2025年12月03日

生成AIと著作権-利用と権利保護の両立にむけて

保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

5――開発者の開発・学習行為と著作者の利益を不当に害する場合

1総論
著作権法第30条の4の但し書きでは「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」と規定しており、同条2号にある技術解析目的の利用であっても、但し書きに該当する場合には権利制限されない。

考え方では、同条但し書きに該当するかどうかを検討するに当たっては、著作者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要と考えられると指摘する24

そして、このような観点から、考え方では、学習データとしてデータベースの著作物と海賊版の複製・入力について検討している25
 
24 考え方p23参照。
25 これ以外の場合に但し書きの例外規定に該当する場合がないわけではないことにつき、前掲注11澤田p65参照。
2|データベースの著作物
情報の選択または体系的な構成によって創作性を有するデータベースは「データベースの著作物」として著作権法上保護される(12条の2第1項)。すなわちデータの組み合わせであって、データの配列や選択に独創性があれば著作物性が認められる。また、個々のデータが取材記事(単なる事実の記載にとどまらない記事)であるなどデータそのものに著作物である場合も考えうる(新聞社サイトや日経テレコムなど)。この場合は、データそのものの著作権とデータベースの著作権が重複的に存在することとなる。

このような創作的表現が認められる一定の情報のまとまり(データベース)を情報解析目的で複製する行為は、30条の4の但し書きに該当し、著作権法に違反する場合があり得るものと考え方では整理している26。特に、有料で販売されているデータベースの個々のデータを、生成AIの学習データとして利用する場合について問題となるが、それについては次項で述べる。
 
26 考え方p25参照。
3著作者による複製防止技術の適用
新聞社などでは自社の記事のインターネット上のファイルに「robots.txt」を記述することで、検索のためのインデックス化(学習データとしての読み込みも含む)を拒否する指示を書き込むことを行っている27。そして有償のAPI(Application Programming Interface。システム同士を連結する方法のこと)連動でデータを提供しているケースがある。また、ファイルにパスワードが付しており、一般にはアクセスできない状態に置かれているものがある。

そもそも、著作権法30条の4は著作者の利益を害しない場合であれば、著作者の意思とはかかわりなくAI学習を可能にするものである。考え方では、著作者によるアクセス制限は著作権法30条の4の効力を否定するものではなく、AI学習のためのデータ取得・複製の合法性に関して影響を与えないとしている28

ただし、データベースを現在提供しており、あるいはアクセス制限措置が講じられていることや過去の実績などから将来的にデータベースとして販売される予定であると推認される場合においては、AI学習が将来の潜在的販路を阻害する行為として法30条の4の但し書きに該当する(=著作権法に反する)としている29。これは著作物であるデータベースの利用市場の機会を、生成AIが奪取する場面での問題である。

この点、新聞社の公開している記事群はそもそも既存のデータベースの一部であり、検索結果に従い記事を表示しているだけとの指摘がある30。そうすると、例えばAPI連動を行わず、ポータルサイト経由で無料記事を取得することはデータベースの一部を複製している。このことは著作権法30条の4但し書きに該当し、著作権法違反となるものと考えられる31。また、この場合、著作権法47条の5でも権利制限の例外となる「当該軽微利用の態様に照らし著作者の利益を不当に害する」にも該当し、著作権法違反となる32
 
27 日本新聞協会の声明では、加盟各社が「robots.txt」を記述しているにもかかわらず、学習データとして収集を行うAI開発者が存在しており、そのような収集をやめるべきことを主張している。https://www.pressnet.or.jp/news/headline/250604_15902.html 参照。なお、「robots.txt」はもともと検索インデックスに利用しないための記述であったが、昨今ではAI学習に利用されないための記述として利用されている(前掲注7田村p86参照)。
28 考え方p26参照。
29 考え方p27参照。
30 前掲注16奥邨p121参照。なお、同論文ではデータベースの構成要素はデータ(記事)、選択、体系的構成の三つであり、選択か体系的構成に創作性があれば著作物と認められる。記事の取り込みにあたっては、選択しか複写していないものの、「著作物の利用市場との衝突」があり、著作者の権利を不当に害するとしている。
31 前掲注16奥邨p122では、但し書きに該当し、著作者が保護されるデータベースとは情報解析用のデータベースであり、ネット上で利用できる閲覧用のデータベースの内容を複製した場合においては、それが情報解析用データベースと共通する範囲で但し書きの適用を受けるとする。
32 前掲注7田村p87参照。
4|海賊版等の複製
AIの事前学習・追加学習において海賊版を複製・入力する可能性がある。海賊版をそれと知りながら排除する措置を取らなかったということを回避すべきというのは当然である33

過失の場合に関しては、考え方では、海賊版等の権利侵害複製物を掲載するウェブサイトからの学習データの収集を行う場合等において、問題となるのは事業者において以下に当てはまる場合とする。すなわち、(1)少量の学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行う目的を有していたと評価され、(2)当該生成AIによる著作権侵害の結果発生の蓋然性を認識しながら、かつ、(3)当該結果を回避する措置を講じることが可能であるにもかかわらずこれを講じなかったといえる場合である。この場合は、当該事業者は著作権侵害の結果発生を回避すべき注意義務を怠ったものとして、当該生成AIにより生じる著作権侵害について規範的な行為主体と(後述6-5)して侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられるとする34
 
33 考え方p28参照。
34 考え方p29参照。

6――侵害行為に対する措置

6――侵害行為に対する措置

1|総論
侵害の有無が問題となるのは、一般に、生成物と既存の著作物との同一性が認められる場合である(図5)。生成物が出力・公表されることで、著作者は自身の著作物が複製されたものと認識でき、著作権侵害を主張できることとなる。
【図5】著作権侵害の有無が問題となる場合
考え方で示されている中で、既存の著作物と生成物の表現の同一性が問題とならない唯一の例外としては、開発者がデータベースのデータを読み込むことが著作権侵害になる場合である35。この場合においては、著作物であるデータベースの著作者の権利を不当に害するものとして、著作権法30条4の権利制限の適用がなく、学習データを読み込むことが開発者による著作者の複製権の侵害となる。
 
35 海賊版からのデータ収集については、考え方では、既存の著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物を出力されるような目的を有していた場合において、一定の要件を満たすときに著作権侵害が生ずるとしている。このため、既存の著作物と生成物に同一性があるときが問題となるとの考えを示しているものと思われる。
2差止請求
著作者はAI学習、あるいは利用に際して著作権侵害が生じた場合、AI学習のための複製を行った開発者あるいは生成物を出力した利用者に対し、侵害行為の差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求(著作権法112条1項)及び侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条2項))を行うことが考えられる。差止請求を行う者は(1)自身が著作権を有すること、および(2)開発者が著作権を侵害したことを主張立証する必要がある36

ここで論点となるのは、(2)の著作権侵害があったかどうかである。上述(3-2)の通り、生成物が既存の著作物に依拠性があり、かつ同一性があることで侵害の有無が判断される。すなわち、既存の著作物との同一性があり、かつ既存の著作物に基づいている(アクセスがある)とされる場合である。
 
36 髙部眞規子「著作権侵害訴訟における主張立証と『AIと著作権に関する考え方について』」(ジュリスト2024年6月号)p80参照。
3|損害賠償請求
損害賠償請求は不法行為に関する規定である民法709条に基づいて行われる。損害賠償請求においては上記2|の(1)(2)に加え、(3)被告の故意または過失、および④被告の行為による損害の発生を立証することが要件とされている。責任の主体は誰になるかという問題については次項以降で述べるが、責任主体に故意・過失があるかが損害賠償請求において特に問題となる。
4利用者が責任主体となる場合
著作権を侵害する生成物が出力された場合においては、物理的な侵害行為を行った主体が法的責任を負う。この判断にあたっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断すべきである(最判平成23年1月20日「ロクラクII事件判決」)37とされている。利用者が一定のプロンプトを入力した結果作品が生成されることを考慮すると、AI開発者・提供者が実際に主体といえるような事案は必ずしも多くないとの指摘がある(図6)38
【図6】利用者が著作権侵害を行った場合
典型的な例としては、プロンプトとして利用者が特定の著作物を読み込ませ、これに類似する生成物を出力するケースである(Image to Image)。この場合は、依拠性が明らかであり、かつ同一性も認められることから著作権侵害が認められる39。同様の例としては、具体的な既存の著作物を利用者がイメージしながらプロンプトを入力することにより、これに類似した生成物が出力したケースも考えられる。なお、作品に同一性があることは客観的に判断されるが、依拠性は利用者が既存の著作物にアクセス可能であったかどうかで最終的に判断されるので、その立証には困難が想定される40

問題となるのは、利用者が生成物の出力にあたり、同一性が認められる既存の著作物を認識していなかったが、生成AIが学習データとして読み込んでいた場合である。この場合に、既存の著作物と類似性のある生成物が出力されたケースが生じうる。この場合にも、考え方では、利用者について依拠性が認められるとする41。ただし、この場合においては、利用者に通常は故意・過失がないので、差止請求(生成物の掲示やネットでの公開の停止など)のみが認められ、損害賠償請求については、認められないということになる42
 
37 https://www.ip-bengoshi.com/archives/2137 参照。本文記載は子機を操作することで親機がTVを録画し、その録画を子機で視聴することのできるシステムをサービスとして提供する事業者が、複製(録画)するのは子機を操作するユーザーであると主張したことに対して裁判所が説示した部分である。
38 前掲注38髙部p82参照。
39 考え方p33参照。
40 例えば生成物作成より以前に利用者が既存の著作物をSNSで投稿していたような場合は認められやすいであろう。
41 考え方p34参照。
42 考え方p35参照。なお、考え方では、学習データに取り込まれた著作物の創作的表現が出力されないようにする技術(フィルタリング)が存在することから、仮に学習データとして入力していたとしても、このような技術を採用していることが利用者の抗弁としてありうるとする。
5規範的行為主体論
裁判例では、著作権侵害の主体として、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体(あるべき論としての責任者)として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的行為主体論)43としている。

 AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物理的な行為主体である当該 AI 利用者が著作権侵害行為の主体として、著作権侵害の責任を負うのが原則である。他方で、上記の規範的行為主体論に基づいて、生成AIの利用者ではなく、開発者・提供者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる(学習データの読み込みがデータベースの著作者の権利を不当に害する場合は上述の通り)。

AI開発者・提供者が、もっぱら特定の著作物の侵害のみを目的とする生成AIを作成し、他人の使用を意図して提供した場合は、他人の使用により、著作権の侵害を惹起したものとして不法行為に基づく損害賠償責任を負う(最判平成13年2月13日「ときめきメモリアル事件判決」44を参考)。また、侵害の主体とまではいえなくても、著作権侵害を惹起する生成AIを提供した事業者が、一定の場合に利用者のほう助者として責任を負う場合もある(最判平成13年3月2日「ビデオメイツ事件判決」を参考)45

考え方では、例えば「ある特定の生成 AI を用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる」とする46。したがって、このような結果が想定されるのであれば、防止措置を講ずることが法的責任を回避するために必要となる。開発者が責任を負う場合を示すと図7の通りである。
【図7】開発者が責任を負う場合
これらの事情が認められる場合において、考え方では、著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合は、当該 AI 学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去が、将来の侵害行為の予防に必要な措置の請求として認められ得るとする47
他方、考え方では「AI学習により作成された学習済モデルは、学習に用いられた著作物の複製物とはいえない場合が多いと考えられ、「侵害の行為を組成した物」又は「侵害の行為によって作成された物」には該当しないと考えられる」といった理由等から通常、廃棄請求は認められないとする48
 
43 考え方p36参照。
44 本事件は、あるゲームソフトについて使用者が有利になるように改変するメモリーカードを輸入販売した事業者に対して、使用者が利用することによって,著作物の同一性保持権を侵害させたものとして、その責任を認めた判決である。なお、考え方では、特に高頻度で侵害物が生成される場合には、開発者等が責任主体となる旨の考えが示されている。
45 カラオケのリース会社が、リース先で著作権許諾をしていることを確認する注意義務を負うとした事件の最高裁判決である。なお、注46,47に関して前掲注38髙部参照。
46 考え方p37参照。
47 考え方p30参照。
48 ただし、考え方では追加学習によって学習モデルに著作物の創作的表現が残存しているといえる場合には廃棄請求が可能としている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年12月03日「基礎研レポート」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

週間アクセスランキング

ピックアップ

【生成AIと著作権-利用と権利保護の両立にむけて】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

生成AIと著作権-利用と権利保護の両立にむけてのレポート Topへ