2026年01月07日

成熟した企業年金における短期資産保有の合理性を再考する

金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、企業分析

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日銀によるマイナス金利政策解除を受け、短期資産も多少の収益が期待できるようになった。しかし、数年前までは、収益がほとんど期待できないどころか損失を覚悟せざるを得ない環境が続いた。確定給付企業年金の資産構成割合の推移を確認すると、国内債券や国内株式の割合が減少する一方でその他の割合が増加するなど、資産構成は大きく変化している。それにもかかわらず、短期資産の割合は4~5%程度で安定しており、マイナス金利政策期間の短期資産の割合はそれ以前よりわずかに高い(図表1)。
図表1:確定給付企業年金の資産構成割合の推移
これは、短期資産と他の資産との保有目的の相違で説明できる。他の資産の保有目的は、将来にわたる給付金の支払いを確実に行うために必要とされる収益の獲得である。一方、短期資産の保有目的は当面の給付金支払いに必要なキャッシュの確保である。このため、最適な資産構成割合を導出する際、一般的に短期資産の割合は所与(制約条件)として扱う。
 
収益の獲得を目的とする他の資産の構成割合は、中長期的な期待収益率の変化や新たな投資対象資産の出現によって変化する。一方、短期資産の構成割合は当面の給付金見込み額に応じて変化する。マイナス金利政策期間の短期資産の割合がそれ以前よりやや高いのは、確定給付企業年金の成熟度が高まったためと考えられる。

企業年金実態調査によると、給付金が掛金収入の2倍を超える企業年金の割合が2015年度の13%から2023年度は23%に拡大している。成熟度が高いほど高流動性資産の重要性が高いとはいえ、伝統的4資産は非伝統的資産と異なり流動性が高いと考えられている。そのため、給付金の支払いに合わせて、流動性が高い伝統的4資産を売却するという方法も考えられるが、流動性危機に備え、当面の給付金支払いのためのキャッシュを確保しておくことが望ましい。大規模災害やパンデミック、ネガティブな政策変更などをきっかけに市場が混乱し、市場流動性危機に陥ると、適正な価格での売却は困難となる。
 
また、必要額に合わせて収益率が変動する資産を売却するという行動は、たとえ流動性危機が発生しなくても確率的に不利に働くといった悪影響も指摘されている。収益率が変動する資産を売却しその都度必要額を捻出すると、価格が高い時期は売却量が少なく済む一方、価格が低い時期は売却量が増えてしまう。結果として安い時期ほど多く売却することになるので不利益となる(図表2)。短期資産に代えて価格が変動する資産に投資することで得られる追加収益が、不利益を上回るかもしれないが現実的ではない。
図表2:収益率変動性による悪影響(イメージ)
積立金額に占める1年間の給付金見込み額の割合が5%、収益率が変動する資産と短期資産との期待収益率の差が2.5%なら、追加利益は0.125%に過ぎない。一方、シミュレーションによって資産全体に対する不利益の程度を推計すると0.5%程度であった。なお、シミュレーションにおいて収益率変動性(以下、リスク)は年率10%で、給付金の支払いタイミングは2か月に1回(年6回)、毎回同額を捻出すると仮定した。
 
期待収益率とリスクは密接な関係があるので、価格が変動する資産のリスクが高いほど追加利益も増加するが、それ以上に不利益が増加する。このため、当面の給付金支払いに必要な額を短期資産もしくはリスクの低い資産で確保することは合理的といえる。しかし、積立金は将来の給付に充てられるため、リスクの高い資産から給付金を捻出することは避けられない。そのため、リスクの高い資産からの給付金捻出の際には、相対的に価格が高い資産ほど売却量を増やす仕組みを持つリバランスと組み合わせるなどの工夫が重要なのである。

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また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2026年01月07日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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