コラム
2021年08月30日

新型コロナ禍2年目上半期、人口の社会減はどこで起こったのか(上)―新型コロナ人口動態解説(10)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】転出超過エリアは40エリア

新型コロナ人口動態解説シリーズ(10)では、新型コロナ禍2年目となる2021年上半期の人口移動によって、人口を減少させているエリアについてレポートしたい。

コロナ禍が長期化する中で、出控えの機運が高まる中でも、やはり引っ越しによって「転入者数」<「転出者数」となり、人口減少している(社会減)エリアは40道府県となった。

40エリア全体では9万847人の移動による人口減少となった。うち男性の減少が3万8,321人、女性が5万2,526人となっており、男性の1.37倍の人数の女性が40エリア平均で減少していることが示された。

40エリア平均でみると、移動による人口減の約6割が女性、約4割が男性ということになる(図表1)。
【図表1】2021年上半期 移動人口減 性別割合(%)

総数で4000人以上減少したエリアは8エリア

総数で4000人以上減少したエリアは多い順に、福島県、長崎県、新潟県、青森県、広島県、兵庫県、静岡県、岐阜県の8エリアである。うち東北地方が3エリア、中部エリアが2エリア、と比較的首都圏に近いエリアが目立つ状況である。
 
8エリアのうち兵庫県だけは男性の方が多く減少しているが、残りの7エリアは女性の方が男性よりも減少している。ただし、青森県だけはほぼイーブンといえる減少状況である。
【図表2】2021年上半期 転入超過数 都道府県ランキング
8エリアの中で最も男女アンバランスな減少をしているのは静岡県で、男性の1.57倍の女性がエリアからの移動によって減少した。尚、全国平均の1.37倍を超えたのは、静岡県の他に広島県の1.45倍、福島県の1.38倍となっている。
 
男女の減少アンバランス度合いが全国平均以上のうち福島県や静岡県は、首都圏への新幹線の便もよく、また、若い男女が大学在学中にちょっとした週末の旅行やイベント参加において経済的に利用しやすい高速バスでの首都圏へのアクセス(かかる時間や費用など)も良好である。このため、地元大学在学中の若い女性の「首都圏慣れ」が発生しやすいエリアでもある1。広島県については大阪府へのアクセスが良好なため、同様の理由で男女アンバランスが生じやすいとみられる。
 
男女の減少アンバランスが平均以上の3エリアのうち、福島県は2011年の東日本大震災による原発事故の発生以降、広島県では2018年の西日本豪雨の甚大な災害が発生以降、転出超過が強まる傾向が続いている。

情報化社会の進展とともに大災害に関する情報の拡散や拡散スピードの加速化への迅速な対応の重要性が高まっている。特に地方創生の観点からはこの点を重視したい。なぜなら、人口の転出超過の急速な拡大にほぼ確実につながっていくからである。
 
筆者が依頼を受けたある地方創生案件で、ある年の人口転出超過がなぜ急に拡大したのかわからないと自治体の政策担当者が頭を抱えていることがあった。そこで月別のデータを提供していただき確認すると、他の年には見られない特定の月に転出が集中していた。

それは台風による中規模な風水害の翌月であった。
 
つまり、情報化社会において、災害後の迅速かつ多面的な対策(災害復興+人々のイメージ回復)をこれまで以上に急がないと、とりわけ若い世代の流出抑止や移住・定住施策に大きな支障をきたすことにもつながる。
 
最後に、この8エリアについて、コロナ禍前である2019年の年間転出超過数(男女合計)と2021年上半期の状況を比較すると、福島県、青森県は8割水準、長崎県、新潟県、兵庫県、静岡県は7割水準、岐阜県は6割水準という状況であり、人口の大移動が起こる3月を超えたとはいえ、予断の許さない状況であるといえるだろう(図表3)。
【図表3】2021年上半期 転入超過数とコロナ禍前2019年年間 転入超過数の比較(男女合計)
 
1 地元大学在学中の若い女性の「首都圏慣れ」について:2020年に東北活性化研究センターが実施した女性定着調査(主に東北6県+新潟県から首都圏に転出した女性)のヒアリング調査(筆者がインタビュアーを担当)において、高校時代には東京都のことを「海外」「異次元」と捉えて不安を感じていた女性たちも、大学時代に何度も東京にイベント参加やインターンなどで訪れることによって「全然怖くない」「私でもなじめる」と考えるようになる姿が浮き彫りとなった。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年08月30日「研究員の眼」)

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