2021年09月03日

2022年から実施される年金制度改正

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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2020年5月29日に、年金制度改正法案が国会で可決・成立した。この改正には公的年金と私的年金の双方の見直しが含まれており、互いに関係している部分もある。改正法の施行は公布日である同年6月5日から段階的に始まったが、本格的な施行は2022年から始まる。

同年4月からは、高齢期就労の拡大に合わせた改正が公的年金と私的年金の双方で実施される。公的年金では、受給開始時期の上限引上げ(70→75歳)、65歳以上の在職定時改定の導入、60代前半の在職老齢年金の見直しが実施される。私的年金では、4月に確定拠出年金(DC)の受給開始時期の上限引上げ(70→75歳)が、5月にDCの加入可能要件の拡大が実施される。

DCの加入可能要件の拡大は、一般に、企業型が65歳未満から70歳未満へ拡大、個人型が60歳未満から65歳未満へ拡大、と言われることが多いが、厳密には注意が必要である。現行の企業型では、原則の要件は厚生年金加入者(ただし公務員共済の加入者を除く)のうち60歳未満であり、60歳前と同じ事業所で継続して使用される場合に限って65歳未満まで加入できる。また改正後の企業型では、70歳未満という明記はなく、年齢制限のない厚生年金加入者(ただし公務員共済の加入者を除く)が対象となる。同様に個人型でも、現在は国民年金加入者のうち60歳未満と明記されているが、改正後は年齢制限が撤廃される。これに伴い、60歳以上65歳未満の国民年金第2号被保険者(厚生年金加入者)と国民年金任意加入者(基礎年金を満額受給できない等の理由で手続した場合)が、個人型の加入対象に加わる。

このようなDCの加入可能要件における明示的な年齢制限の撤廃は、今後の制度改正に向けた布石といえる。もし、2020年改正に向けた素案(2019年財政検証のオプション試算)で示されたように、厚生年金の加入要件が70歳未満から75歳未満へ拡大したり、国民年金の加入要件が60歳未満から65歳未満へ拡大したりすれば、企業型と個人型の加入可能要件は自動的に拡大する。
図表1:2022年以降の主な年金制度改正(その1)
図表2:2022年以降の主な年金制度改正(その2)
同年10月には、公的年金で厚生年金の適用拡大が実施される。短時間労働者では、企業規模要件(短時間労働者以外の厚生年金加入者数)が500人超から100人超へ拡大され、勤務期間要件が1年以上の見込みから短時間労働者以外と同じ2か月超の見込みに変更される。私的年金では、企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)加入時の要件が緩和される。現在は、企業型DCに個人型の加入を認める規定があり、事業主掛金の上限を通常の企業型の拠出限度額(DBがない場合は月5.5万円、DBがある場合は月2.75万円)から個人型の拠出限度額(DBがない場合は月2.0万円、DBがある場合は月1.2万円)を差し引いた額へ引き下げた企業の従業員に限られている。改正後は、個人型の加入を認める規定や事業主掛金の上限の引き下げが不要となり、企業型の拠出限度額から事業主掛金を差し引いた残額と個人型への拠出限度額のいずれか小さい額の範囲内で個人型への加入・拠出が可能となる。

さらに2024年12月からは、DBか企業型DCがある場合のDCの拠出限度額が一本化される見通しである。企業型の拠出限度額は月5.5万円に、個人型の拠出限度額は月2.0万円に統一された上で、この限度額からDBの掛金相当額を控除した残額が実際に拠出できる限度額となる。
図表3:確定拠出年金の拠出限度額(月額)
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2021年09月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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