コラム
2020年11月10日

黄金比φについて(その1)-黄金比とはどのようなものなのか-

中村 亮一

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はじめに

「黄金比」という言葉については、一度は耳にされたことがあると思う。また、その黄金比が社会のいろいろな場面で使用され、現われてくることをご存知の方も少なからずいらっしゃるものと思われる。

今回は、その「黄金比」に関連するテーマについて、2回に分けて触れてみたい。まずは、今回は、その定義及び関連した概念や歴史等について説明し、次回に、その「黄金比」がどのようなところで使用され、現れてくるのかについて報告する。なお、「黄金比」とは別の「貴金属比」である「白銀比」等や「黄金比」と深く関連している「フィボナッチ数列」については、別途報告することにしたい。

黄金比とは

黄金比(golden ratio)」というのは、通常「φ(ファイ)」1という記号で表される「黄金数」を用いて表現される比率、のことをいう。具体的には、「黄金数(golden number)」は、
黄金数
という数字のことをいう。黄金数は無理数である。ただし、実際のφの使用等においては、その概数である1.618という数字が使用されることも多い。

「黄金比」は、この黄金数を用いて、
黄金比
と表されることになる。
 
1 「τ(タウ)」という記号が使用されることもあるが、「τ」は次々回の研究員の眼で説明する「白銀比」で使用されることが多いようだ。

黄金比の意味するところ

a : b が黄金比(b/aが黄金数)であるとは、
a : b = b : (a + b) あるいは ( b − a ) : a = a : b  (b > a)
という等式が成り立つことを意味している。

このことは、1つの線分をaとbという2つの線分に分けた場合に、「2つの線分の比」と「線分全体と長い方の線分の比」が等しくなることを意味している(このため、黄金比は「外中比(extreme and mean ratio)」、「中外比」、「中末比」とも呼ばれる)。また、黄金比で長さなどを分けることを「黄金比分割」や「黄金分割(golden section)」と呼ぶ。
黄金比分割/黄金分割
上記の等式はa2+ab-b2=0 となり、x=b/aとすれば、x2 − x − 1 = 0 となることから、黄金数は、2次方程式 x2 − x − 1 = 0 の正の解となる。

また、この時、数列 a、b、a + b は、等比数列かつフィボナッチ数列2をなすことになる。因みに、フィボナッチ数列の隣接する2項の商は黄金数 φ に収束する。これは、以下のように示される。
フィボナッチ数列の隣接する2項の商は黄金数 φ に収束する
 
2 フィボナッチ数列(Fibonacci sequence) (Fn) は、次の漸化式で定義される数列である。
F0 = 0,F1 = 1,Fn+2 = Fn + Fn+1 (n ≥ 0)

黄金比の表示

数字を「連分数」と呼ばれるもので表示することがあるが、黄金数は以下のように表示される。
黄金数
また、「多重根号」と呼ばれるもので表示すると、以下の通りとなる。
多重根号
これらは、φ-φ―1=0より、φ=1+1/φ あるいは φ=√1+φ となることから、下記のように、右辺のφに同じ算式を繰り返し挿入していくことで、導かれる。
右辺のφに同じ算式を繰り返し挿入
さらに、三角関数や指数関数を用いると以下のように表示される。
三角関数や指数関数を用いる
なお、φ-φ-1=0 より、φ―1/φ=1となることから、φとその逆数の1/φは、小数点以下は同じ数が続くことになる。

黄金長方形

縦横比(縦と横の辺の長さの比)が黄金比になっている長方形のことを「黄金長方形(golden rectangle)」というが、黄金長方形から最大正方形を切り落とした残りの長方形は、やはり黄金長方形となり、もとの長方形の相似になる。
黄金長方形

黄金三角形

長い2辺と短い辺の長さの比が黄金比になっている二等辺三角形のことを「黄金三角形(golden triangle)」と呼ぶ。

一方で、短い2辺と長い辺の長さの比が黄金比になっている三角形もあり、これもある意味で「黄金三角形」と呼べるとも思われるが、一般的な定義には該当しないようだ。ただし、前者を「鋭角黄金三角形」、後者を「鈍角黄金三角形」というような呼び方をすることもあるようだ。英語では後者を「Golden gnomon」と呼んでいる。
黄金三角形

黄金角

黄金角黄金角(golden angle)」というのは、円周を黄金比で2分した際の、狭い方の角度のことをいい、その値は、約137.5°となる。

右図において、b/a が黄金比φになっている。

 

黄金数の長さの作成

黄金数の長さや黄金比自体を図形上で作成 黄金数の長さや黄金比自体を図形上で作成することは比較的容易にできる。

これは、右図のように、縦と横の2辺の長さがそれぞれ1と2の直角三角形を考えると、その斜辺の長さがピタゴラスの定理によって√5となることから、これらの3つの線分の長さを用いて、の長さを作成できるからである。

 
定規とコンパスを使った黄金長方形の作図 また、定規とコンパスを使った黄金長方形の作図は、以下のプロセスで行われる。

(1) 正方形ABCDの1つの辺BCの中点をEとする。
(2) EDを半径とする円弧とBCを延長した直線との交点をFとする(この時、ED、従ってEFの長さは√5になるので、BFの長さがとなる。
(3) よって、長方形ABFGは、黄金長方形となる。

正五角形

正五角形は黄金比と深く関連している。例えば、「正五角形の辺に対する対角線の比が黄金比φになっている」ということが挙げられる。

下図にみられるように、正五角形はその対角線で3つの三角形に区分されるが、その3つとも、1つの辺と他の2つの辺の長さの比が黄金比になっており、先に述べた「黄金三角形」となっている。

なお、正五角形は定規とコンパスによる作図が可能な正多角形の1つとなっている。
正五角形
さらに、「対角線同志の交点は、それぞれの対角線を黄金比に分割する」という点も挙げられる。正五角形の対角線によって、正五角形の中に五角の星形が作成されるが、これは「五芒星(ごぼうせい)」あるいは「ペンタグラム(pentagram)」や「ペンタルファ(pentalpha)」と呼ばれる。

この図形において、例えばa/b、b/c、c/dは全て黄金比となる。このため、「五芒星」は美しい図形であるとして、歴史的にもまた現代のデザイン等でもよく使用されている。例えば、米国の国旗である星条旗等の国旗にも五芒星が見られる。

五芒星は、一筆書きが可能な図形としてもよく知られている。

正多面体等に見られる黄金比

正多面体(regular polyhedron)と呼ばれるものは、「全ての面が同一の正多角形で構成され、かつ全ての頂点において接する面の数が等しい凸多面体のこと」をいう。正多面体には正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類しかない。これについては、以前の研究員の眼「サッカーボールは球形なのか-馴染み深い白黒のサッカーボールは、切頂二十面体と呼ばれるものがベースだってこと知っていましたか-」(2018.6.11)でその証明を紹介した。

この正多面体においては、表面的には黄金比はみられないが、正十二面体の面は正五角形になっていることから、先に述べたように黄金比が内在していることになる。加えて、この正十二面体、さらには正二十面体の表面積や体積には黄金比φが現れてくることになる。
菱形三十面体 さらに、正多面体ではないが、いわゆる「菱形三十面体(rhombic triacontahedron)」といわれる多面体の全ての面は、縦と横の対角線が黄金比になっている「黄金菱形」と呼ばれるものになっている。



 

黄金比の歴史

黄金比については、古代ギリシアの彫刻家ペイディアス(又はフェイディアス 、英語でPheidias、ギリシア語でΦειδίας)が初めて使ったと言われており、黄金数の記号「φ」は彼の名前の頭文字に由来している。ペイディアスは、ギリシアのパルテノン神殿を建築した人物として有名で、実際にパルテノン神殿を正面から見た場合の縦と横の比等に黄金比が使用されている。

古代ギリシアの数学者ユークリッドの著書「ユークリッド原論」の第6巻では、先の線分におけるaとbの関係に基づいた「外中比」の定義として、「線分を外中比に分ける方法」が記されている。

古代ギリシアより、西洋ではこの比率は「神聖なる比」として、崇められてきたと言われている。

「黄金比」という言葉が使用されるようになったのは、19世紀になってからで、まずはドイツの数学者マルティン・オーム(Martin Ohm)が1835年の「初等純粋数学(Die reine Elementar Mathematik)」で「黄金分割(goldener Schnitt)」という用語を使用したとされている。「黄金比(golden ratio)」の用語については、その後、英国の心理学者であるジェームズ・サリー(James Sully)が美学関連で使用し、スコットランドの数学者であるジョージ・クリスタル(George Chrystal)が初めて数学的な意味合いで使用したとされている。

なお、黄金比に対する数学定数「φ」に使用については、研究員の眼「数学記号の由来について」シリーズの中で触れることとする。
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(2020年11月10日「研究員の眼」)

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