2021年10月04日

米個人所得・消費支出(21年8月)-個人消費(前月比)が+0.8%と前月から増加に転じたほか、市場予想(+0.7%)も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得は市場予想に一致、個人消費は市場予想を上回る

10月1日、米商務省の経済分析局(BEA)は8月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.2%(前月:+1.1%)と前月を下回った一方、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.2%に一致した(図表1)。個人消費支出は前月比+0.8%(前月改定値:▲0.1%)と、こちらは+0.3%から下方修正された前月からプラスに転じたほか、市場予想の+0.7%も上回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.4%(前月改定値:▲0.5%)と▲0.1%から下方修正された前月からプラスに転じた一方、市場予想の+0.4%に一致した(図表5)。貯蓄率1は9.4%(前月:10.1%)と、前月から▲0.7%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.4%(前月:+0.4%)と前月に一致、市場予想(+0.3%)は上回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%(前月:+0.3%)とこちらも前月に一致、市場予想(+0.2%)を上回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+4.3%(前月:+4.2%)と前月、市場予想(+4.2%)を上回った。コア指数は+3.6%(前月:+3.6%)と前月に一致、市場予想(+3.5%)は上回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:減少した前月から個人消費は持ち直し

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人消費は5ヵ月ぶりのマイナスとなった前月からプラスに転じた(図表1)。半導体不足で生産が減少している自動車関連の消費は前月に続き大幅なマイナスとなったほか、新型コロナの影響で一部対面型サービス消費の伸びが鈍化したものの、その他の耐久財や非耐久財消費の増加もあって持ち直した。

個人所得は前月の所得を大幅に押し上げた児童税額控除の還付金の伸びが鈍化したことから、前月から伸びが鈍化した。この結果、貯蓄率は前月から低下した。もっとも、貯蓄率は新型コロナ流行前の7%台からは依然高止まりしており、家計は消費余力を有していることを示している。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数がFRBの物価目標(2%)を6ヵ月連続で上回ったほか、91年1月(+4.5%)以来の水準となった。また、物価の基調を示すコア指数は前月並みの伸びに留まったものの、5ヵ月連続で物価目標を上回ったほか、依然として91年5月(+3.7%)以来の水準を維持した。このため、足元で物価上昇圧力の緩和はみられない。

3.所得動向:児童税額控除に伴う移転所得の伸びが鈍化

8月の個人所得(前月比)は、移転所得が+0.3%(前月:+3.0%)と前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。移転所得は金額ベースでは前月比年率+129億ドル(前月:+1,230億ドル)となったが、このうち、米国救済計画に盛り込まれた児童税額控除の1回目の還付金が137億ドルに留まり、前月の1,775億ドルから大幅に減少したことが大きい。移転所得以外では、賃金・給与が+0.5%(前月:+1.1%)、利息配当収入が+横這い(前月:+0.1%)と前月から伸びが鈍化したほか、自営業者所得が▲1.5%(前月:▲0.3%)と前月からマイナス幅が拡大した。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、8月の名目が+0.1%(前月:+1.1%)と前月から大幅に伸びが鈍化したほか、価格変動の影響を除いた実質ベースが▲0.3%(前月:+0.7%)とマイナスに転じた(図表3)。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:自動車関連は軟調も前月から持ち直し

8月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+1.2%(前月:▲2.1%)と前月からプラスに転じた一方、サービス消費は+0.6%(前月:+1.1%)と前月から伸びが鈍化した(図表4)。

財消費では、耐久財が▲0.4%(前月:▲4.1%)とマイナス幅は大幅に縮小したものの、4ヵ月連続でマイナスとなった一方、非耐久財は+2.1%(前月:▲1.0%)と大幅なプラスに転じた。

耐久財では、半導体不足で生産が減少した影響で新車販売が▲10.0%(前月:▲9.4%)と大幅なマイナスが続いていることもあって自動車・自動車部品が▲6.3%(前月:▲6.8%)と、4ヵ月連続でマイナスとなった。一方、家具・家電が+3.4%(前月:▲2.3%)、娯楽財・スポーツカーが+2.1%(前月:▲2.9%)といずれも前月からプラスに転じた。

非耐久財では、ガソリン・エネルギーが+1.8%(前月:+3.6%)と前月から伸びが鈍化したものの、食料・飲料が+2.7%(前月:▲1.1%)、衣料・靴も+2.0%(前月:▲2.8%)と、いずれも前月からプラスに転じた。

サービス消費は、医療サービスが+0.6%(前月:+0.5%)、住宅・公共料金が+0.6%(前月+0.1%)と前月から伸びが加速した一方、金融サービスが+0.3%(前月:+0.5%)、輸送が+2.5%(前月:+5.0%)、娯楽が+0.4%(前月:+2.8%)、外食・宿泊が横這い(前月:+2.5%)と前月から伸びが鈍化した。とくに、娯楽や外食・宿泊の伸びが鈍化したのはデルタ株の拡大に伴い新型コロナの新規感染者数が増加した影響によるとみられる。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:前年同月比でエネルギーが物価を大幅に押上げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+1.9%(前月:+1.7%)と3ヵ月連続、食料品価格指数は+0.4%(前月:+0.6%)と7ヵ月連続プラスとなった(図表6)。前年同月比は、エネルギー価格指数が+24.9%(前月:+23.6%)と6ヵ月連続のプラスとなったほか、プラス幅が拡大した。食料品価格指数は+2.8%(前月:+2.4%)と50ヵ月連続のプラスとなって物価を押し上げた(図表7)。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年10月04日「経済・金融フラッシュ」)

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