2014年10月21日開催

基調講演

「東京の都市力2020年の展望と課題」

講師 市川 宏雄 氏

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日本の国土構造はどう変わる

東京の話を続ける前に一つだけぜひ考えていただきたいのが、日本の国土構造を見てくださいということです。東京というのは東京だけであるわけではなく、日本の国土の中にはまっています。その中で相当大きな役割を持っています。

もう一回人口動向に移りますが、2005~2050年の日本の人口構造を見ると、2050年には1億人を切って9000万人台になると予想されています。これについて、先般、安倍首相は2050年に1億人を超えていたいと宣言されました。現在、子供の生まれる数が1.4ぐらいであるのを2以上にする、もしそれが駄目であれば移民政策を変える等々の政策が必要なのです。

それはいいのですが、2035年の日本の人口構造を見ると、60歳以上がその下の倍ぐらいいるのです。これが今から20年後の日本の姿です。ここから分かることがあり、このとき日本はかなり危ないのです。こうなってしまうと、年金など現在の仕組みも使えず、生産力も下がる中でどうするかという問題が起きます。

私は2030~2045年の15年間が危ないと思っています。今から15年後が2030年、その後の2030~2045年ではこの構造が続きます。しかし、2045年が過ぎた後は、人口は減るのですが、上の年齢層は全て消えます。われわれの世代が消えるので、あとはすっきりして、そうすると大丈夫だという話があります。

ということは、2030~2045年をどうやってしのぐかが現在の日本の課題なのです。今から15年間の2030年までにどれだけ力を上げられるかにかかっていると思っています。そこで力を上げておけば、その後15年間、日本が停滞しても何とか持ちこたえ、2045年以降にわれわれの世代がすっきり消えたところで日本がよみがえることを期待するというのがシナリオと考えています。

その中で東京はどうか。そして大阪、名古屋はどうか。60年代は明らかに三大都市圏が伸びていたのですが、その後、三大都市圏の中で伸びているのは東京だけです。

東京で唯一戦後人口が減ったのはバブル崩壊後の2~3年だけです。その後は東京だけ増えています。現在は地方の減少分は全て東京に来ています。三大都市圏という言葉はもはや現実に則していなくて、実体は東京だけがその役割を増加させています。ですから、日本の動向は、日本全体と東京がどうなっているかが課題です。

名古屋と大阪は横ばいというのが現実です。均衡ある発展から始まった日本の国土構造の考え方は、現実には東京の動向が日本の動向を左右するところまで来ています。

1960年、地方圏と三大都市圏の人口を見てみると、地方圏は1.5倍いました。これが2005年になって三大都市圏(東京、名古屋、大阪)と地方圏の人口比は1:1になりました。この後、20年~30年ぐらいで、地方圏は三大都市圏の半分になるという時代が来ます。

既に数カ月前に増田レポート(日本創生会議)が発表され、2040年に日本の自治体の6割が消滅する危機に遭遇すると発表されました。だから「地方創生」だと言っていますが、これは事実であり、「地方創生」は昔から言っているし、現在も同じなわけです。

そういうことがあって、とうとう人口が三大都市圏の半分になる時代が来ます。このことを頭に入れておかなければ、これからの国土運営、都市運営、産業は考えられません。そのときの答えを言っておきます。

従来、太平洋ベルトに当たるのは東京・名古屋・大阪だったのですが、これは現在伸びていて、第5次全国総合開発計画で瀬戸内海を経由して福岡まで行っています(西日本国土軸)。この軸上の人口は、1960年には日本の6割いました。現在は日本の7割います。これから20~30年先には、軸上の人口は日本の8割になります。

地方に人がいなくなることが悩ましい、何とかしようというのは正しいのですが、現実には軸上にどんどん人口が乗ってきます。つまり裏を返せば、この軸上が頑張れば、日本全体が大丈夫だというシナリオができます。ですから、この軸上でどのくらい頑張れるかというところに政策を集中しなければ日本は持たないのです。

その一つのポイントが東京です。現在、東京は東北エリアを経済圏に含んでいますが、そのうち名古屋も含むことになります。すると軸上の動きと東京の力の二つをどうやって組み合わせるかというのが今後の日本の動きにかかってきます。

その一つの答えが2027年のリニア新幹線で、早速つい最近、工事が始まりました。これは東京と名古屋を真っ直ぐつなぎます。われわれが知っている日本列島の形というのは、時間距離的には実は存在していなくて、リニア新幹線開通後の日本では、名古屋が東京の郊外に来て、大阪が関東地方の一部になります。これがもうすぐ待っています。これを考えた上でどうするかを考える必要があります。

例えば人口について言えば、名古屋と東京が合体すれば都市圏人口が約5000万人になります。それから、産業的には東京はビジネス業、名古屋は製造業が主体で、両都市が合体すればお互いにwin-winの関係になります。

かつての大阪が東京へのストロー効果で衰退したようなことは名古屋では起きないのです。産業の構成が全く違うので、お互いにいい面を使える可能性があるのです。特に東京にとっては非常に重要なテーマです。

東京の都心はどう変わる

その上で、2020年の流れの中で東京がどうなっていくかに移ります。世界の大都市は既に都心で勝負しています。ロンドンはシティ、パリはラ・デファンス、ニューヨークはミッドタウンです。アジアも同じで、上海は陸家嘴、香港のセントラル、九龍もありますが、シンガポールはマリーナ・ベイで頑張っています。要するに今は都心が勝負なのです。

そういう中で、文化と国際的な接触・融合と産業をどう組み合わせるかです。ここでのポイントは、第3次産業がベースの東京では、カルチャー産業とICT産業とナレッジ産業をどうやってうまく引っ張ってくるかで、これが今、世界の都市力の中の競争のキーワードなのです。

そのためには、一つ目は国際的なアクセスの良好性で、現在ロンドンの半分しかない東京の国際線フライト数をどうやって増やすかです。二つ目がリバビリティ(住みやすさ)で、もちろん東京のレベルは高いのですが、世界から見ればまだまだである都心の居住環境をどうするかです。この二つが課題になります。

現在さまざまなプロジェクトが行われています。丸の内、渋谷、虎ノ門、大手町、これがJPタワー、ヒカリエなど、どんどん進んでいます。これから始まるものもあり、京橋地区が変わりつつあります。それからアークヒルズ周辺も変わっていて、日本橋では三井不動産が江戸の町の復活を進めています。そして今われわれがいる大手町は、刻々と連鎖型の再開発をしています。

オリンピックで何が起きるか。オリンピックのときは青山通りが整備されました。そして、今までなかった都市空間が発生します。これが戦後の日本で新たな展開を生みました。欧米型の新しい文化が根付きました。今回オリンピック通りはどこかと言われれば、偶然なのですが、ちょうど新虎通りが開通しました。

これはオリンピックと無関係に進めていましたが、これは劇的な通りで、南の方に臨海のオリンピック会場があり、四谷から先に今度は都心の方のオリンピック会場があり、オリンピック会場をつなぐ道なのです。オリンピック通りは前回が青山通りなら、今回は新虎通りに決まっています。新虎通りがどうなるかがこれからのキーワードになります。

下を臨海、上を神宮の方とすると、ちょうど中間に六本木ヒルズのような新しいタイプの虎ノ門ヒルズが出来上がっています。それがある新虎通りはシャンゼリゼになると言われているのですが、なるのかどうかはともかく、歩道が今まで8mだったのが16mと倍あります。

地下に道路を通したおかげで地上の歩道が広がりました。そうすると確かにオープンカフェができたり、街路樹を植えたり、いろいろなことができるようになるので、街が変わります。問題は、今行くと分かりますが、新虎通りの周りの壁面線が重要で、建物がばらばらなことです。

本家のシャンゼリゼを見てみると、道幅は100m近いのです。両側の歩道は約25mあり、真ん中に片道5車線の道路が通っています。建物の壁面線がすごくて、よくそろっています。パリでは8階建ての規制があり、さらに1階には世界トップの店が入っています。その前でオープンカフェをしたり、人々が集うというのが本家のシャンゼリゼです。

新虎通りがどこまでいくか分かりませんが、本家と同じところまでいきたければ、これくらいしなければなりません。ここでは季節を問わず夜景も素晴らしいです。

現在、都心には赤坂・六本木・虎ノ門、さらには大手町・丸の内、八重洲・日本橋があり、ここに新たに品川が加わってきます。なぜ品川かというと、羽田空港の国際化ということでつながっているからです。この辺りの中で品川が非常に重要です。

東京にはさまざまなエリアがあります。さらに大手町では現在温泉をつくっています。日本橋は江戸時代の日本橋を復活します。六本木は虎ノ門ヒルズ方向に拡大しています。臨海フロンティアでは、カジノは駄目だろうけれどもMICEはますます増えるでしょう。品川でもさまざまなことが起きるでしょう。さらにはリンクゾーンといわれている羽田までの間で何が起きるかです。

臨海、品川周辺はさまざまなことがあって面白いのです。今、プラチナ通りといわれている環状4号線が延伸され、新駅ができます。東京都は2007年に「品川・田町まちづくりガイドライン」を出し、これが今回改訂されて2014年版になりました。とにかく駅ができるので変わるということです。現在の車両基地の線路をずらして駅ができます。JRは既にこれを発表していて、どんなにぎわいができるかも言っています。

この品川の開発とともに、虎ノ門ヒルズの北側に日比谷線の新駅が出来て、バスターミナルも設置されます。例えば赤坂・虎ノ門エリアからどうやって羽田空港に行くか、環状2号線を使ってBRTを通すことも可能です。さらには六本木地区から品川への地下鉄の話があるかもしれません。東京ではもう鉄道事業は終わったと思われていますが、ロンドンでは刻々と東西を連結する路線を造っています。2017年完成で、さらに南北にも造っています。

都市の発展でエリアが増えればまた鉄道を通すということを、あのロンドンでもやっているのです。東京ではもう東京メトロは終わったと思っているかもしれませんが、まだまだ終わっていないという認識が必要です。

あとは成羽新線といって、押上と泉岳寺をつないで西側を通すというプランが前からありますが、これは時間がかかると思っています。完成すれば、成田と羽田が1時間で結ばれます。

一方、面白いのが田町から羽田空港へ行っていた貨物線をJRがとうとう旅客転用するということです。田町のところを乗り越えて、東海道につなげ、そこから東京駅まで直行します。そうすると今度走る上野~東京ラインにつながって東北まで行きます。

今度はさらに追加が出てきて、りんかい線のところをつないでディズニーランドに行く、あるいは反対側をつないで新宿に行く。これで東京から羽田まで20分ぐらい、新宿から東京まで25分ぐらいになり、劇的に変わります。

東京の貨物ターミナルのところから羽田空港は地下で入りますから、オリンピックには間に合いませんが、そちらに向かっているということで、オリンピックで羽田の国際化を試すことになります。
 

空港アクセスと容量拡大

最後のテーマ、羽田の国際化に移ります。そもそも日本は成田と羽田ですみ分けをしていましたが、2010年には羽田で国際線を始めました。容量は9万回と言っていましたが、今回オリンピックまでにこれを13万回に上げることが決まっています。

滑走路が第1から第4までありますが、現在飛行ルートは東京都心を外しています。しかし、13万回になるときには都心の幾つかの区の上を通すことになります。これが具体的な問題になってきます。あとはいろいろな空港拡張です。

それからC滑走路を延長して現在、発着数を増やしていますが、ポイントは第5の滑走路で、E滑走路を造る話がもう出てきています。オリンピックには間に合いませんが、この先です。私はリニア開通の2027年が重要だと思っていて、2020年、2027年、そして2030年から日本の衰退、この流れの中でどれくらい力を上げられるかだと思います。

最後は横田管制空域が改めて課題になるのは分かっていて、空路拡大の問題を抱えています。さらに第5滑走路を造ればさらに都心の上を飛ぶことになる等の課題があります。あとは大型船にぶつかるかもしれませんが、これらは全て解決可能ですが、解決すべきテーマになります。

今日は話す時間がなかったのですが、本を出していて、『山手線に新駅ができる本当の理由』や『リニアが日本を改造する本当の理由』、『東京五輪で日本はどこまで復活するのか』などの本がありますので、もし興味があればご覧ください。

いいことばかり言いましたが、最後に、東京はさまざまなリスクを抱えています。その一つが地震で、首都直下の話が出ています。関東大震災クラスは200年に1回ですが、その間にマグニチュード7から8の地震が起きるだろうと言われています。向こう30年間に7割の確率ですから、恐らく来るだろうと言われています。

そのときに出てくる有名な図面が、倒れやすい場所と燃えやすい場所を表した震度予想分布図で、これを見たらびっくりするわけです。ただ、よく見ると、どこが安全かも分かります。都心はかなり安全です。全ては燃えないので、どこかは避けられます。こういった組み合わせの中でどうするかを考える必要があります。

これは国交省が出している図ですが、どこが危ないかをもう少し見ると、それほど多くはないのです。危ない場所をどうするかという課題と、老朽化している首都高速等の基盤をどうするかなどが課題になっています。

時間を過ぎまして申し訳ございません。今日はどうもありがとうございました(拍手)。

(司会) 市川先生、ありがとうございました。もう一度、市川先生に皆さまより盛大な拍手をお願いいたします(拍手)。
 

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