2022年05月13日

マレーシア経済:22年1-3月期の成長率は前年同期比+5.0%~感染拡大するも活動制限令を実施せず順調に回復

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.0%増1 (前期:同3.6%減)とプラス成長に回復し、市場予想2 (同4.0%増)を上回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比5.5%増(前期:同3.7%増)と上昇して2四半期連続のプラス成長となった。

また政府消費は前年同期比6.7%増(前期:同1.6%増)と再び上昇した。

総固定資本形成は同0.1%増(前期:同3.0%減)と停滞した。設備投資が同12.0%増(前期:同17.4%増)と好調を維持したものの、建設投資が同7.9%減(前期:同15.6%減)と減少が続いた。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同0.4%増(前期:同2.8%減)、公共部門が同0.9%減(前期:同3.4%減)となり、それぞれ停滞した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.5%ポイント(前期:+0.1%ポイント)と悪化した。まず財・サービス輸出は同8.0%増(前期:同13.0%増)と堅調に拡大した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同7.1%増)が鈍化した一方、サービス輸出(同20.0%増)は大幅な増加が続いた。また財・サービス輸入は同11.1%増(前期:同14.5%増)と、5期連続の二桁増となった。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に第三次産業の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比6.5%増(前期:同3.2%増)と上昇して2期連続のプラス成長となった。金融・保険(同1.0%減)こそ減少したものの、宿泊・飲食業(同24.2%増)や運輸・倉庫(同25.8%増)、不動産・ビジネスサービス(同6.7%増)が好調だったほか、情報・通信(同6.3%増)、政府サービス(同5.7%増)、卸売・小売(同4.0%増)なども順調に増加した。

第二次産業は前年同期比4.6%増(前期:同5.2%減)と低下したものの、底堅い伸びを維持した。まず製造業は同6.6%増(前期:同9.1%増)と順調に増加した。内訳を見ると、主力の電気電子機器(同17.9%増)や食品加工(同7.4%増)は好調だったが、石油製品(同2.4%増)や動植物性油脂(同0.2%増)、化学製品(同2.0%増)、輸送用機器(同2.1%増)などが小幅な伸びに止まった。また鉱業は同1.1%減(前期:同0.6%減)、建設業は同6.2%減(前期:同12.2%減)となり、それぞれ低迷した。

第一次産業は同0.2%増(前期:同2.8%減)と停滞した。主要産品であるパーム油(同3.9%増)や漁業・養殖業(同3.5%増)は増加したものの、その他農業(同5.4%減)や天然ゴム(同18.6%減)は減少した。
 
1 2022年5月13日、マレーシア中央銀行が2022年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、2020年の実質GDP成長率が前年比▲5.6%に落ち込んだ。マレーシアは比較的早期にウイルスの封じ込めに成功していたが、デルタ株の感染拡大に伴い昨年4-6月期の実質GDPが落ち込んだ。しかし、その後は経済回復が続いて21年通年の成長率は同+3.1%まで回復した。そして今回発表された22年1-3月期の成長率は前年同期比+5.0%となり、前期の同3.6%増から更に上昇、2カ月連続のプラス成長となった。

1-3月期は新型コロナウイルスの感染が拡大したものの、内需が回復した。マレーシアは今年初からオミクロン株の感染が急速に拡大して新規感染者数が3月上旬には1日3万人台に達した(図表3)。しかし、オミクロン株は軽症者が大半を占め、医療体制が圧迫される状況にはならなかったため、政府はワクチン接種の拡大や治療薬の調達など従来の感染対策を徹底しつつも、昨年までのような厳しい活動制限令を実施せず、水際対策を中心に対応した。従って、小売・娯楽施設への人流に大きな変化は生じることはなく、1-3月期の平均でみるとコロナ前と比べて約1割減と、10-12月期の同15%減よりやや改善することとなった(図表4)。こうして1-3月期は経済活動の回復が続くなか、雇用環境が改善されたことで民間消費は前年同期比+5.5%(前期:同+3.7%)と伸びが加速した。また総固定資本形成は同0.1%増と小幅な増加に止まったが、前期の同3.0%減からは回復した。

また財貨輸出(同7.1%増)は伸びが鈍化したものの、堅調に拡大した。ウクライナ情勢悪化の影響により一次産品の世界的な需要が高まるなかで石油・ガスやパーム油などの出荷が大きく伸びたほか、半導体需要を追い風に電気・電子製品の出荷も順調に拡大した。

マレーシアは4月から新型コロナウイルスのワクチン接種完了を条件に隔離なしの入国を再開している。足元の感染者数は1日1,000人台まで減少するなど、国内の感染状況は落ち着いており、今後は海外からの観光客や出張者が増加してホテルや飲食店など観光関連産業の回復も見込まれる。このように国内経済の回復に自信を深めたマレーシア中央銀行は5月の金融政策会合で政策金利を引き上げた。消費者物価上昇率は前年比+2%台前半で推移し、警戒すべき水準には達していないが、世界的に金融緩和からの出口戦略を模索する動きが強まるなか、マレーシアも国内経済の回復や先行きのインフレ圧力の高まりを背景に年内にも追加利上げが実施される展開が予想される。
(図表3)マレーシアの新規感染者数の推移/(図表4)マレーシアの外出状況
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年05月13日「経済・金融フラッシュ」)

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