2018年10月17日開催

基調講演

人を活かす働き方を考える

講師 津田塾大学 客員教授|元厚生労働事務次官 村木 厚子氏

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4—2.高齢者の就業率向上

女性と違って高齢者の活躍は、日本は国際的に見るとすごくいいのです。ちょっとだけ高齢者の話をすると、年齢ごとにボランティアをしている人の割合がどれぐらいあるかというデータです。一番高いのは70代前半の男性です。これだけのパワーが日本の高齢者にはある。女性もそう低くはないのです。仕事を辞めた後もかなりパワーを残しているのが日本の高齢者です。

皆さんのイメージだと、日本の高齢者は60歳定年から65歳までの雇用延長で、高齢者はより働くようになってきているというふうに思っているかもしれません。実は、もう少し長期に見ると、高齢者の就業率はずっと落ちてきて、最近やっとちょっと反転しただけです。

これは何かというと、農業や自営業がなくなって、みんなサラリーマンになったので、60歳でスパンと仕事から切りはなされる。実はもっと高齢になっても、自分に合ったやり方で働いていたのが日本人です。これをもう一回上手に、自分に合ったやり方で働く仕組みを作れるかどうかも、日本にとってはかなり大きな課題だと思っています。

これをちょっと見ていただくと、横軸がそれぞれの県の高齢者医療にかかる1人当たりのお金です。縦軸は、その県の高齢者の就業率です。見事に高齢者が働いている県ほど医療費が安いというのが出ている。生涯現役は介護予防の最大の手段だというふうにいわれていますけれども、そういうこともありますのでぜひと思います。

6——むすび

4—3.障害者の就業率向上

もう一つだけ潜在的なパワーの話をしたいと思います。障害者です。障害者の話は、役人出身の私、厚労省出身の私が非常に話しにくい状況が今生じているので、本当に申し訳ないことだと思っていますが、官庁があれだけ虚偽の報告があったということで、これから官庁は必死で障害者雇用に再度取り組み直すことになると思います。官庁に関して性善説でやっていたということは、本当にお詫び申し上げなければいけないと思います。

障害者雇用もどんどん制度が変わってきて、昔は身体だけ雇用義務がかかっていた。それが知的、ついに精神が加わったということです。大手の企業、それから公務員が厳しいのは、知的や精神、特に公務員の場合は、試験制度なのでそういう方が雇えていないというのは非常に障害者雇用にとってダメージなのだと思います。そういう中にあっても、最近本当に雇用率もずっと過去最高ということで、本当に企業の皆さんにご協力を頂いていると思います。

障害者については、一つだけちょっとご紹介したいものがあります。これはちょっとお借りして持ってきたものですが、何かあったらぜひ資料として使っていただけたらと思います。作ったのはIBMなのですが、IBMの社内で使っているのではなくて、IBMと一緒に、今日お集まりのような非常に大手の企業の会長や社長自らが、障害者雇用について合宿勉強会をやるときに使う資料です。

障害者雇用には三つのフェーズがある。コンプラ対応、障害者雇用率は法律で決められているから守らなければいけないということで雇う。二つ目はCSR対応ということで、一つの社会貢献として障害者の問題に取り組むということ。三つ目は、本当に戦力として使えているか、戦力になってもらえているかという、企業のコアのところで成長に資する形で障害者が活躍しているかどうか。この三つのフェーズに分けて、自分の会社の障害者雇用を分析してみる。

合宿では、社長さん、会長さん自らがこのシートに書き込んでいきます。自分のところは何ができているからレベルはこの辺だと。これは、障害のある人たちが働くという意味では非常にいい視点が入っているシートなので、ぜひお使いいただければというふうに思って持ってきました。

女性や高齢者や障害者と申し上げましたけれども、これだけ働き手が減る中で、支え手をどうやって増やすかがこの国の非常に大事な課題になっているという状況です。
 

5——一億総活躍

5——一億総活躍

女性活躍の次に登場してきたのが、この一億総活躍です。ここにある、今見ていただいているレポートは、平成25年、5年前の雇用政策研究会の報告をまとめたものです。一億総活躍という言葉が出回る2年ぐらい前なのですけれど、非常に私は好きなレポートなのでここに持ってきました。赤字で書いてあるところが三つありますが、大事なのはこの三つです。

まず一つは、危機感を持って「全員参加の社会」を実現する。要するに、みんなに支え手になってもらおうということです。これは非常に大事なことだと思っています。これは実は日本だけではなくて、G20の雇用労働大臣会合のここ5年ぐらいのテーマがこれです。

全く世界は同じ方向を向いているのですが、ではみんなに働く場に参加してもらうためには何が必要か。左の方にある赤字です。いろいろな人が参加するので、その人その人に合った場所で働いてもらう。最適の場所で働いてもらって、一人一人の能力を最大活用する。最大活用という言葉はあまり好きではなくて、活躍の方がいいと思うのですが、いろいろな人が入ってくる。そうすると、持っている力は違う。得意技も違います。でも、それぞれの人のパワーを最大限に発揮をさせることが大事だというふうに言っている。

そういうことをやって最後に何をするのかというのが一番上の赤字のところです。仕事を通じた一人一人の成長と社会全体の成長の好循環。もうちょっと丁寧に言えば、仕事を通じた一人一人の成長と、それによる会社や役所といった組織の成長と、それによる社会全体の成長の好循環をどうやって実現していくかということが大事になるということです。
 

6——働き方改革

6——働き方改革

こういう考え方が整理された中で出てきたのが働き方改革です。いろいろな人が参加して働くときに、みんなの力をその人その人ごとに全部最大限に活かせるような組織はどうやってつくればいいのかということで整理したのが働き方改革だというふうに、私自身は思っています。

すみません。役所の資料をもらってくると字が多い。本当にラッピングが下手な証拠みたいな資料になっていますが、この働き方改革そのものの資料はネット上でも見ていただけるのでぜひ見ていただきたいのですけれども、働き方改革を総合的にやっていこうということで今度の改正法はできています。

一番注目されるのは、残業時間の上限設定だと思います。過労死水準を上回るようなことにならないように上限設定をする。日本はやはり残業時間が非常に長い国です。

実は私、津田塾で1年生の授業を持っているのです。キャリア開発というテーマの授業なので、働くことをテーマに授業をするのですが、最初に彼女たちに働くことについてのイメージをアンケートすると、ものすごくネガティブなのです。働く場所というのはすごく怖いところだと思っているのです。ブラック企業が多いのではないかとか、働き始めたら会社の言うとおりにしなければいけないので、自分の都合や家庭の状況など何も言えなくなるのではないかということを考えているのです。

大体なぜそのような悪いイメージになってしまったのだろうといって学生一人一人に聞いていくと、原因は二つです。一つはマスコミ、マスメディアです。すごくマイナスのニュースがいっぱい出てくるので、働くことは怖いことだ、過労死があるのだというふうに思っているのが一つなのですけど、もう一つが面白いのですけど、通勤電車の中のサラリーマンの憂鬱そうな顔、特に中高年男性という答えが圧倒的に多かったです。本当に疲れているように見えると。特に地方の子などが東京に出てくると余計に感じるみたいで、地方
だともうちょっと元気なのですかね。本当に暗くて、うつむいていて、みんな寝ている。すごく悪いイメージだと。やはり働く環境、労働条件というのは、最近健康経営などといわれるようになりましたけど、非常に大事なのだなというふうに思います。

もう一つ働き方改革の大事なところは、同一労働同一賃金などの非正規の処遇改善です。これはなぜ出てくるかというと、要するに全員参加といったわけだから、働き方は違うわけです。5時間働ける人もいれば、8時間働ける人もいるし、12時間頑張れる人もいる。いろいろな人がいる中で、12時間働けないと一人前ではないといわれると、ではやめておくかということになってしまう。あるいは5時間しか働けないけど、すごく能力のある人の力を使えないということが起きてしまう。

今回、例えば短期間で働く、あるいは短時間で働く人たちについて、合理的な理由がない限り、いつでも残業できます、どこへでも転勤できますというタイプの労働者と差をつけることをやめようということが制度改革の一つの柱になっています。グラフを見てもらうと、フルタイムとパートタイムの賃金格差が日本は非常に大きいというのが出てきている。ここに合理性があるかどうかをこれから企業に考えていっていただくということだと思います。

もう一つ、高プロ(高度プロフェッショナル)です。非常に批判も浴びましたけれども、私自身、この高度プロフェッショナルという制度がすごくいいかどうかは別として、いろいろな人が働くときの非常に大事な考え方として、非常に長い労働時間を改善していくということと並んで、柔軟性がある、融通が利くことはとても大事なことだと思っています。ですから、今回新しい制度なので高プロが注目されていますが、フレックスタイムも使いやすくなります。裁量労働はちょっともめて、見送りということになりましたけど、柔軟性の確保というのはもう一つの改革の方向性として非常に重要だというふうに思います。

まだ次官をやっていた頃に、アメリカの労働省に行って仕事の話をしていて大変印象に残ったことがあります。会議がちょっと長引いて夕方になったのです。そうすると、われわれ日本代表と、対応してくれていた何人かのアメリカ労働省の職員のうちの1人の男性が、「子どもを迎えにいかなければいけないから帰ります」といって途中でいなくなったのです。そうか、日本と随分違うなと思いました。

さらに驚いたことに、その人は定時で帰る働き方をしているのかと思ったら、違うのです。アメリカ労働省は完全フレックス制なのです。完全フレックスだから、別にその日に長く働くことはできるのですけど、彼らはお迎えがあれば帰ってしまうということです。

フレックスの使い方を聞いて、また驚きました。大体週4日しっかり働いて、金曜日を休みにして、3連休にしている職員が圧倒的に多いと言っていました。それで労働省は持つのかと思いましたけれども、この柔軟性というのも日本の中でもうちょっと考えていかなければいけないものなのだろうと思います。

日本は、平等という発想がすごくあると思うのです。同じものだから同じように扱う、差別しないというような平等は、日本人には割とすんなりとなじむ。では、違うものをどう公平に扱うかは、非常に同質的な人間で同質的な働き方でやってきた日本の社会、企業はまだ不得意です。でもこれからは、違うものを違うなりにどうフェアに処遇するか、ルールを作るかというのが大事になってくるというふうに思っています。

高度プロフェッショナルは、運用してみていかないとどう育つか分かりませんけれども、一つの試金石だと思うのです。他の人と違うルールで働く人をちゃんといい形で育てられれば非常に面白いことになると。決して問題が起きないように見ていかないと、制度としては育ち切らないというふうに思っています。

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