2017年10月17日開催

基調講演

中国習体制の今後と東アジア

講師 防衛大学校 学校長 國分 良成氏

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5——対日外交

日本に対して、中国はアプローチをしてきています。習近平氏の権力が確立すればするほど、その傾向はあります。恐らく中国もいろいろ困っているのでしょう。経済的にもそうだし、アメリカとの関係も、今は安倍首相が一番トランプ大統領と話ができますから、そういう点もあるでしょう。日本の役割は、恐らく重要だと思っている証拠です。

かつて、江沢民氏は個人的に日本に対して複雑な感情があったと思います。自身の父親が南京政府で日本軍の下で働いており、その後共産党に入党するために父親を変えたと言われています。彼にはそうした歴史的な思いが強過ぎたと思います。それが彼個人の言葉にも政策にも出てきました。彼の周りの人たちは必ずしも反日ではなかった。しかし、江沢民氏時代の政策の中心にあったのは既得権益を守る、中国共産党の体制を守る、そのためにこれまでやってきたことの歴史は正しいということです。そこでしかないとなってくると、体制を揺るがすような大きな改革はそれ以上望めない。そして、党の歴史正統性が強調され、抗日戦争という歴史が前面に出てくることになります。

でも今日では、中国から来られる旅行者の方々が、日本が一番良かった、また日本に行きたいというように、社会の方はもう現在の日本のことがよく分かってきています。ある意味で、社会の方が進んでいます。しかし、その現実に政治体制がついていかない。というよりは、逆行する方向にますます向かっている感じがしてなりません。

習近平氏個人を見ている限りでは、反日ではない傾向が結構あります。彼の発言の中に、歴史問題に関わる話がほとんど出てきません。海外での彼のスピーチなどを見てもあまりそういう話は出てきていないようです。しかし、これから真に日本とどういう関係を築こうというのか、わからないところもあります。

来年は平和友好条約40周年ですから、恐らくそれに向けていろいろな仕掛けが今考えられていると思います。一言で言えば、戦略的互恵関係の中身を充実させるということだと思います。この冬に日中韓の会議をやって、李克強首相を日本にお呼びして、来年の恐らく春に安倍首相が何らかの形で中国を訪問し、そして秋までに習近平氏を日本に国賓としてお招きするというのが、ひとつのパターンではないかと思います。

10年前の胡錦濤氏来日を踏襲する形で、戦略的互恵関係の中身をより具体化させるということである種の合意ができているのではないかと思います。それ自体は悪いことではありません。非常に結構なことです。社会のあらゆる方面にこれだけ関係が広がっていても、国家がぶつかったときは社会にも大きな影響を与えることになりますから、首脳同士が交流することは非常にいいことだと思います。

ただ、問題は、今後何かあったときに、また揺れる可能性があるということです。今のところ、あまり昔の抗日戦争を振りかざすことはなさそうだけれど、教育の効果もあって社会にはもうそれが浸透し、社会の至るところでそのような関連の活動も行われています。これはもう止められないということです。

ただ、もちろん先ほど申し上げたような社会の変化、意識の変化とともに、日本に対する意識が変わってきている人たちもたくさんいます。ですから、党の歴史的正統性を幾ら説いても効果は少ないでしょう。本来的には、共産党政権の正統性は国民の生活にあるべきです。しかし選挙がないので、争点の移動操作が行われます。移動操作でナショナリズムを強調したときに、中華ナショナリズムが高らかに称えられ、対象として過去の日本が登場することはありえるでしょう。それがいったん出ると、下手をすると、止めるのも難しくなることもあり得るのです。幾ら中国の多くの側面が変わっても、変わっていない部分もたくさんありますから。

われわれは対話をしなくてはいけません。しかし同時に、抑止もきちんとやっておかなくてはいけないと、東シナ海の情勢を見ていると痛感します。そして同時に、安全保障のメカニズムをどう確立するか、これを急がねばなりません。また、もちろんアメリカとの同盟関係の強化もあります。やはりその関係を中国は一貫して注視しています。さらに、インドやオーストラリア、それに東南アジアの友好国との関係をきちんとすること。それは別に中国と敵対させようというのではなく、中国がより良き方向に向かってくれるのではないかという期待です。「自己主張が強く、大国然とし、中身が不透明」このような中国は最悪です。しかし今やそちらに少し足が踏み出ているという感じがしてならないのです。
 

6——むすび

6——むすび

習近平体制はどこへいくのだろうか。もう権力闘争をやっている段階ではありません。新しいビジョンと中身の具体策をどうするか。そして世界とどう関わるのか。ここのところをきちんと出してほしい。こうした主張を我々の側は中国に対して発信し続けることです。

そして中国はどこへ向かうのか。先ほどから申し上げているように、個人が独裁しても社会、組織がついていかなければ駄目です。そこが弱いということです。それに合わせた形にどうやって引っ張っていくことができるのかということです。これは簡単な作業ではありません。多様化した価値を一つのリーダーの下に集中させることができるのでしょうか。

最後に、中国の問題の本質は、政治体制にあるということを申し上げて、私の結論にさせていただきたいと思います。(拍手) 

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