2015年10月22日開催

パネルディスカッション

「人手不足への対応と課題」前編 ヤマトグループの取り組みについて【人手不足時代の企業経営】

パネリスト
樋口 美雄氏 慶應義塾大学商学部
教授
大谷 友樹氏 ヤマトホールディングス株式会社
上席執行役員
白木 三秀氏 早稲田大学政治経済学術院 教授
トランスナショナルHRM研究所 所長
松浦 民恵 ニッセイ基礎研究所
主任研究員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一

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3——海外人材の活用の可能性と課題

■白木 日ごろ、私がリサーチしておりますのは、多国籍企業の中の人の問題ということで、われわれがつくった研究所であるトランスナショナルHRMでは、国を越えて柔軟に人材をどうやって使っていくかということを日ごろ考えています。ただ、今日は日本国内で海外人材をどう活用するかというお話に絞って、簡単に問題提起のようなものを話させていただきたいと思います。

 
3—1.問題提起
問題提起と大上段に構えていますが、日本の企業が外国籍の優秀な人材、あるいは、これから戦略的 に重要な人材を獲得できているのか、育成できているのか。さらに、その人たちをうまく活用できているの か、さらにリテンションできているのかどうかという問題が非常に大きいと思っています。

海外に行きまして も、日本の海外の現地法人では、募集、獲得、育成、活用、確保という問題を切実に抱えていますが、日本 ではどうなのかというのが課題かと思っています。

それから、後でわれわれのリサーチの結果をご紹介しますが、われわれの大学にも英語コースがあって、今4500人のインターナショナルスチューデント、留学生が来ていますが、日本語が分からない人もかなり入っています。

これまでのところ、日本の企業は、就職でも、この人たちの活用に苦慮しているということで、日本語の分からない外国人を活用するにはどうしたらいいかという点も非常に重要かと思っています。その人たちが留学で来るのですが、日本国内で就職したいと思っても、なかなか就職先がないというのが実態で、これも課題かと思っています。

それから、グローバリゼーションの時代に、日本人だけで乗り越えられるかどうかということがあろうかと思います。これは先ほどの樋口先生のお話にもありましたが、量的な問題も大変重要ですが、さらに私は質的な問題もあろうかと思っています。

日本の若者、高度成長以降に育った人たちは、平たく言えば先進国病にかかっている人も結構いて、グローバリゼーションを乗り切るだけの活力がどれだけあるかということです。そういう意味でも、外国人の人を活用することは必要かと思っています。

最後のところは少しマクロ的なお話ですが、海外人材を日本で活用する場合には、いい人に来てもらわなければいけないのです。日本で働くことの魅力をどのように高めるかは非常に重要だと思っています。産業分野もそうです。

そういう意味で、比喩的に言いますと、テニスならウィンブルドンという世界一の場所がありますが、そういうことを日本でどれだけできるかというのを戦略的に構想する必要があるのではないかと思っています。

3—2.グローバル人材のニーズ
経産省で3年間委員会をしたときにアンケートを行ったうちの一つで、海外オペレーションが広がる中で、最大の課題は何かというアンケートをしています。選択肢はたくさんあるのですが、その中で一番指摘率が高く、74%以上の大企業が答えたのは、グローバリゼーションを推進する場合の国内人材が足りないという問題です。

7割以上の企業が問題意識を持っておられます。これを日本人だけで乗り越えられるかどうかはもう一つあるわけですが、いずれにしても大変大きな課題として5年前から指摘されていますし、今もそうではないかと思っています。

3—3.人材構成とキャリアの比較イメージ
図4は私が描いた図で、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、Bが多国籍型です。簡単に申し上げますと、多国籍型というのは海外オペレーションで、下の方にある三角形は海外での子会社のイメージ図です。

シニアマネジメント以上でいろいろな国籍の人が働いているというのが多国籍型です。HというのはHost-Country Nationalで現地の人。PはParent-Country Nationalで、日本企業であれば日本人、アメリカ企業であればアメリカン。Tはどちらでもない人で、Third-Country National(第三国籍)で、P、T、Hがそろって、その人たちのキャリアが本社または兄弟会社に結び付いているというパターンが多いのが、アメリカ、ヨーロッパ等のグローバル企業です。

それに対して、日本の企業のオペレーションはAの方で、最近若干変えて修正型と言っていますが、二国籍型と呼んでいます。なぜ二国籍型かと言いますと、海外の子会社のシニアマネジメント以上の人材の構成を見ますと、H(Host)の人がいる。例えばインドネシアですとインドネシア人がいる。

もう一つはPで、これは日本人です。日本人と現地の人たちだけでオペレーションをしていて、Third-Country Nationalsがいないというのが日本企業の特徴です。ローカルで、Hの人が海外子会社、別の国の方に行ける人が出てくるとTが増えていくのですが、今のところはほとんどいない。あるいは、日本本社の中に、そういうことを担える人材がほとんどいなかったということで、Tがいないという特徴を持っています。

一つだけ付加させていただきます。われわれの5000サンプルぐらいのデータで申し上げますと、日本の海外子会社のトップマネジメント(CEO)はどういう人がなっているかというと、多くの場合、日本人だと思われていますが、最近の動きでいきますと、ノンジャパニーズがCEOになっている比率は2~3割です。

その場合の日本側の問題は、われわれのアンケートでいきますと、日本の大企業でコミュニケーションがうまくいかないというのが7割です。自ら指名した人とコミュニケーションがうまくいかない。あるいは、その次の問題は経営理念を共有できない。自ら指名しておいて、その人とコミュニケーションできないという矛盾した課題を抱えているのが現状です。

これは問題提起です。どちらが悪いかというのは、いろいろ議論があり得るところですが、今のところそういう課題を抱えているのが実態です。

3—4.外国人留学生の採用状況
日本の留学生の採用について、これもわれわれが関係した調査についてご紹介いたします。日本の企業はここ5~10年、意図的に留学生を採用しようとされているのが実態かと思います。それ以前にも留学生はいたわけですが、それはたまたま採用していたというだけで、意図的に採用し出したのはここ5~10年の傾向です。

現状でいくと、大手企業が多いのですが、既に採用している、あるいは現在検討中を入れると9割の企業で採用されています。その場合の理由は三つぐらいに分かれます。

一つは、国籍を問わず優秀人材、タレント人材が欲しいというのが最大の理由です。二つ目は、海外現法とのインターフェースも含めて、グローバリゼーションに備えた人材です。三つ目は、戦略なくたまたまそうだったというだけで、その三つぐらいに分かれると考えています。

3—5.外国人留学生の採用・定着の留意点
採用した後、どういう課題を抱えているかというのをリサーチしたことがあります。これは事例研究で、15社を訪問して3者から質問しています。そこに勤めている外国籍の従業員の方、直属の上司の方、そして、人事担当、あるいは経営者の方にヒアリングしています。1社で3者からヒアリングした結果ですが、結論的に申し上げまして、4~5点言えるかと思っています。

1番目は、元日本に留学した人、あるいは外国から採用した人たちの野心、やる気、モチベーションなどは、同年代の平均的な日本人を上回っているという結論です。これはヒアリング結果ですから、サンプルは限られているわけですが、大体そういう傾向があるのではないかと思っています。

日本で育って、日本で働いている人と、海外からジャンプして日本に来た人を比べること自体、サンプルが違っているかもしれません。いずれにしても、今入っている人を見ると、元気さが違うという結果があるようです。

2番目は、日本企業の仕事の進め方、慣習などについては、企業側と元留学生とに理解上の齟齬がある場合があるということです。どういう齟齬があるのか。

例えば韓国から来た人で、韓国で兵役をして日本に来て、大学院も出ているという人は、年齢はいっていますが、その人がいろいろな経験をしてきたということを全然評価してくれないという不満があったとして、それを理解しないで、「あなたはこの格付けでいくんだ」「あなたは日本の大卒と同じだ」という形でやると、この人は内心不満を持っている。

そういう理解の違い、あるいはボタンの掛け違いが大きい場合には、入社後も相互に不信や不満がずっとたまって、最終的には辞める場合もあり得ます。

それから、直属の上司の役割は非常に重要なもので、日ごろからその事情をよく知る自分の部下に対してコミュニケーションを取ったり、キャリアのことを考えてあげたり、ストレッチの利く仕事を配分してやるという気配りが非常に重要なポイントです。ですから直属の上司が非常に重要です。これは留学生に限らなくて、日本人においても直属の上司の役割は非常に重要なものです。

もう一つは、留学生の人は数が少ないわけです。従って、できるだけキャリア・パスを明示してあげたり、できればロールモデルを設定してあげることが非常に重要です。イメージが分かりにくいと思うので、少しだけ例を申し上げます。

ある電機メーカーでは、国際的な取引があるので、国籍の違う弁護士を何人も雇っています。この人たちが日本に留学して、日本での弁護士の勉強もしている。弁護士資格を取っていない場合もありますが、自分の国では弁護士資格を持っているのです。そして、一生懸命仕事をして10年たっている人が何人もいるわけです。

面白い仕事をしている。しかし、10年やってきて、このままずっとやって私のキャリアはどうなのだろう。ずっと忙しく使われて、このまま定年になるのだろうかという不安を持っている人が何人かいました。

そこでたまたまアメリカ人の弁護士が部長に昇格したということがありました。意図的に部長に昇格させたのです。そうすると、こういうキャリアもあり得るなということで、すごく安心したという事例を、われわれは訪問して知っています。

そういうことで、できるだけ明示的に、あなたのキャリアもこういうのがありますよとか、相談に乗ってあげることが非常に重要だと思っています。ロールモデル、先行事例があると安心します。留学生はそれがないのです。

皆さんのところでも採用されているかもしれませんが、5年、10年のまだ若いところで、自分はこれからどうなのだろうというのが実は分かっていないのです。日本人の人は、先輩がいたり、もっと上の日本人の方を見ていますから、自分はこうなるのかなとか、いろいろイメージが描けるわけですが、留学生はそうはいかないようです。ここが一つです。

5番目ですが、よく日本人の学生と比べて、突然辞める場合が多いという不満を言われる場合があります。これはある意味でやむを得ない面もあります。

例えば日本では中国の人たちが一番多いわけですが、彼らは一人っ子政策で育っているわけで、中国は定年が早いのです。ブルーカラーですと、女性は45歳、男性は50歳で定年で、ホワイトカラーは5歳ずつ上です。ですから、50代後半~60歳ぐらいになると完全に仕事がありません。彼らは30歳ぐらいになったら、両親の面倒を見ようという気持ちを持っています。親孝行なのです。

そうすると、日本に入社して、5年か10年かしたら帰ろうということを、心の中で持っている学生が結構いるのです。でも、それを表に出せないということで、突然辞めたように見えるということです。

ですから、当初の段階で、そういうのを胸襟を開いて議論できたり、あるいはある電機メーカーは、3年ごとにこれからのキャリアをどうしようかということを議論することをやっておられました。そうしますと、実はこういう課題を抱えていますということが分かって、この人のキャリアをどうしようかという議論もできようかと思います。

非常に限られたものですが、以上のような事例を申し上げまして、私の問題提起とさせていただきます。
 

■櫨  どうもありがとうございました。それでは次に、松浦主任研究員から「人手不足時代における女性と高齢者」ということで、女性と高齢者の問題についてお話をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

 

「人手不足への対応と課題」 中編 人手不足時代における女性と高齢者 【人手不足時代の企業経営】

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