2021年10月04日

菅政権下での金融市場の振り返りと岸田新政権への示唆

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 本日、菅前内閣が総辞職し、岸田新内閣が発足するにあたり、菅政権下における金融市場の動きを振り返り、岸田新内閣への示唆を考える。
     
  2. まず、日本株は菅政権下において大きく上昇したが、米国株の大幅上昇という外部からの強力な追い風に助けられた面が大きく、むしろ米国株との比較では劣勢に留まった。米経済が順調に回復する一方で、日本ではワクチン接種の開始や病床の確保が遅れたために行動規制を強めざるを得なくなり、景気の回復が遅れたことが一因だ。また、菅政権は市場の成長期待に働きかける力も乏しかったと考えられる。肝いりの施策として、「脱炭素」や「デジタル」が掲げられたものの、時間軸や具体的な効果が不透明なことから、成長期待を大きく喚起するには至らなかった。さらに、コロナへの対応等に対する批判が高まり、支持率が大きく低下したことによって、政権・政策の持続可能性に対する懸念が台頭したことも市場の成長期待を損ねた可能性がある。日銀の金融政策の緩和余地が乏しくなっていたことで、円安を通じた成長期待への働きかけも難しかった。
     
  3. 今後とも世界的な経済動向や市場環境などが日本株や円相場に多大な影響を及ぼす点は変わらないが、新政権による政策運営が日本経済への期待を高めることが出来るか否かが株価を大きく左右するだろう。具体的には、(1)安倍・菅両政権が苦しめられたコロナ禍への効果的な対応、(2)金融緩和以外の独自の政策による潜在成長率の底上げ、(3)経済政策を力強く主導するための政権基盤の安定が求められる。岸田新政権がコロナ禍をうまくコントロールしつつ、政権基盤を固めて日本経済の潜在成長率引き上げに資する政策を進めることが見えてきた際には、これまで劣位に置かれてきた日本株の米国株等に対する巻き返しが起きるはずだ。
菅政権下での金融市場の動き
■目次

1.トピック: 菅政権下での金融市場の振り返り
  ・株価は大幅に上昇したが、追い風参考値
  ・為替は円安に振れたが小幅、長期金利はほぼ不変
  ・岸田新政権への示唆
2.日銀金融政策(9月):自民党総裁選に絡む質問が相次ぐ
  ・(日銀)現状維持
  ・今後の予想
3.金融市場(9月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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