2025年12月03日

インド経済の見通し~関税逆風下でも、政策効果により内需主導で高めの成長を維持

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

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1.経済・金融環境の現状

(GDP統計の結果:成長率は8%台へ、名目との差は縮小)
2025 年 7–9 月期の実質GDP成長率1は前年同期比8.2%と、前期(7.8%)から小幅に加速した。Bloombergが集計した市場予想(7.4%)から上振れとなった(図表1)。
(図表1)実質GDPと名目GDP 一方、名目 GDP 成長率は前年同期比8.7%と前期の8.8%から小幅に低下した。

GDP デフレーターは 同0.5%と、CPIの伸びに比べてデフレーターは極めて低い水準であった。これまで続いていた「名目>実質」の構図は大きく変化し、物価要因による押し上げはほとんど見られなかった。
 
1 11月28日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2025年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
(支出別の動向:消費・投資が成長を牽引、政府消費は弱い)
支出別に成長率の寄与をみると、民間消費と総固定資本形成が大きく押し上げ要因となり、輸入の増加が成長を押し下げた(図表2)。

民間消費は前年同期比7.9%(前期:7.0%)と伸びがやや加速した(図表3)。都市部の雇用環境が改善してサービス消費が堅調に推移したほか、所得税減税の効果が持続し、可処分所得を下支えした。なお新GSTの税率見直しは9月22日施行のため、7–9月期内での消費喚起効果は限定的とみられ、来期以降に本格化する見込みである。

政府消費が同▲2.7%だった。前期(7.4%)は前年度の総選挙期間中の支出抑制の影響で強い伸びだったが、反動増の影響が剥落した7-9月期は補助金削減・歳出抑制の影響が顕在化して再び減少したとみられる。

総固定資本形成は同7.3%(前期:7.8%)と増勢がやや鈍化したが、依然高めの伸びを維持した。政府による資本支出が高い執行ペースを保った一方、企業部門の設備投資は設備稼働率の改善が緩やかなことから依然慎重であった。

純輸出については、輸出が同5.6%(前期:6.3%)とやや鈍化した。好調だった米国向けが鈍化したものの、中国・中東向けが改善した。一方、輸入は同12.8%(前期:10.9%)と加速した。内需拡大に伴って中間財・消費財の輸入が増加したことが背景である。その結果、純輸出の成長率寄与度は▲2.1%ポイント(前期:▲1.4%ポイント)とマイナス幅が拡大した。
(図表2)実質GDP成長率(支出別寄与度)/(図表3)支出別の成長率
(産業別の動向:製造・金融・公共サービスが成長源泉に)
産業別(GVA)では、実質GVA成長率は前年同期比8.1%(前期:7.6%)とやや上昇した。主要6部門のうち 製造業、金融・不動産、公共サービスが高い伸びを示し、経済全体をけん引した(図表4)。

農業は同 3.5%(前期:3.7%)と小幅に鈍化した(図表5)。南西モンスーンの降雨の地域的な偏りが影響して、作物生産の拡大は緩やかにとどまった。

製造業は同 9.1%(前期:7.7%)と高めの成長となった。鉱工業生産では、自動車や電子機器といった都市部向けの需要に関連した業種が堅調だったほか、基礎金属などインフラ・建設需要に関連する業種も増加した。また、電子機器や化学品など一部の輸出関連品目が持ち直したことも、製造業全体を下支えした。

建設業は 同7.2%(前期:7.6%)と堅調な伸びを維持した。政府の資本支出の増加や都市部住宅市場が底堅いことも建設活動を支えた。

商業・運輸は同7.4%(前期:7.4%)と、前期並みの伸びとなった。物流量の増加やサービス消費の回復が引き続き寄与した。

金融・不動産は 10.2%(前期:9.5%)と、今回の主要部門の中で最も高い成長となった。都市部の不動産市場が堅調で、個人向けローンの好調などから金融仲介サービスも拡大した。

公共サービスは 9.7%(前期:9.8%)と高い伸びを維持した。中央政府では補助金など一部経常支出の抑制が進んだ一方で、行政サービスや医療・教育など人件費中心の支出は中央・州政府とも増加基調を保っており、公共サービスの実際の提供量は底堅く拡大したとみられる。
(図表4)実質GVA成長率(産業別寄与度)/(図表5)産業別の成長率
(物価の動向:食料は振れが大きいが、コアは落ち着き総合も安定)
消費者物価はディスインフレが進み、総合CPIは2025年に入って急速に低下している。2022年には7%前後まで達したが、その後は鈍化が続き、2024年は4~5%台、2025年は1%台へと低下。7月以降は中銀の物価目標(2~6%)を下回る状態が続いている(図表6)。
(図表6)消費者物価上昇率 CPIの内訳をみると、食品・飲料と燃料・電力の弱さが物価の押し下げ要因となっている。食品・飲料は豊作・輸入増加・昨年の高騰に伴う反動などが押し下げ要因となり、6月以降マイナスの伸びが続いている。燃料・電力は国際原油価格の落ち着きや再生可能エネルギー比率の上昇に伴うコスト構造の安定化により、昨年マイナスが定着し、足元でも2%台の低い伸びが続いている。

一方、コアインフレ率は4%程度で安定して推移している。パーソナルケアは二桁増が続いているほか、住宅が3%程度、保健が4%程度で推移しており粘着性が残る。総合CPIの低下は主として食料・エネルギーによるもので、基調的な物価圧力全体が大きく弱まっているわけではない。
(図表7)卸売物価上昇率 企業物価(WPI)は総合で0%程度の低い伸びが続いており、供給面のコスト圧力は限定的である(図表7)。内訳では、一次産品と燃料・電力がいずれもマイナスの伸びとなっており、原材料価格やエネルギーコストの落ち着きが鮮明である。こうした動きは、足元の消費者物価の低下とも整合的であり、当面の物価上昇圧力は抑制されている。

総じて、足元の物価環境は「総合CPIは極めて低い一方、コアインフレは安定」という構図で、家計の購買力には追い風となる一方、基調的インフレは一定の粘着性を保っている。
(金融政策の動向:据え置き姿勢だが、バイアスは緩和傾向
RBIは、2022年のインフレ急伸局面で政策金利(レポレート)を6.5%まで引き上げた後、2024年末以降は景気の減速感や外部環境の不透明さを背景に金融緩和に転じた(図表8)。2024年12月には、RBIが預金準備率(CRR)の0.5%ポイント引き下げを発表し、銀行部門の流動性を直接押し上げた。さらに、2025年6月にはCRRを年内に合計1%ポイント引き下げる方針が示され、9~11月にかけて実施された。流動性環境は一段と緩和方向に傾きつつある。
(図表8)主要金利と流動性指標の推移 政策金利は2025年2月の金融政策委員会(MPC)から3会合連続で累計1.0%ポイントの利下げを実施し、5.5%まで引き下げられており、その後の8月と10月の2会合では据え置かれている。10月のMPCでは、(1) 2025年度のインフレ見通しを3.1%から2.6%へ下方修正する一方、(2)実質成長率見通しを6.5%から6.8%へ上方修正するという、インフレ・成長の両面で環境改善が示された。声明では「インフレ環境は従来の想定よりも一段と穏やかなものになる」とする一方で、米国の追加関税や世界金融市場の変動など外部リスクが依然として大きいことを踏まえ、「景気回復の持続性を見極めるため当面は据え置き」が適切との判断が示された。投票行動では、中立スタンスの維持に対し2名が「緩和的スタンス」への転換を主張しており、委員の一部で緩和バイアスが強まっていることが明らかとなった。

ただし、足元の実質金利は高水準にある。10月のCPI上昇率が前年比0.25%まで低下した結果、政策金利5.5%との組み合わせでは実質政策金利は5%台となり、過去と比較しても高い水準となっている。市場金利(3カ月銀行間金利)も、将来の小幅な利下げを一定程度織り込みつつ、足元の高い実質金利を反映した水準で推移している。

銀行貸出は、個人向け(住宅・消費関連)が引き続き貸出全体をけん引している一方、企業向け貸出は慎重さが残る。流動性はCRR引き下げにより供給が増えているものの、貸出や資金需要の構造的な伸びに対しては依然として偏りが大きく、総合的な金融環境は「名目金利は据え置き、中長期金利・貸出環境はややタイト、流動性は緩和バイアス」という複雑な姿となっている。

もっとも、足元のインフレが0%台まで低下し、実質政策金利が5%台と過去と比較しても高い水準にあることを踏まえると、RBIが慎重姿勢を維持しつつも、追加利下げの余地は広がっている。特にCRRの引き下げが既に完了し、流動性面の緩和が先行している点を踏まえれば、政策金利の調整が次の焦点になりやすい。こうした状況を総合すると、12月の会合でRBIが0.25%程度の利下げに踏み切る可能性が高まっているとみられる。

2.トピックス:GST2.0の影響

2.トピックス:GST2.0の影響

(次世代GSTの施行タイミングと制度変更の要点)
次世代GST(GST2.0)は 2025年9月22日に施行され、

(1) GSTN上で申告・電子インボイス・E-way Billを統合(データ一本化)
(2)  電子インボイスの全事業者義務化
(3) 税率区分の簡素化(選択的な税率引下げ)

が導入された。GSTNはGSTのIT基盤で、これらの情報を一体管理することで、売上・物流・申告の不一致を自動検知できるようになり、脱漏と不正還付を抑制する仕組みが強化された。E-way Billは州をまたぐ貨物輸送に必須の電子通行証で、物流情報が申告・インボイスと統合されたことが今回の改革のポイントである。こうしたデータ統合により、企業の事務負担は軽減され、在庫管理や資金繰りの精度が高まるほか、取引の信頼性が向上し、企業間取引や金融アクセスが円滑化するなど、サプライチェーン全体の効率性を高める効果がある。これらは生産性向上や企業の競争力強化を通じて、中期的な成長基盤を押し上げる構造的効果につながる。

一方で、政策タイミングには短期的な狙いもあった。2025年8月27日に導入されたトランプ関税(追加25%)によって輸出の下押しリスクが高まるなか、減税を通じて内需、とくに祭事商戦期の耐久財・サービス需要を刺激し、外需減速を補うことが意図された。制度施行を祭事商戦の直前に合わせたことは、家計・企業の購買意欲を高め、短期の景気下支えにも資するタイミングとなった。

なお、今回の税率再編は税収中立を掲げて設計されており、税率引下げの財政影響は捕捉率の改善で相殺する方針が示されていた。この点は後述の税収動向とも整合的である。
(経済指標の反応)
GST徴収額は、州際取引の精算や輸入動向の影響を大きく受けるため、GST2.0の施行直後に明確な上振れは確認されない(図表9)。一方で、国内取引ベースの収入は、10月に前月比で増加したが、これは例年の祭事商戦に伴う季節的な消費・流通増が主因である。前年同月比ではほぼ横ばいにとどまっており、税率引下げによる押し下げ効果と、電子インボイス義務化やデータ統合による捕捉率改善の押し上げ効果が概ね相殺されたことが確認できる。基調としては横ばいで、政府が目指した税収中立の設計意図に整合する動きとなっている。

モノの消費に与えた影響をみると、自動車販売の反応に乗用車と二輪車で明確な違いが見られる。税率はいずれも一般モデルで28%から18%へと引き下げられたが、販売動向は異なる。乗用車は2025年10月に前年同月比17.2%と大きく持ち直し、制度変更に伴う不透明感の後退や祭事商戦期の需要が重なって買い控えが解消したとみられる(図表10)。一方、二輪車は同2.1%と伸びが乏しく、減税による価格メリットが小さいほか、農村所得や金融環境などマクロ要因の重しが続いた結果、政策効果が表れにくかったと考えられる。このように、耐久財の中でも都市部中間層が主たる需要主体である品目ほど政策効果が現れやすかったと整理できる。
(図表9)GST徴収額/(図表10)自動車販売台数

3.短期経済見通し

3.短期経済見通し

インド経済は、足もとの内需の底堅さと公共投資の高い執行を背景に、今後1~2年にわたり堅調な成長軌道を維持すると見込まれる。所得税減税に伴う家計の可処分所得の増加、IT・金融・専門サービスを中心とするサービス部門の堅調な拡大、政府の資本支出の継続が成長を押し上げる。とくに、都市部の雇用環境の改善や外食・旅行・娯楽など都市型サービス需要の高水準での推移が、消費を下支えする展開が想定される。加えて、新GST(GST2.0)は7–9月期の成長率にはほとんど影響していないが、10月以降の祭事商戦期を起点に耐久財・サービス需要へ徐々に波及するとみられ、短期的な成長率のリスクはやや上振れ方向に傾いている。

一方、外需は世界経済の減速と関税措置などの政策要因による不確実性が継続し、輸出の寄与は限定的となる公算が大きい。7–9月期時点でも、米国向け輸出は8月下旬に導入された+25%の追加関税の影響もあって伸びが鈍化しており、中国向けなど他地域向けの堅調さに支えられつつも、全体としては輸出の牽引力は限られた。先行きも、関税の撤回が見通せないなかで米国向けは抑制された状態が続くとみられ、世界経済の減速とあわせて、純輸出の成長寄与は小幅なマイナスが続く可能性が高い。製造業の回復には時間を要し、民間設備投資も改善基調ながら慎重姿勢が残る。これらを踏まえると、短期的な牽引役は引き続き国内需要、とりわけ公共投資と都市部消費となる見通しである。

物価は引き続き食品価格に左右されやすい。2024年に食品価格が高騰し、2025年に大きく低下した結果、2025年の食品CPIは「前年が高かった反動」で強い下押し圧力がかかってきたが、2026年に入ると「前年が低かった反動」で食品のベース効果は押し上げに転じる見通しである。一方、コアインフレ率は4%前後で安定しており、基調的な価格圧力は落ち着いている。GST2.0の税率引下げは主に耐久財に限定され、CPIウエイトも小さいため、物価全体への影響は限定的とみられる。

金融政策の見通しとしては、RBIは当面、政策金利を据え置きつつインフレ動向と外部環境の変化を慎重に見極める姿勢を続けるが、足元のインフレ鈍化により実質金利は高水準にあり、追加緩和の余地は拡大している。食品価格の変動リスクには留意が必要なものの、コアインフレが安定している点や、世界的な金利低下の流れも追い風となる。こうした環境を踏まえると、RBIが12月会合で0.25%程度の小幅利下げに踏み切る可能性が高い。

短期的なリスクとしては、上振れ方向では公共投資の一段の加速やGST改革など制度面の進展が挙げられ、これらは内需を押し上げる可能性がある。下振れ方向では、食品価格の急騰、世界景気の想定以上の減速、関税措置・地政学リスクの悪化、民間投資回復の遅れなどが挙げられ、これらは成長と物価の見通しを不安定化させうる。
(図表11)経済予測表 総じて、インド経済は「潜在成長率近辺を維持する内需主導の成長シナリオ」がメインシナリオである。内需はなお堅調であり、物価の基調は安定、金融政策は慎重な据え置きを維持しつつ、状況に応じた緩やかな調整余地を持つ構図が続くとみられる。足もとの統計では、GST2.0の効果は自動車販売など耐久財消費には徐々に押し上げ効果が現れ始めており、この動きが内需主導の成長シナリオを下支えする展開が見込まれる。

これらを踏まえると、2025年度の実質GDP成長率は6.9%と前年度の6.5%から加速し、2026年度は6.5%へ緩やかに鈍化する見通しである(図表11)。

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(2025年12月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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