2021年11月17日

英国雇用関連統計(10月)-求人数の最高記録更新が続く

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率の低下、賃金の上昇が継続

11月16日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【10月】
失業保険申請件数1前月(207.80万件)から1.49万件減の206.31万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は5.1%となり、前月(同5.2%)から低下した。

【9月(7-9月の3か月平均)】
失業率は4.3%で前月(4.5%)から低下、市場予想1(4.4%)を下回った(図表1)。
就業者は3252.3万人で3か月前の3227.6万人から24.7万人の増加となった。
増減数は前月(23.5万人)から増加、市場予想(+19.0万人)も上回った。
週平均賃金は、前年同期比5.8%で前月(7.2%)から減速したものの、市場予想(5.6%)は上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:求人数は最高記録の更新が続き、賃金も高い伸び率が継続

まず、失業保険申請件数と同じく10月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は21年8-10月の平均で117.2万件となり4か月連続で調査開始後の最高記録を更新、10月単月では129.8万件に達しており、労働需要は引き続き強い(図表3)。

給与所得者データ3では、10月の給与所得者が2928.4万人となり9月から16.0万人増えた(図表4)。20年12月以来11か月連続の増加(累計119.2万人)となり、コロナ禍直前のピーク(20年2月)を23.5万人上回っている。産業別に見ると、9月は8月に続いて居住・飲食や事務サービス業の増加が顕著だった。月あたり給与額(中央値)については前年同月比4.9%で9月(5.8%)からは減速したが、引き続き高めの伸び率を維持している(図表4・5)。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
次に9月までのデータでは、7-9月期の失業率が4.3%まで低下した(前掲図表1)。前月比で、5か月連続で就業者の増加、および、失業者と非労働力人口の減少が継続している。ただし、労働参加率で見ると63.4%でコロナ禍前のピーク(19年12月-20年2月:64.4%)までは依然として距離がある。労働時間は31.6時間(前年同期差+3.2時間)、フルタイム労働者で36.0時間(同+2.9時間)となり、こちらもコロナ禍前の水準には届かないが、増加傾向が続いている(前掲図表2)。

7-9月の平均賃金は前年同期比5.8%(実質は3.1%)とベース効果の剥落に伴い減速傾向にあるものの、高めの伸び率が続き、コロナ禍前と比較できる2年前比では7.3%(実質は3.8%)と7%を超え、ONSは低所得雇用者の減少による構成効果は減少している指摘しているものの、コロナ禍以降は高めの伸び率が維持されている(図表5)。また、給与所得者データでは伸び率の加速も見られる(図表5)。
(図表5)賃金・給与所得の推移〔2年前比〕/(図表6)英国の雇用統計(週次データ)
最後に週次データを確認すると(図表6)、9月は休業者および失業者がやや低下した。統計上の休業者数はすでにコロナ禍前の水準(約250万人)だが、他方、政府の雇用維持政策は9月まで実施されており、HRMCは9月末時点で114万人が同制度を申請していた(暫定値)と集計している。そのため、今後、雇用維持政策が終了する10月以降にどのような動きがあるか注目される。
 
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年11月17日「経済・金融フラッシュ」)

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