2025年10月16日開催

パネルディスカッション

トランプ2.0がもたらす変化と日本の針路

パネリスト
杉山 晋輔氏 外務省顧問
佐橋 亮氏 東京大学東洋文化研究所 教授
羽生田 慶介氏 株式会社オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO
矢嶋 康次 ニッセイ基礎研究所 専務理事 エグゼクティブ・フェロー
モデレータ
伊藤 さゆり 常務理事

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2025年10月「トランプ2.0で変わる世界と日本」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催いたしました。

外務省顧問 杉山 晋輔氏をお招きして「第2次トランプ政権と国際社会」をテーマに講演いただきました。
 
パネルディスカッションでは「トランプ2.0がもたらす変化と日本の針路」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

※ 当日資料はこちら
   

はじめに

■大畑 それでは、パネルディスカッションに移ります。モデレーターを務めますのは、弊社常務理事の伊藤さゆりでございます。ここからの進行は、伊藤にバトンタッチいたします。
 
■伊藤 それでは、基礎研シンポジウム後半のパネルディスカッションを始めたいと思います。本日モデレーターを務めさせていただきます、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆりでございます。どうぞよろしくお願いいたします。

パネルのテーマは「トランプ2.0がもたらす変化と日本の針路」ということで設定させていただきました。第2期トランプ政権がスタートしてから9カ月あまりが経過しましたが、この間に国際秩序、あるいは主要国、地域の関係、世界経済がどう変わってきたのか。それから、これから先どう変わっていくのか。さらに、トランプ2.0がもたらす変化への日本の外交・通商・安全保障戦略や、日本企業の戦略の在り方について掘り下げていければと考えております。

まずはパネリストの皆さまからご講演を頂き、それを踏まえてディスカッションを展開していきたいと思います。ご登壇いただくパネリストは、東京大学東洋文化研究所教授の佐橋亮様、オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介様、当研究所からは、矢嶋康次専務理事、エグゼクティブ・フェローが参加いたします。また、本日基調講演を頂きました外務省顧問・元駐米大使の杉山晋輔様にもご参加いただきます。それでは早速、講演に移りたいと思います。まずは佐橋様から始めていただければと思います。

プレゼンテーション1

■佐橋 東京大学の佐橋です。今日はよろしくお願いします。先ほど杉山大使から素晴らしい基調講演があり、本当にそのとおりだと思います。ただ、私はもう少し悲観的に思っているということを後で申し上げたいと思います。

私からは、私自身の見方を10~15分でお話ししたいと思います。といっても、私は近ごろ『トランプのアメリカ』という本を編者として東京大学出版会から出しました。その中で久保文明防衛大学校長をはじめ、かなり強力なラインナップの12人の素晴らしい先生方に書いていただきました。選挙のこと、トランプ政権のことはぜひそちらもご参照いただければと思います。

1――アメリカの思想

アメリカは今、非常に大きくうごめいているし、国際政治もこれまでにないほどの速度で変わっています。この9~10月だけでも本当にいろいろなことがありました。

例えば、天津・北京で中国が設定した上海協力機構首脳会議が開かれ、世界のリーダーが雁首そろえてやって来て、みんな喜んで歩いているわけです。そして、中国はグローバル・ガバナンス・イニシアチブという、中身には乏しい構想を打ち出しました。そうかと思えば、アメリカはアメリカで、いきなり中東・ガザの和平案をまとめてみせたりする。これからAPEC首脳会議や米中首脳会談が始まりますが、その前にお互いが関税だとか、レアアースの規制だとか、米中双方がいろいろな形でジャブを繰り返している。下手をすると、昨日、韓国の統一省が、あれは彼らのお役目ですけれども、匂わせたように、板門店か何かで金正恩とトランプの会談があるかもしれない。
 
もう本当に何でもありのような感じです。私たち学者の言葉では、ある程度の価値観とルールに従って、似たようなパターンが繰り返されることを秩序といいますが、今は秩序とは何ですかという感じです。秩序というものを見いだしづらい、常に何が起こるか分からないという状況になっていることは確かですし、それはやはり時代の大きな変化だと思います。

これはトランプ1.0のときよりも本物だと思います。先ほど大使がおっしゃったように、トランプ政権のスタートダッシュが本当に激しいです。今回は4年間頑張って準備してきたから、前回のようなスタートアップ期間は要らないというのもあります。ただ、それ以上に、世界もトランプ時代のアメリカに対する対応も、それ以外に自国を自力で更生していくためにも新しい対応が必要だということにも完全に気付いています。

思い出してほしいのですが、4年半前、2020年末~2021年1月の大統領選挙のときには、皆「トランプ政権があと4年続いたら本当にまずいのではないか」と思っていたわけです。まさにそれが今、来ているわけです。だから世界は非常に早く反応しているし、アメリカも非常に準備してきた中で反応している。そういった時代だと思います。

最近、アメリカの政治思想に注目する考え方も非常に重要になってきています。最近では神戸大学教授の井上弘貴さんが『アメリカの新右翼』という大変素晴らしい本を書かれましたし、共同通信出身の会田弘継先生も非常にいい本を書いています。例えば、どうしてテック右翼と呼ばれている人がいるのか、どういう人たちがトランプまたはMAGA運動を支えているのか、これを理解するのはとても大事です。

ただ、私がそれ以上に今重要だと思うのは、トランプさんをよく見なければいけない。今回は前回以上に彼を支えるための、彼と彼のファミリーを支えるための体制がきちんと構築されている。そしてそれはある意味融通無碍ですし、非常に私利私欲に引っ張られているところもあるのです。中東政策を見ても、そういう個人的なものがあるというのはみんな分かっているわけです。しかし、そういうことをひっくるめて、トランプさんにより注目しておかないといけない。思想プラス、それ以上にトランプ、トランプファミリーを見ておかなくてはいけないというのが私から申し上げておきたいことです。
 
最近では、米軍との関係は非常に面白いところです。800人の最高幹部を集めて国防長官、大統領が演説をして、何をやっているのだろうと思いましたが、それでいて軍事主義のアメリカなのかというと、これは違うと思います。イランの核施設に対してバンカーバスターをぶち込みましたが、アメリカは軍事主義や覇権主義なのかというと、私は全くそう思いません。あくまでも機会主義的に軍事力に手を伸ばすことはあっても、アメリカはまだまだ本格的な介入型政権ではない。このあたりはやはり見過ごしてはいけない特徴だと思います。

もちろん個人の名誉、栄誉、そしてそれはやがて彼の保身にもつながる。だからピースメーカーとしてのトランプという要素も忘れてはいけません。しかし、ではネオコンに支配されていたといわれるかつてのブッシュ政権のように、外に積極的に軍事力を投射していく政権かというと、そうは思いません。

軍事力をちらつかせたりするけれども、その主たる目標はかつてほどの介入主義ではない。そして、これから公表されるといわれている国家防衛戦略にもおそらく書かれるとされている、ホームランド・セキュリティ(国土安全保障)が大事なのです。そして、テロと並んで今は麻薬対策が大事だと思われています。
 
そういう形で考えると、外に積極的に打って出ていく政権ではなく、覇権戦略でもなく、非常にアメリカの利益中心で考えていますし、そして軍事は、今、言ったような形でホームランド・セキュリティを中心に考えているけれども、やはり本当に欲しいものは経済の利益だと考えるのがよいのではないかと思っております。これが申し上げたかったことの一つ目です。

2――米中対立はどうなるのか

二つ目が、私は米中関係を専門にしておりますので、米中関係は今どうなのかということです。最近動きがたくさんありました。ただ、私は思うのですが、まだ彼らは「交渉を続けなくてはいけない」という魔法にかかっています。だから、押したり引いたりいろいろやっていますが、最後はマーケットの圧力も加わって、まだまだ交渉の範囲内だと思います。6、7年前を思い出してください。あのときはもっとひどく、ジグザグ走行をしていました。

TACO(Trump Always Chickens Out)という言葉が最近はやっていますけれども、それは以前からそうです。前のときの方がよほどTACOです。それはやはり、両国ともまだ交渉シーズン、交渉モードだからです。中国は時間を稼いだ方が利益があるのでよい。アメリカも、今の段階から見ると、いったんは交渉をまとめるのではないかと思います。そうすると、今月最終週に米中がいったん握ることはあるでしょう。

問題は、その握り方がどこまで強いかです。経済でどこまで大きいかということと、本当に台湾に関して何かやるのかということです。そしてもう一つ大事な論点は、その持続力はどこまでかということです。私は台湾に関して若干まだ心配をしていますが、トランプさんやその周辺は、台湾に対してそもそも厳しく、冷たい。従って、中国側に乗せられて変なことを言うのではないかと心配をしています。ただ、合意は今年中というよりは来年のトランプの訪中かもしれませんが、いったんはまとまるかもしれません。

問題はその後です。これがどこまで続くか。私はそれほど楽観していません。中国は、台湾海峡や南シナ海といったことではなく、アメリカから三つの意味で非常に大きな敵意を集めています。バイデン政権までと異なるロジックだと私は考えています。一つ目は、中国はグローバル経済を利用して勝ち上がってアメリカを圧倒した相手ということです。ピーター・ティールではないですが、アメリカから見たら中国の製品などアメリカのコピペでしょうと言いたくなるときは私もあります。ゼロから1をつくっていないではないかということです。二つ目に、合成麻薬フェンタニルの問題は本当に厳しいです。アメリカにとってのこの問題の大きさには注意を払っておくべきです。三つ目は、宗教観です。今のトランプ政権は、よく言われているとおり、福音派も強いですけれども、哲学、思想のレベルでカトリックが極めて強いのです。こういった方々にとって、中国というのは文明論的に相いれない相手なのです。

そのように考えて、私は米中関係に関して長期的に楽観できる材料は全くないと思います。中国はこのことを嫌というほど分かっています。中国専門家は、党内の人も含めて私はよく知っていますが、本当に同じ感覚です。われわれよりも厳しい感覚です。だから、彼らはいつも「底線思考」「極限思考」と言っているわけです。ですから、米中は長期的には良くないだろうなと思います。今は魔法にかかっているけれど、そのうち負のスパイラルに陥るのではないかと思います。

3――アジア情勢への影響

まとめに入る前に一つだけ説明しておきたいのですが、北朝鮮との交渉が行われても全然不思議ではないと思います。これは皆さんのご意見もぜひ後で聞きたいのですが、問題は、露朝だけでなく、中国も北朝鮮との関係の修復に若干前向きになった中、交渉をまとめるのは相当大変です。そのときに、果たしてどこまでアメリカ側が韓国や日本の死活的利益を守ってくれるのかというのは本当に考えておいた方がいいと思います。
 
アメリカは同盟国のいうことをちゃんと聞いてくれる国なのか。これは分かりません。ただ、ヨーロッパも確かにあのような姿勢で、トランプに頭を下げながらやっている。影響力を生んでいるか、アメリカに対してレバレッジ(梃子)をつくれているかというと、結構微妙なラインだと思います。ただ、不思議なことに日本はなぜかアジアの国の中では一番レバレッジをつくれている方だと思いますし、関税交渉もまあまあ悪くなかったと思います。これを今後どこまでレバレッジにしていけるのか。

逆に最初からそれに甘えてしまっては関係が破綻してしまうかもしれない。これは新政権に対する懸念であって、後でぜひまた議論の中で話す機会があればと思っています。ただ、日本は他の同盟国に比べても、アジアの国に比べても、まともな位置にあると思います。

4――今後への提案

私は最初から申し上げているとおり、トランプ政権に対しては相当に懸念しています。何があってもおかしくないですし、今回はより個人商店感が増しています。そして、彼らは「これまで」にとらわれない。米中関係も、トランプさんだけでなくアメリカ社会的に、悪くなる要素が満載です。だから、良くないシナリオばかり考えつくわけです。

ただ、これからの世界はそういう悪いシナリオを、正常化バイアスを超えて考えるということが企業活動にとって本当に重要な時代だと思います。ここは私がよく言っていることなので皆さん既に知っているかもしれませんが、とにかく「底線思考」であるということです。
 
そのときに本当に念頭に置いておいていただきたいことは、まず一つは、アメリカはこれまでの国際秩序を徹底的に否定しているのです。ドルに関しては、杉山大使は基軸通貨としてのドルをベッセントは非常に重要視していると仰いました。それはそのとおりだと思うのですが、政権内には異論もある。ドル以外は結構危ないです。自由貿易、市場の部分は全く(他国に)使わせる余地がありません。同盟のところも彼らはあまり重要視していません。

これまでの国際秩序を支えていた三本柱である、米市場、ドル、同盟、このあたりについてのアメリカの感覚が相当厳しくなっている。そして彼らは秩序の提供者から秩序の回収者、捕食者になったと言ってもいい、要するにこれまで自分たちが提供してきたものを回収しようとしているわけです。この視点を我々はしっかり持っておいた方がいいと思います。油断すると、同盟国だから大丈夫かとなるのですが、そうした考えは持たない方がいいと思います。

重要なのは、アメリカとの関係を基軸にした上に何を立てるかというプランAプラスの思考だと私は思っています。それを外れてしまって自立とか日本独自でとなると、それは杉山大使と同様に反対です。非常に慎重になった方がいいと思います。

最後に企業の皆さまに申し上げておきたいのは、これからはアメリカとの関係が、今言ったようにプランAプラスへいくべきなのですが、顕教と密教が大事だと考えています。私たち安保屋の世界では、日米安保には顕教と密教があると言いますが、顕教とは、アメリカを支え、グローバルサウスとの関係を基軸に国際秩序を立て直す、自由貿易などCPTPPの拡大を考える等々、きれいごとの世界です。きれいごとと言ったら怒られるかもしれませんが、それが顕教の世界です。

他方、それをやった上で、密教もやっておくべきなのです。密教は何か。先ほどから言っているように、最悪に備える、その中で特に最悪なのは一つ目がデカップリングです。これからは本当にデカップリングが当たり前の世の中になるかもしれない。二つ目、各地域とかセグメントごとにルールがばらばらになってフラグメント化する。これも普通にあり得ます。そして三つ目、それを前提に企業戦略を一から練り直すことが必要だと思います。やはりこれまでと同じようなことでは対応できないわけです。だからそのコストを織り込んでおく、リスクを織り込んでおく。

顕教と密教を分けておかないと、立ちゆかなくなると思います。顕教の部分は口で言っておけばいいのです。ただ、密教をどうやってやるかということがこれから大事なのではないかと思います。以上です。ありがとうございました。
 
■伊藤 ありがとうございました。それでは、続きまして羽生田様、ご準備がよろしければご講演を始めてください。

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