2021年09月01日

法人企業統計21年4-6月期-利益、設備ともに増加し、企業部門の改善が鮮明に

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

1.9四半期ぶりの増収増益

財務省が9月1日に公表した法人企業統計によると、21年4-6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比93.9%(1-3月期:同26.0%)と2四半期連続の増加となり、増益幅は前期から大きく拡大した。製造業が前年比159.4%(1-3月期:同63.2%)の高い伸びとなったことに加え、非製造業も前年比64.2%(1-3月期:同10.9%)と伸びを大きく高めた。
経常利益の推移 経常利益が極めて高い伸びとなった一因は、新型コロナウイルス感染症の影響で20年4-6月期が前年比▲46.6%の大幅減益となったこともあるが、前々年(19年4-6月期)の水準も3.6%上回っている。企業収益は実態として大きく改善している。なお、全産業が増収増益となるのは19年1-3月期以来、9四半期ぶりとなる。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、海外経済の回復を背景とした輸出の増加を主因として、売上高が前年比20.1%(1-3月期:同▲1.4%)と9四半期ぶりに増加したことに加え、売上高経常利益率が20年4-6月期の4.9%から10.7%へと大きく改善したことが収益の押し上げ要因となった。

非製造業は、国内需要の持ち直しを反映し、売上高が前年比6.8%(1-3月期:同▲3.6%)と8四半期ぶりの増加となる中、売上高経常利益率が20年4-6月期の4.1%から6.4%へと改善したことが収益の押し上げ要因となった。

売上高経常利益率を要因分解すると、製造業、非製造業ともに原油高の影響で変動費が増加したものの、売上高の伸びがそれを大きく上回ったため、変動費要因が利益率を大きく押し上げた。また、人件費は製造業が7四半期ぶり、非製造業が9四半期ぶりの増加となったが、売上高の伸びを下回ったため、人件費要因もプラスとなった。

2.赤字が続く対面型サービス業

経常利益を業種別に見ると、製造業は輸送用機械(前年比378.8%)、情報通信機械(同319.7%)、はん用機械(同120.2%)が前年から急増するなど、すべての業種が増益となった。一方、非製造業は情報通信業(前年比▲1.9%)が小幅な減益となったが、建設業(同44.3%)、卸売・小売業(同52.8%)、不動産業(同24.8%)が増益を続けたほか、赤字が続いていた運輸・郵便業、電気業は黒字に転換した。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けている宿泊業、飲食サービス業は20年1-3月期から6四半期連続、生活関連サービス業は20年4-6月期から5四半期連続の赤字となった。

季節調整済の経常利益は前期比1.8%(1-3月期:同9.2%)と4四半期連続で増加した。非製造業は前期比▲1.9%(1-3月期:同6.7%)と4四半期ぶりの減少となったが、製造業が前期比7.4%(1-3月期:同13.4%)と4四半期連続で増加した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)はコロナ前(19年10-12月期)の水準を12%上回っている。ただし、製造業はコロナ前の水準を50%程度上回っているのに対し、非製造業は宿泊業、飲食サービス業などの対面型サービス業の低迷が続いていることから、コロナ前の水準を依然として5%程度下回っている。なお、21年4-6月期の経常利益の水準(21.0兆円)は、直近のピーク(18年4-6月期の23.7兆円)に比べれば10%以上低い。

7-9月期は、製造業が輸出の好調と財消費の堅調に支えられて回復の動きが継続する一方、緊急事態宣言が継続されていることから、宿泊、飲食サービス業などの対面型サービス業は引き続き低調な動きとなることが予想される。業種間の格差は一段と広がる可能性が高い。

3.設備投資は持ち直し

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比5.3%(1-3月期:同▲7.8%)と5四半期ぶりに増加した。製造業(1-3月期:前年比▲6.4%→4-6月期:同4.0%)が7四半期ぶり、非製造業(1-3月期:前年比▲8.5%→4-6月期:同5.9%)が5四半期ぶりの増加となった。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比3.2%(1-3月期:同0.8%)と2四半期連続で増加した。製造業(1-3月期:前期比0.9%→4-6月期:同3.9%)、非製造業(1-3月期:前期比0.7%→4-6月期:同2.8%)ともに前期から伸びを高めた。

企業収益が20年7-9月期から急回復していたのに対し、設備投資は低迷が続いていたが、ここにきて持ち直しの動きが明確となってきた。対面型サービス業が引き続き下押し要因となるものの、企業収益の大幅改善を背景に設備投資全体としては回復の動きが継続することが予想される。

4.4-6月期・GDP2次速報は上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、9/8公表予定の21年4-6月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.4%(前期比年率1.6%)となり、1次速報の前期比0.3%(前期比年率1.3%)から上方修正されると予想する。
2021年4-6月期GDP2次速報の予測 設備投資は1次速報の前期比1.7%から同2.2%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比3.6%(1-3月期:同▲9.9%)と7四半期ぶりに増加した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ前年比1%程度の増加となった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比8.3%(1-3月期:同19.5%)と7四半期連続で増加した。1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比▲0.8%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度▲0.2%から変わらないだろう。

その他の需要項目では、公的固定資本形成は6月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲1.5%から同▲1.6%へ下方修正されると予想する。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年09月01日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【法人企業統計21年4-6月期-利益、設備ともに増加し、企業部門の改善が鮮明に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

法人企業統計21年4-6月期-利益、設備ともに増加し、企業部門の改善が鮮明にのレポート Topへ