2021年09月07日

住宅市場好調、オフィス空室率上昇。REIT指数は8カ月続伸-不動産クォータリー・レビュー2021年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.294]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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国内景気は消費の低迷が長期化し停滞色が強まっている。2021年4-6月期の実質GDPは2四半期ぶりにプラス成長となった。住宅市場は需要の高まりを受けて在庫数が減少するなか価格が上昇している。オフィス賃貸市場は、東京のオフィス空室率は6%を超えた。ホテル市場は苦しい状態が続いている。物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに需給環境は良好である。2021年第2四半期の東証REIT指数は8カ月連続で上昇した。

1―経済動向と住宅市場

2021年4-6月期の実質GDP(1次速報)は、前期比年率+1.3%と2四半期ぶりのプラス成長になった。緊急事態宣言下でも、民間消費、住宅投資、設備投資がいずれも増加し、外需の落ち込みをカバーした。しかし大幅マイナス成長の後としては低い伸びにとどまり、今年に入り景気の停滞が続いている。
 
4-6月期の鉱工業生産指数は前期比+1.1%と4四半期連続の増産となり、昨年4-6月期の落ち込み分をほぼ取り戻した[図表1]。
鉱工業生産指数
国内需要は個人消費を中心に低迷が続いているが、海外経済の回復を背景に輸出が好調を維持しコロナ前の水準を上回っていることが製造業の生産活動を支えている。
 
住宅市場では、需要の高まりを受けて在庫数が減少し、価格が上昇している。新設住宅着工戸数は4-6月で約22.1万戸(前年同期比+8.1%)となった。また首都圏のマンション新規発売戸数は4-6月で6,606戸(前年同期比+151.9%、2019年比+12.2%)となり、販売在庫数は6,395戸(前月比▲394戸)に減少した。マンション発売戸数は昨年の落ち込みからの回復が継続している。
 
首都圏の中古マンション成約件数は4-6月で9,987件( 前年同期比+55.4%、2019年比+3.2%)となり、新規登録件数が減少し在庫数が減少するなか品薄感が高まっている。
 
5月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は11カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+8.0%となった[図表2]。
不動産住宅価格指数

2―地価動向

地価は下落地区が減少し、上昇地区が増加している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第1四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「28」、横ばいが「45」、下落が「27」となった[図表3]。同レポートでは、「住宅地ではマンション素地取得の動きが回復している地区が増加。商業地では法人投資家等による取引の動きが戻り、横ばい・上昇に転じた地区が見られる」としている。
 
全国の地価

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三鬼商事によると、2021年6月の東京都心5区の空室率は16カ月連続で上昇し6.19%(前月比+0.29%)に、平均募集賃料(月坪)は11カ月連続で下落し21,160円(前月比▲0.4%)となった。他の主要都市についても空室率は上昇基調にあるが[図表4]、募集賃料は仙台と大阪を除いて前年比プラスを確保しており、募集賃料の下落率は東京(▲7.5%)が最も大きくなっている。
オフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス(第2四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は35,332円(前年同期比▲9.1%)となった[図表5]。
Aクラスビルの状況
また、日経不動産マーケット情報(8月号)によると、大規模ビルの成約賃料の下落が続いており、半年前比で、東京駅周辺では賃料の下限が5,000円下落し3.0万円~5.3万円に、大崎駅周辺では下限が1,000円、上限が2,000円下落し2.3万円~2.9万円になった」としている。

2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料はこれまでの上昇基調が弱まり横ばいとなっている。2021年第1四半期は前年比でシングルタイプが▲1.1%、コンパクトタイプが+2.8%、ファミリータイプが▲1.2%となった[図表6]。
 
マンション賃料
また、6月末の高級賃貸マンションの空室率は5.0%(前年比+0.1%)、賃料は18,484円/月坪(前年比+2.6%)と3期連続で前年比プラスとなった[図表7]。
高級賃貸マンション
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、前年の緊急事態宣言の反動の影響で、百貨店とコンビニエンスストアの施設売上が増加する一方、スーパーは減少となった。商業動態統計などによると、2021年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+43.5%、コンビニエンスストアが+3.8%、スーパーが▲1.8%となった。
 
ホテルセクターは第3回緊急事態宣言の影響で、依然として厳しい状況が続いている。宿泊旅行統計調査によると、2021年4-6月の延べ宿泊者数はコロナ禍以前の2019年対比で▲57.7%減少した[図表8]。
 
CBREの調査によると、6月末の首都圏の大型物流施設の空室率は1.5%(前期比+0.4%)、近畿圏の空室率は1.7%(前期比▲0.2%)で、需給環境は良好である。
 
宿泊者数

4―J-REIT(不動産投信)市場

2021年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は3月末比+6.8%上昇した[図表9]。
東証REIT指数
株式市場に対する出遅れ感などを背景に海外資金の流入が継続するなか、8カ月連続での上昇となった。6月末時点のバリュエーションは、NAV倍率が1.17倍、分配金利回りは3.3%となっている。
 
投資口価格の上昇によりエクイティの調達コストが低下し、物件取得を前向きに検討する環境は整いつつある。今後はREIT各社のファイナンス動向とそれに伴う需給への影響にも留意する必要がある。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2021年09月07日「基礎研マンスリー」)

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