2021年11月08日

米雇用統計(21年10月)-雇用者数(前月比)は市場予想を上回り、雇用回復ペースが加速している可能性を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は前月、市場予想を上回ったほか、失業率も市場予想を上回る改善

11月5日、米国労働省(BLS)は10月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+53.1万人の増加1(前月改定値:+31.2万人)と、+19.4万人から大幅に上方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+45.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.6%(前月:4.8%、市場予想:4.7%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示した(後掲図表6参照)。労働参加率2は61.6%(前月:61.6%、市場予想:61.7%)と前月から横這いとなり、増加を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:労働市場の回復ペースが加速している可能性を示唆

非農業部門雇用者数は前月比で、10月が前月、市場予想を上回る伸びとなったほか、8月と9月分も2ヵ月合計で+23.5万人上方修正されるなど、足元で雇用増加ペースが加速していることを示した。とくに、新型コロナの感染拡大や供給制約の影響で雇用の回復がもたついていた娯楽・宿泊業で前月比+16.4万人と大幅な増加となったほか、製造業も+6.0万人と20年6月以来の水準となるなど顕著な回復を示しており、雇用回復を妨げていた要因が解消されてきた可能性が示された。

また、失業率は低下基調が持続しているほか、後述するようにプライムエイジの労働参加率が女性主導で改善しており、漸く労働供給も回復に転じた可能性を示唆した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.4%(前月:+0.6%、市場予想:+0.4%)と前月を下回ったものの、市場予想に一致し、依然として高い伸びを維持した。前年同月比は+4.9%(前月:+4.6%、市場予想:+4.9%)とこちらは前月を上回った一方、市場予想に一致した(図表1)。このため、賃金上昇率は引き続き賃金上昇圧力が持続していることを確認する結果となった。

このようにみると、10月は雇用増加ペースやプライムエイジの労働参加率などに改善がみられ、強い労働需要に比べて回復が遅れていた労働供給の回復が漸く期待できる結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:民間部門では幅広い業種で雇用伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+49.6万人(前月:+30.0万人)と前月から伸びが大幅に加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+16.4万人(前月:+8.8万人)と前月から大幅に伸びが加速したほか、人材派遣業が+4.1万人(前月:+0.6万人)に回復した専門・ビジネスサービスが+10.0万人(前月:+7.6万人)となったほか、医療・社会扶助サービスも+4.7万人(前月:+3.4万人)と前月から伸びが加速した。また、運輸・倉庫が+5.4万人(前月比:+5.7万人)と堅調であった前月並みの伸びを維持した一方、小売業は+3.5万人(前月:5.7万人)と伸びが鈍化した。

財生産部門は前月比+10.8万人(前月:+6.5万人)と前月から伸びが加速した。製造業が+6.0万人(前月:+3.1万人)と20年6月(+34.2万人)以来の伸びとなったほか、建設業が4.4万人(前月:+3.0万人)と伸びが加速した。

政府部門は前月比▲7.3万人(前月:▲5.3万人)と前月からマイナス幅が拡大した。内訳をみると、連邦政府が▲0.3万人(前月:+0.1万人)と小幅ながらマイナスに転じたほか、州・地方政府が▲7.0万人(前月:▲5.4万人)とマイナス幅が拡大して全体を押し下げた。とくに、州・地方政府では教育関連が▲6.5万人(前月:▲10.1万人)と雇用減少の大宗を占めた。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は前月が+31.2万人(改定前:+19.4万人)と+11.8万人上方修正されたほか、前々月は+48.3万人(改定前:+36.6万人)と+11.7万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+23.5万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って11月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+57.1万人(前月改定値:+52.3万人、市場予想:+40.0万人)と+56.8万人から下方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP統計は前月から雇用の伸びが加速した雇用統計と整合的な結果となった。
 
10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.96ドル(前月:30.85ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.7時間(前月:34.8時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,074.31ドル(前月:1,073.58ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は全体、プライムエイジともに小幅に改善

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で+10.4万人(前月:▲18.3万人)と前月からプラスに転じた。内訳を見ると、就業者数が+35.9万人(前月:+52.6万人)となった一方、失業者数が▲25.5万人(前月:▲71.0万人)となり、就業者数の増加が失業者数の減少幅を上回って労働力人口を押し上げた。非労働力人口は+3.8万人(前月:+33.8万人)とプラス幅は縮小したものの、2ヵ月連続でプラスとなり、引き続き職探しを諦めて労働市場から退出した人数の増加を示した。

これらの結果、労働参加率は小数第1位までみると前月から横這いとなったものの、小数第2位までとると+0.01%ポイント増加した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は10月が81.7%(前月:81.6%)と前月から+0.1%ポイント増加した。男女の内訳は、男性が88.1%(前月:88.1%)と前月から横這いとなったものの、女性が75.4%(前月:75.3%)と前月から+0.1%ポイント増加して全体を押し上げた。女性の改善は学校再開に伴い子育て世代の労働市場への再参入が増加した可能性が考えられる。

10月の失業率は4.6%と21年6月の5.9%から4ヵ月連続の低下となり、9月に示されたFOMC参加者が予想する中期の失業率予想(4.0%)に近づいてきた(図表6)。もっとも、新型コロナ流行前(20年2月)の3.5%を1%ポイント以上上回っており、FRBが政策金利引き上げの条件としている「雇用の最大化」の目標達成には一定程度時間を要するとみられる。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は232.6万人(前月:268.3万人)と前月から▲35.7万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも31.6%(前月:34.5%)と前月から▲2.9%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は26.7週(前月:28.4週)とこちらも前月から▲1.7週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(168.1万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(442.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、10月が8.3%(前月:8.5%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.7%ポイント(前月:+3.7%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年11月08日「経済・金融フラッシュ」)

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