変動相場制の見直しについて

1988年10月01日

(細見 卓)

先進工業国においては、戦後産業政策、福祉政策等の面における国家の役割が大きくなり、しかも、世界経済の情勢の変化にさらされてそれら政策の遂行が時には困難に陥ることが多かった。特に世界経済の情勢が変化するにもかかわらず、固定相場制で通貨の対外価値を一定に保つためには、国内政策を犠牲にしなければならないケースが多かった。なかんずく、アメリカは戦後の圧倒的な経済力が漸次相対的に弱化してゆくにもかかわらず固定相場すなわちドルと金とのリンクを強いられてきた。そのことがアメリカの経済力と為替レートとの乖離を非常に大きくしてしまい、そのためにニクソンショックと言われるドルと金とのリンクを断ち切った形の言わばドルの変動制を生み山した。その後スミソニアンの合意によって一時的に固定相場制の復活をみたけれども、再び各国間の為替相場の変動を招き、ついに変動相場制をとらざるを得なくなったのが歴史の経過である。

したがって、発生的には変動相場制が元々あって固定相場制に変わったというのではなく、固定相場制を維持できなくなって、やむにやまれず変動相場制を選択したということである。すなわち、国内政策を重視して通貨の対外価値については市場にまかせるといった放任政策の結果が変動相場制となったのである。

勿論、一部の論者は、変動相場制こそ関係国の国内政策にフリーハンドの自由を与え、その結果の為替相場については市場に任せるという望ましい政策であり、そのことによって国内政策の一貫性を保持できるという積極的支持を行っている。変動相場制を支持するにせよしないにせよ、その後に起こったオイルショック、引き続く世界的インフレの情勢下にあっては、固定相場制を維持できたわけでなく変動相場制であったためにそれらの危機を乗り切ったと言えよう。

しかしながら、各国経済の相互依存性が非常に大きい現状においては、その輪出価絡や輸入価格が大幅に変動するということは国民経済にかなりの動揺を与えるものであったため、変動相場制をとるとしても、これに何らかの枠をはめるとか、変動をなめらかにすべきとかの議論は絶えず繰り返されている。最近では、為替変動の幅に関してターゲットゾーンとかリファレンスゾーンとかの何らかの制限を行うという考え方、あるいは金利その他のささいな経済現象によって資本が大量に移動することを抑制する制度を作るべきという論が行われている。また、プラザ会議以来、まず各国の経済政策の協調を図って実態面での経済関係を安定させ、しいては為替相湯も安定させるという先進国首脳の合意が実行され多少のでこぼこはあったとしても、過度の変動は概ね抑えられるところにきている。そこで、一歩進めてこの安定を一挙に制度化してはどうかという論もまま聞かれるところであるが、世界経済の不均衡、なかんずく国際収支の赤字国、黒字国の不均衡、インフレの鎮静化も未完成の現状からみれば、時機尚早と言わざるをえない。

日本のように主要原材料を輸入に頼り、それで作った製品を輸出して輸入代金をまかなっているようないわば為替レートが経済運営の支柱となっている国では、安定した相場、固定相場制が望ましいが、世界経済の現状をみると今すぐ実硯するということは現実的ではなく、変動相場制の巧みな運営を心掛けてゆくのが当面の道筋と思われる。

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