2017年10月17日開催

パネルディスカッション

国際情勢はどうなるか「世界がどう変わっていくのか」

パネリスト
國分 良成氏 防衛大学校 学校長
川﨑 研一氏 政策研究大学院大学 特任教授
古屋 明氏 伊藤忠中国総合研究所 顧問
吉岡 桂子氏 朝日新聞 編集委員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一

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6——日本の企業や経済への影響について

■櫨
次に、日本の企業や経済にどういう影響があるかという点を中心にお話を伺いたいと思います。

順番を逆にして、今度は吉岡様からお話を伺いたいのですが、今おっしゃったように、だんだん中国の影響力が大きくなってくると、周辺国がだんだん中国から受ける経済的な利益に抗し切れずに、日本から離れて中国へ接近していくようになるのではないかと心配もしております。それから国際機関などに出資する、増資するという話になっても、IMFや世界銀行で増資に応じることは、欧米、日本も財政的に非常に難しい。お金があるのは中国だけだという感じになって、だんだん中国の発言力が増してきてしまうのではないかと心配しています。この辺、中国の影が日本のビジネスにどのように影響してくるのか、実際に周辺国でどうなっているのかということを含めて、お話を伺えればと思います。

■吉岡
先ほど少し触れましたが、多くの国は中国の影響力が強まれば強まるほど、アメリカや日本に対してもバランスを取りたいと思うはずです。主権国家ですから、大国の影響力について、バランスを取れるようにしたいと考える国の方が多いと、私は感じています。

中国からあらゆるものを調達し、あらゆる線路や港を造ってもらおうと考えている国は、そうそうないでしょう。他に選択肢がない場合に中国だけ、というのはあるかもしれませんが。

日本だけがアジアの経済大国だったような時代の構図はもう戻ってはきませんが、ミャンマーがそうでなかったように、中国一辺倒でいいと考えている国も多くありませんし。中国の当て馬にされると気分はよくないかもしれませんが、そこにはたくさんのチャンスがあると感じます。ものによっては、中国と連携したほうが良い場合もあるでしょう。

もう一つ、増資などの問題、国際機関などの発言力の問題なのですけれども、ある意味AIIBは、逆説的かもしれませんが成功例だったのではないかと、取材を通じて感じています。なぜかと申しますと、最初はどんなものになるのか分かりませんでした。しかし、あまりにも注目が集まり、あまりにもたくさんの国が入ってしまった。習近平氏は「こんなに入ると思わなかった」と漏らしたというふうに伝えられていますが、入ってしまった。これは、ここまで来るとショーウインドーにせざるを得なくなった。ある意味では国際社会は関与に成功したとも言えます。10年先、20年先は分かりませんが、近い将来でいえば、AIIBは人民解放軍の基地となる港に融資をすることは難しいでしょう。むしろそれをやるのであれば、中国単独で持っている、AIIBなどよりも破格に大きい資金規模を持つ国有銀行中国輸出入銀行や国家開発銀行を使って自分でやればすむことです。自分でつくってしまった国際機関ですが、自分の意思だけでは動かしきれなくなった。その代わり「すぐにつぶれるぞ、資金は調達できないぞ」と言われましたが、米州開発銀行の公社債担当だった人をスカウトし、格付け会社へのプレゼンを通じて、全部AAAを取ったのです。

みんなで中国に関与して動かしていくという手法は、全ての事象に対して有効だとは思いませんが、諦めるべきではないと感じています。

■櫨
どうもありがとうございました。 続いては、古屋様にお伺いしたいのですけれども、日本企業への影響ということで、特にわれわれ新聞などで見ていて感じるのは、歴史的な問題が中国との間であるわけで、中国市場に出て行くと、他の欧米諸国に比べて、日本はやはりそれを引きずって、不利な競争を強いられるのではないかと思われます。このまま習近平政権がどんどん強くなっていったときに、日本企業の競争はますます苦しくなるのではないかという心配もあるのですが、その点も含めてご感想、ご意見を伺えればと思います。

■古屋
ご質問の答えとして的確かどうか分かりませんけれども、中国市場で戦うこと、ビジネスを行うことが非常に難しくなってきたという感じを持っています。先ほど来申し上げているとおり、いろいろな意味で注文、規制が強いのです。

自由で開かれた市場、ルールや規範に基づいた市場になることが中国の持続的な発展につながります。世界にとって中国市場がそうなることを願っています。

■櫨
一点質問したいのですが、日本企業に対して特に厳しいのか、そうではなくて外資に対して同じように厳しいのですか。

■古屋
全体です。

■櫨
そうすると、日本企業と例えばヨーロッパの企業などの競争では、条件としてはそんなに違いはないということでしょうか。

■古屋
同じ条件下で戦っています。

■櫨
中国の企業との関係で日本、外資系の企業がかなり苦しくなっていると、そういう理解でよろしいでしょうか。

■古屋
はい。

■櫨
どうもありがとうございました。

それでは川川﨑先生に、国際機関などでの中国の発言力の増大といった問題や、中国が経済発展していったときに日本にどういう影響があるのかというようなことも含めて、少しご意見を伺えればと思います。

■川﨑
直接の回答にはなりませんが、中国のいろいろな動きが最終的には日本経済や日本の企業にどういう影響があるかという、広い問いだという前提で、お話させていただきたいと思います。

やはり中国のこれからの動きを見ていくときに私自身が一番こだわりたいのは、特に地域統合などの中での質の問題です。関税はもう既に世界的に1%、3%という状況ですから、これを超えて、いかに規制改革、構造改革、非関税措置削減やサービスや投資の自由化が行われていくのかということに注目したいと思っています。

ビジネスにとっては、市場の安定性に加えて、政府がどういう制度改革をするのかという先行きの見通しが確かなものになると、5年先、10年先のビジネスプランを立てるときに非常に安定感が増すのではないでしょうか。従って、先端分野を含めた経済構造改革で、特にこれからどのようになっていくのかということを、よく注目しておきたいと思います。

それから最後に一つだけ、吉岡様に反論というわけではないのですが、実はRCEPを巡って日本政府の代弁をするつもりは一切ありませんけれども、やはり質の面はこだわりたいという点があります。手短に結論だけ申し上げますが、RCEPの質が低いと、例えばASEAN各国にとってはマイナスになってしまうリスクが極めて高いのです。

何かと言いますと、RCEPというのは、ASEANを含めた16カ国の中で、二国間の組み合わせを数えると120になるのですが、そのうち115は既にFTAや地域貿易協定があるので、残っているのは、実質日中二カ国間のFTA、日韓二カ国間のFTAです。極言すれば、RCEP=日中、日韓です。

ですからRCEPによる追加的な関税削減が日中、日韓の間に限られると、日本と中国、日本と韓国の間では貿易が増えて三国間にとってプラスになりますが、その他のASEANにとっては、その分貿易を日本・中国・韓国に取られてしまうので、関税削減の経済効果だけについていえば、マイナスになってしまうリスクもある。従って、関税だけではない非関税措置、構造改革、それからできれば国営企業の問題などにもどんどん取り組んでいってほしいと思うのですが、新しい分野、環境問題を含め、質の高いFTAを目指すべきであって、そのときに最初に申し上げたように、アメリカばかりではなく、中国がどのような役割を果たすのか、それが引いては日本経済にどう返ってくるのかということを注目しておきたいと思います。

■櫨
どうもありがとうございました。

國分先生には、最後に対中外交を中心に少しお話を伺いたいのですけれども、中国がこのまま力を増していけば、いずれ日本は中国にとって脅威ではなって、中国の日本に対する態度は少し軟化するという可能性があるのでしょうか。そうではなくて、これはそもそも中国共産党の正統性の問題なので、日本が脅威かどうかとは全く関係なく繰り返し出てくる話で、むしろ中国の力が強ければ、日本への圧力がむしろ高まると考えるべきなのでしょうか。どう考えたら良いのかということも触れていただければと思います。よろしくお願いいたします。

■國分
昔のような、いわゆる日中友好の時代は、もう基本的に終わったということでしょうか。ある種の特殊な情念というか、もちろん歴史問題もあったのですが、そういう感情的部分で関係が成り立っていた。それがいわゆる戦略的関係に変わっていく過程の中で、大国化した中国にとって、日本というのはかつてのような特殊な関係ではなく、多くのいろいろな国との関係の中の一つに変わってきたように思います。

とはいえ、日本というのは、中国共産党にとっては彼らの正統性原理の一端を担っていますから、ここのところは完全に忘れられることはあり得ないということです。これが中国共産党の正統性の全てではないけれども、一定の部分をかなり強く形成していると思います。

今、日本企業には、ご承知のようにコンプライアンスだ、あるいはアカウンタビリティだということで、それぞれの会社の透明性が徹底的に問われるような時代になってきたわけです。そういう中で、中国自体が相当逆行するような方向に動いています。一つの大きな問題は市場に対する政治の介入です。これが今後もさらに強まっていくだろうと予想されます。

そうなってくると、われわれが忘れてはいけないのは、2010年と2012年の尖閣事案が起こったときの日本企業に対する暴力的な行為。そして、恐らくそれ以上にもっと今すごいことになっているのが、先ほどお話ししたTHAADです。韓国の新大統領は比較的中国に近いと見られていたにもかかわらず、韓国の導入に反対して、中国は徹底的に韓国企業の排除をやっています。これはまさに政治介入です。

そういうことを見ていくと、今後も政治の介入がビジネスの世界にもありうることだとすると、本当にゆゆしき現象であると思っています。これは中国自身にとっても本来的には良くないことなのだけれども、そうせざるを得ない、恐らく国内的な論理が優先されるのではないかと思います。

もう一点。東南アジアとの関係で申し上げておきたいのは、防衛大学校は現在2000人の学生ですが、そのうちの約120人(6%)、相当高い数字で、東南アジアから学生を受け入れております。その中にはモンゴルも入っておりますし、韓国も一部ありますが、圧倒的に東南アジアのほとんどの国から来ていると思っていただいてよろしいかと思います。軍の士官学校の学生を送ってくるというのは、恐らく本音ベースの信頼関係だと思います。本音のレベルでやらないと、この交流というのはできません。

中国の士官学校も東南アジアから多く受け入れようとしていますが、なかなか難しいところもあるようです。これは、われわれの自慢話ではないのですが、やはり日本人の丁寧さと繊細さも加わったクオリティの高さだと思います。私の見る限りでは、本当に東南アジアからベスト・アンド・ブライテストを頂いています。そういうクオリティの部分で、日本はきちんとやっていかなくてはいけないなということを常日頃感じている次第です。

■櫨
どうもありがとうございました。  

7——これから日本企業や日本経済はどうすべきか

■櫨
最後に一言ずつという感じになってしまいますが、これから日本企業や日本経済はどうすべきか、キーポイントについて、吉岡様から順番にお願いできますでしょうか。

■吉岡
私自身感じていることとしてあるのは、斬新で重要な独自の技術を持つということと同時に、秘密の部分は別なのですけれども、誰でもそれを使えるものを作ることが大事なのではないかと感じています。

東南アジアでいえば、本当に消費者として日本製品に対する信頼がすごく強いというのは言うまでもありません。これから例えば高速鉄道にせよ、高度な規格の自動車にせよ、革新的な技術はともかく、やはりみんながアクセスできるものを作って広げていくという役割を、これまで同様に、中国が現れても続けていくことが重要なのではないかと、改めて感じています。

■櫨
どうもありがとうございました。それでは、古屋様お願いいたします。

■古屋
私は中国に対して批判的なことを言いましたが、愛するが故です。

一言で言えば、政治が経済の邪魔をしないでほしいということです。中国の歴史を見ると、そうした事例がたくさんあります。経済のためによくありません。文化大革命、天安門事件などがそれです。経済は純粋な経済としてやらせてほしいということです。

もう一つ、中国で成功している日本企業の経営者をたくさん知っていますが、その方々に共通していることが一つあります。それは、中国の政治動向に非常に関心が深いということです。経済人ですが、経済だけではなく、中国の政治に強い関心と興味を持っている、こういう方がかなり成功している割合が多いです。中国でのビジネスの成功を望むなら、中国の政治動向に強い関心を持っていただくことをお勧めします。

■櫨
どうもありがとうございました。それでは川﨑先生、お願いします。

■川﨑
若干繰り返しになりますが、一言で言えば、中国にもやってほしいし、日本もぜひ進めてほしいのは、構造改革による経済成長戦略ということになります。国際貿易の議論をやっていると、よく国際金融の専門家の方から批判されるのは、貿易交渉は平均3%の関税削減が、これから10年、20年もかかって、やっと実現するのだろうと思うが、俺たちにとっては日々5%の為替が動き、金利が動く。全く桁違いだというようなことを言われるのです。

マクロ経済政策の重要性を批判するつもりはありませんが、金融政策にせよ、財政政策にせよ、非常に即効性があったり、効果的であったりするかもしれませんが、元に戻せば効果はなくなってしまうのに対して、構造改革を進めて生産性が上がっていくということは、持続的に経済成長を推し進める成長戦略になります。ですから、日本でもそういったことは大事だと思います。

とにもかくにも一番経済的な影響力の大きいのは中国で、経済効果の視点からは、構造改革の動向に注目していきたいと思います。

■櫨
どうもありがとうございました。では、最後に國分先生、お願いいたします。

■國分
先ほど古屋様が言われたことに尽きるのですが、中国はやはり全ては政治なのです。これはDNAと言ってもいいと思いますが、それが経済に影響を及ぼさないようにといっても難しいのです。中国は歴史的に考えても、全ては政治で決まる部分があります。そしてその基本は人間関係で、そこのところはビジネスの世界も変わらないだろうと思っております。

私は中国研究を40年以上やっております。80年代には中国にも留学をさせていただき、そのときに感じたことは、やはり政治体制がおかしいということです。その改革が必要だということを、中国に向けてもずっと発言を繰り返してきました。

体制内改革が可能かどうか。正直申し上げて、相当に難しいことになってきているなという感じがいたします。ここまで閉鎖状況をつくってしまって、しかも経済成長がこれからも鈍化していく状況の中で、大胆な改革は不可能です。大改革を本来はもっと早くやらなければいけなかったのに、政治の論理によってできませんでした。

ソ連が1917年に誕生し、亡くなったのは1991年、74歳です。中華人民共和国が誕生したのは1949年、そして現在は68歳です。別に不吉なことを申し上げるわけではありませんが、体制が劣化して、その大改革をゴルバチョフが最後に挑戦したけれども間に合わなかったということです。その問題を今でもロシアは引きずっていると思います。

そういうふうに考えていくと、中国はどうなるのでしょうかという大きなクエスチョンマークを抱くのですが、そうした答えの一部が明日からの19回党大会に出てくると思います。どうぞ皆さん、お楽しみにということを申し上げて、発言を終わりたいと思います。

■櫨
どうもありがとうございました。

私がまとめるまでもなく、國分先生がまとめてくださいましたので、パネルディスカッションはこれでおひらきということにさせていただきたいと思います。どうも皆さま、ありがとうございました(拍手)。 
 

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