コラム
2017年10月30日

円周率πが現われる世界-ビュフォンの針の問題-

中村 亮一

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はじめに

円周率のπ(パイ)については、直径1の円の円周の長さを表す数値として、学生時代に学んでおり、一般の人にも馴染みのある定数である。これまでの研究員の眼の中でも、何度かπについて触れてきた。多くの人が、πは無理数とよばれるもので、その具体的な数値については小数点以下が無限に続くものであるが、ほぼ3.14であると認識しているものと思われる。

それでも、πに対しては、何となく難しい数値で、とっつきにくいものだと思っている人も多いかもしれない。ただし、πという数字は、数学の世界の幅広い場面で現われてくる。今後、πに絡む話題をいくつか紹介していきたいと思う。

今回は、有名な「ビュフォンの針の問題」についてである。

ビュフォンの針の問題

ビュフォンの針の問題とは、「間隔tで平行線が引かれた平面に、長さℓの針を無作為に投げた特に、針が平行線と交わる確率を求める。」問題である。答えは、2ℓ/tπ(ℓ≦tの場合)となる。

なお、より馴染みがあるのは、t=2ℓ とした特殊なケースで、この場合の確率は 1/π(=0.3183…)ということになる。

いずれにしても、ここで、円周率πが登場してくる。何とも不思議な感じがするのではないか。
ビュフォンの針の問題

ビュフォンの針の問題の証明

これを証明するために、まずは無作為に投げられた針の位置を示すために、以下の図を考える。

針の位置は、針の中心Pから最も近い平行線までの距離をxとし、針とこの平行性がなす角度をθとすれば、xとθで表すことができることになる。ここで、問題の確率を求めるには、容易に分かるように、0≦x≦t/2、0≦θ≦π/2(=90°)の範囲で考えれば十分である。
ビュフォンの針の問題の証明
針が線と交わるのは、x≦(ℓ/2)sinθ の時となる。

ここで、「xとθがそれぞれの区間で一様分布に従う」とすれば、xとθが無作為に決まるとして、x≦(ℓ/2)sinθ となる確率は、xが0とt/2の間にある確率密度関数とθが0とπ/2の間にある確率密度関数及び2つの確率変数xとθが独立であるということから、以下の通りとなる。
x≦(ℓ/2)sinθとなる確率は
この証明をみていただければわかるように、πが現われてくるのは、針がいろいろな場所に無作為に落ちる状態を表すのに、針の中心点と平行線との距離xに加えて、針と平行線が交わる角度θが用いられ、このθの一様分布を前提に確率を求めていくことになるからである。

言われてしまえば、何だそうかと思われるかもしれないし、それでも今一つしっくりこない方もおられるかもしれない。

補足

ここまでは、あくまでもℓ≦tの場合(即ち、平行線の間隔よりも針の長さが短い場合)について考えてきた。ℓ>tの場合(即ち、針の長さが平行線の間隔よりも長い場合)には、ℓsinθ>t となることもあるので、問題は簡単ではなくなる。

結論だけを示せば、以下の通りとなる。
結論
針の長さと平行線の間隔の関係という、ちょっとした前提がかわるだけで、結論は極めて複雑なものになってくる。こうしたことは世の中に往々にしてみられるものである。

ビュフォンについて

ビュフォンの針の問題を提案したビュフォン伯爵(Georges-Louis Leclerc, Comte de Buffon)(1707~1788)は、フランスの博物学者、数学者、植物学者である。数学者としてよりも、むしろ博物学者として有名である。ビュフォン伯爵は、天変地異説を否定し、自然は動植物の種を含めて徐々に変化を遂げると考えて、後の進化論の形成に影響を与えている。

さらに、数学の分野では、確率論に微分・積分の概念を導入した。なお、ビュフォンの針の問題は、逆に多くのシミュレーションを行うことで、πの近似値を求めることができることになるため、モンテカルロ法1のルーツとなったとして知られている。
 
1 モンテカルロ法 (Monte Carlo method) とは、シミュレーションや数値計算を乱数を発生させて行う手法。カジノで有名なモナコ公国の4つある地区の1つの名前に基づいている。

最後に

針を落として、その位置を観測するという単純な行動が、πという数学の世界の重要な数字や、モンテカルロ法という統計の世界で欠かせない手法と深く関わっているというのは、何とも面白い話ではないだろうか。

ビュフォンの針の問題は、針を平行線(等間隔の直線)が引かれた平面に落として、それが平行線に交わる確率を求める問題であるが、これを拡張して、例えば、同心円(半径が等間隔の円)が書かれた平面に落とした場合に、それが同心円に交わる確率はどうなるのか、さらには、等間隔の正方形が書かれた平面に落とした場合に、それが正方形と交わる確率はどうなるのか、といった問題を考えることもできる。

今やコンピューターを使えば、多数の試行を繰り返すことで、結果数値の概要を知ることは比較的容易にできるようになっていると思われるが、その結果を合理的に説明あるいは証明することは必ずしも容易ではない。このことは、過去の実験等に基づく観測値や経験則の説明のための理論構築に、多くの優秀な研究者等の多大な時間と労力が費やされていること、それでも未だ解決されていない問題が数多く存在している、ことが示している。

いずれにしても、単なるお遊びのように見えることでも、実は重要な法則等が含まれており、大きな発見につながっていくものである、ということを直に感じられるとしたら、それはそれで楽しいものではないかと思われるがいかがだろうか。
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(2017年10月30日「研究員の眼」)

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