コラム
2021年09月07日

人気だったインド株式ファンドのその後~2021年8月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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前月から資金流入が鈍化

2021年8月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、7月と同様に外国株式を中心に国内REITと外国REIT以外の資産クラスで資金流入があり、ファンド全体では6,500億円の資金流入があった【図表1】。8月は引き続き大規模な資金流入があったといえるが、7月の9,200億円の資金流入と比べると2,700億円減少しており、資金流入が鈍化した。内外REITからの8月の資金流出は7月からやや減少したものの、その他の資産クラスへの資金流入は大きく減少した。
 
外国株式には、8月に5,000億円の資金流入があった。外国株式のSMA専用ファンドに500億円の資金流入(7月は80億円の資金流入)があり、資金流入が膨らんでいたにも関わらず、7月の6,200億円の資金流入から1,200億円減少した。8月は昨年12月以降で外国株式の資金流入が最も少なかった。
【図表1】 2021年8月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入

外国株式は高値警戒感から販売鈍化か?

8月の外国株式では、タイプによらず資金流入に鈍化がみられた。外国株式のアクティブ・ファンド(緑棒)への流入金額は7月の4,000億円から8月3,000億円に、外国株式のインデックス・ファンド(黄色棒)への流入金額は7月の2,200億円から8月1,500億円に減少した(ともにSMA専用ファンドは除外)【図表2】。外国株式のインデックス・ファンドは昨年12月以降、資金流入が増加基調であっただけに、8月の流入金額が7月の2/3になったことは意外であった。
【図表2】 外国株式ファンドの資金流出入
資金流入が大きかった個別ファンドでみても、外国株式ファンドの資金流入の鈍化がうかがえる。8月に資金流入が大きかった上位10本のうち9本(太字)が外国株式ファンドであったが、アクティブ(赤太字)、インデックス(青太字)問わず、うち8本は7月から資金流入が減少した【図表3】。
 
このように8月は外国株式への資金流入が全体的に鈍化したといえる。外国株式に対する高値警戒感から外国株式の投資を見合わせる、もしくは保有している一部を売却した投資家が増えたのかもしれない。米国の金融政策の動向が注目される中、8月下旬に経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」での金融政策の舵取り役であるパウエル米FRB議長の講演が控えていた。高値警戒感に加えて講演の内容を確認するまでは様子見をしている投資家も多かったかもしれない。
【図表3】 2021年8月の推計純流入ランキング
その他、8月はバランス型への資金流入は900億円と7月と同規模で堅調であったが、国内株式への資金流入が200億円を下回り、7月の1,000億円の流入から大きく減少した。また、8月は外国債券と国内債券にも資金流入していたものの、資金流入のほとんどがSMA専用ファンドであった。SMA専用ファンドを除外すると、外国債券は引き続き資金流出、国内債券はほぼ資金の動きがなかった。

高パフォーマンスの後追いになったインド株式ファンド

8月に高パフォーマンスであったファンドをみると、国内株式の中小型アクティブ・ファンドの一部(赤太字)に加えてインド株式ファンド(青太字)も好調であった【図表4】。インドでは新型コロナウイルスの感染が落ち着き、経済の回復期待が高まり、インド株式は8月に大きく上昇した。また、インド・ルピーも対円で8月は2%ほど上昇したことも追い風になり、インド株式ファンドは8月に総じて高パフォーマンスであった。
【図表4】 2021年8月の高パフォーマンス・ランキング
インド株式ファンドといえば、2017年に大規模な資金流入があったが、その後は冴えないパフォーマンスだったこともあり、2018年後半以降は資金流出が続いている【図表5】。2017年のインド株人気は結果的に高パフォーマンスの後追い、つまりトレンド・フォローになり、その後に高い収益を上げることができないまま売却した投資家が多かったことがうかがえる。

インド株式ファンド(紺線)は、2017年から2021年8月までの累積平均収益率が72%と全世界株式指数(赤線)の85%と比べると10%以上劣後した。インド株式自体が2017年こそ好調だったもののそれ以降は冴えなかったこともあるが、それに加えてインド株式ファンドが総じて高コストであることも要因としてあげられる。
 
インド株式ファンドの(純資産残高加重の)平均信託報酬は年率2%を超えており、非常に高水準である。インド株式ファンドの同期間の信託報酬控除前の累積平均収益率を簡便的に試算すると89%となり、実はコスト控除前ならば全世界株式指数を上回っていた。インド株式ファンドは、この4年8カ月で信託報酬によって17%も収益率が引き下げられており、やはり信託報酬の負担が重かった。
【図表5】 インド株式ファンドの資金流出入と累積平均収益率
このように信託報酬は時間が長くなればなるほどファンドのパフォーマンスに与える影響が大きくなる。テーマ型株式ファンドについては、インド株式ファンドに限らず信託報酬が高水準のファンドが大半である。テーマ型株式ファンドへの投資はただでさえ難しいと思われるが、コスト面によってより難しくなっている。テーマ型株式ファンドはあくまでも短期投資向きで、期待したような結果が短期で得られなくても、ダラダラと保有せず、早めに見切りをつけて売却してしまうことも時には必要である。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2021年09月07日「研究員の眼」)

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