)時価に関するディスクロージャーの充実、(2)オフバランス取引についてのディスクロージャーもしくは認識・測定についての検討、(3)金融機関等の抱えるリスクの評価方法の確立、(4)資産・負債の両面のバランスのとれた評価方法の確立、について検討が要請される段階にさしかかりつつあるものと思われる。
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