コラム
2025年11月25日

複素数について(その4)-複素解析(複素関数とは)-

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■要旨

今回の研究員の眼のシリーズでは、「虚数」及び虚数と実数で構成される「複素数」について、今一度それがどのようなもので、どんな性質を有しており、はたまたそれがどのように社会で役に立っているのか等について、何回かに分けて報告している。

今回は、虚数や複素数が数学の世界でどのように利用されているのかということで、複素解析について、3回に分けて紹介する。まずは、今回は複素関数の定義を示し、実関数との類似性や差異等について説明する。

■目次

はじめに
複素解析、複素関数とは
複素関数
複素数の多項式関数
複素指数関数
複素対数関数
複素数のべき関数(べき乗)
複素三角関数
最後に
 

はじめに

はじめに

今回の研究員の眼のシリーズでは、「虚数」及び虚数と実数で構成される「複素数」について、今一度それがどのようなもので、どんな性質を有しており、はたまたそれがどのように社会で役に立っているのか等について、何回かに分けて報告している。

まずは、第1回は、「虚数」とは何か、から始めて、虚数と複素数の歴史と概要について、説明した。第2回は、複素数が数学の世界において、どのように有効に利用されているのかということで、方程式に関係するトピックについて説明した。複素数の研究を通じて、代数学の世界が飛躍的に進展していった。第3回は、複素数が工学や物理学の世界において、どのように有効に利用されているのかということで、電気・電子工学や量子力学等に関するトピックについて簡単に紹介した。

今回は、虚数や複素数が数学の世界でどのように利用されているのかについて、第2回の研究員の眼で紹介した方程式以外のトピックということで、複素解析について、3回に分けて紹介する。まずは、今回は複素関数の定義を示し、実関数との類似性や差異等について説明する。

複素解析は、本当に幅広く使用されている大変に重要なものなので、簡単に紹介できるようなものではないが、その走りを若干説明することで、少しでも興味を持っていただければと思っている。今回も、本当に大まかな説明になるので、細部等に正確性が欠ける点等はご容赦いただきたい。

複素解析、複素関数とは

複素解析、複素関数とは

複素解析(complex analysis」というのは、複素関数(複素数上で定義された関数)の微分法、積分法等を扱う分野であり、「複素関数論」等とも呼ばれる。複素解析の手法は、応用数学を含む数学全般、物理学、工学、社会科学等幅広い分野で利用されている。微分方程式の解法やフーリエ変換(フーリエ解析)1等が、電気・電子工学、量子力学、さらには流体力学等の分野では必須となっており、また数値解析にも使用されているが、ここでは複素解析が極めて重要なものとなっている。

複素関数(complex function」は、独立変数と従属変数がともに複素数の範囲で与えられる関数である。簡単に言ってしまえば、これまで実数の世界で定義されてきた多項式関数、指数関数、対数関数、三角関数といった関数の変数を実数から複素数に拡張したものということになるが、物事はそんなに簡単ではない。まずは複素数を変数に持つこれらの関数をどのように定義するのかが問題になってくる。その結果として新たに定義された複素関数は、実関数と同様な性質を有することも多いが、実関数とは異なる性質を有することもある。以下で、このあたりの状況を簡単に説明していく。

複素関数

複素関数

一般的に、実関数はxとyを実数として、y=f(x)と表されるが、複素関数はzとwを複素数として、w=f(z)と表される。ここで、x、y、u、vを実数として、z=x+yi、w=u+vi  とすると、

w=f(z)=u(x,y)+iv(x,y) 

と実部uと虚部vがそれぞれxとyの実関数で表されることになる。

実関数の場合、xを横軸、yを縦軸とした2次元の座標平面で表すことができる。ところが、複素関数の場合、zやw自体が2次元の複素平面で表されることになるので、両者の関係を示すグラフは4次元ということになり、これを視覚化することはできない。

ただし、例えば、独立変数のzが複素平面上の特定の曲線等に沿って変化する時の従属変数wの動きを視覚化することはできるので、これによって一定のイメージを得ることはできるかもしれない。ただし、それもほんの特殊なケースの動きであり、その意味では(実関数の場合とは異なり)複素関数をグラフで具体的にイメージすることはできないことになる。

因みに、zの変化に伴うwの動きの一端を垣間見るために、w=zという複素関数を考える。

xとyに以下の一定の関係を設定して、特定の曲線上にあるとした場合の、uとvの関係を調べてみると、以下の図(筆者作成)の通りになっている(ここでは、uを縦軸に、vを横軸にとっている)。

① yが定数(y=1、2の場合を図示) 
② xが定数(x=1、2の場合を図示) 
③ xとyに線形関係がある場合(x=2y、x=0.5y の場合を図示)
④ xとyが円周上にある場合(半径1と半径2の円周の場合を図示)
①の場合/②の場合
③の場合/④の場合
これらのグラフが示しているように、xとyの関係によって、uとvの関係は様々な形になっており、zとwの関係はさらに複雑な形となっていることが窺い知れる。

なお、複素関数は、z平面からw平面への変換となっている。この観点から考えると、例えばw=z2という複素関数は、極形式でのz=r(cos θ+i sin θ)に対して、w=r2(cos 2θ+i sin 2θ)となることから、これは原点からの距離を2乗して偏角を2倍にする変換を表していることになる。

また、そもそも実関数は一価関数となっているが、複素関数は必ずしも一価関数とはならずに、多価関数となることもある。多価関数となる場合には、「主値」という代表的な値が定められることにもなる。

複素数の多項式関数

複素数の多項式関数

複素数z=x+yi に対して、その多項式関数については、研究員の眼「複素数について(その2)」(2025.5.28)でも述べたように、ai を複素数として、


 
として表される。

これは複素数の四則演算だけで定義されているので、その定義に特に問題はないものと思われる。

複素指数関数

複素指数関数

複素数z=x+yi に対して、複素指数関数ezは、以下の式で定義される。

ez=exyi=ex (cos y+i sin y)

y=0であれば、e となるので、これは実指数関数の複素数への拡張となっている。 
この複素指数関数については、以下のような実指数関数と同様な又は異なる性質を有している。

・絶対値と偏角
|ez|=ex             arg ez=y+2nπ(nは整数)        

即ち、複素指数関数の絶対値は引数の実部のみによって決まり、引数の虚部の影響を受けない。

・ez1 ez2=ez1+z2

・ez1 /ez2=ez1z2

・ezは周期2πiの周期関数

・複素共役について、複素指数関数の共役は、共役複素数の指数関数となる。
(参考)複素指数関数の級数による定義
なお、複素指数関数については、級数を用いて、以下のようにも定義される(各級数のznはnが整数なので四則演算で算出できる)。



右辺の無限級数は、いかなるzの値でも収束することが証明されている。

複素対数関数

複素対数関数

複素数z=x+iy(≠0)に対して、対数関数log z は、以下の式で定義される。

log z=log|z|+i arg z

これは(無限)多価関数となる。ただし、例えば、偏角の範囲を(-π,π}に制限することで、「主値」を定めることとし、その主値をLog z 、zの偏角の主値をArg z( ∊(-π,π})とすると

Log z=log|z|+i Arg z

となり、これは一価関数となる。

この時、任意の整数nに対して

log z=log|z|+i Arg z+2nπi  

となる。なお、上式はzが正の実数の場合も成立するため、zが正の実数の場合でも、一価関数である実対数関数とは異なるものとなっている。

この対数関数については、その多価性から、実数対数関数とは異なり、以下の式は成立しない。ただし、2πiの整数倍の違いを無視すれば、成立する。

log z1z2=log z1+log z2 
log z1/z2=log z1-log z2 

因みに、log zは(無限)多価関数であるが、e log z は一価関数になる。

複素数のべき関数(べき乗)

複素数のべき関数(べき乗)

複素数z=x+iy(≠0)と複素数αに対して、そのべき関数zαは、以下の式で定義される。

zα=e αlog z

このべき関数については、指数αが整数の場合には一価関数、指数αが有理数でn/m(nとmは互いに素)と表される場合にはm個の値を有するm価関数、指数αが無理数又は虚数の場合には無限多価関数となる。

ただし、定義におけるlog zで主値Log z を採用すれば、べき関数も一価関数となる。

なお、このべき関数について、複素数α、βに対して、以下の式は一般的に成り立たない。

(zα)β=(zβ)α=zαβ

また、整数nに対して、(zα)=zαn は成り立つが、(zα)n=(zn)α   は成り立たない。
(参考)ii
この特殊なケースとして、ii(iのi乗)を考えると、以下の通りとなる。

ii=e i log i=e i (ln|i|+i(π/2+2nπ))=e(4n+1)π/2 (nは任意の整数)

これは、どれも正の実数で、nのとり方で、どのような小さな数や大きな数ともなりうる。

また、その主値はn=0の時のe-π/2 (実数)となる。

ii(主値)=e i Log i=e i (ln|i|+iπ/2)=e-π/2 ≒0.2079

これは、虚数の虚数乗が実数になっているという極めて興味深い例となっている。

複素三角関数

複素三角関数

複素数z=x+iy に対して、三角関数cos z、sin zは、以下の式で定義される。

cos z =(eiz+eiz)/2  
sin z =(eiz-eiz)/2i  
tan z=sin z/cos z 

この三角関数は、実三角関数と同様な以下の性質を有している。

・cos2z +sin2z =1

・cos (z+2nπ)=cos z
    sin (z+2nπ)=sin z

・cos(-z)=cos z
    sin(-z)=-sin z  

・加法定理は、α、βが複素数の場合も成立する。

(1) 正弦の加法定理
sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ
sin(α-β)=sinα・cosβ-cosα・sinβ

(2) 余弦の加法定理
cos(α+β)=cosα・cosβ-sinα・sinβ
cos(α-β)=cosα・cosβ+sinα・sinβ 

ただし、実三角関数とは異なり、|cos z|≦1 や|sin z|≦1  は必ずしも成立せず、|cos z|>1 や|sin z|>1   となることがある。実際に、例えば以下の通りとなる。

cos i=(e1+e1)/2=(0.36787…+2.7182…)/2>1
sin(-i)=(e1-e-1)/2=(2.7182…-―0.36787…)/2>1

それどころか、複素関数cos zとsin zは、任意の複素数の値をとることができる。
(参考)複素三角関数の級数による定義
なお、複素三角関数については、級数を用いて、以下のようにも定義される。


(参考)オイラーの公式、オイラーの等式
これまで述べてきた定義によれば、複素指数関数と複素三角関数の間に、以下のオイラーの公式(Euler's formulaが成り立つ。

eiz=cos z+i sin z

オイラーの公式は、複素解析を始めとする数学の分野だけでなく、工学・物理学等で現れる微分方程式やフーリエ級数の解析等において、幅広く利用されている極めて重要なものとなっている。

この式において、z=πとした場合が、以下のオイラーの等式(Euler's identityとなる。

eiπ=-1  あるいは  eiπ+1=0 

これは、ネイピア数e、虚数単位i、円周率π、さらには加法の単位元0、乗法の単位元1、という5つの基本的な数学定数を含んだ式となっており、「数学における最も美しい式」であると多くの人が考えている。

最後に

最後に

虚数及び複素数を巡る話題について、複数回に分けて報告することにしているが、今回は、虚数や複素数が数学の世界でどのように利用されているのかについて、第2回の研究員の眼で紹介した方程式以外のトピックということで、複素解析について、3回に分けて紹介することとし、まずは、今回は複素関数の定義を示し、実関数との類似性や差異等について説明した。

基本的には実関数を拡張したものとなっているのだが、複素関数自体、実関数のようにグラフで視覚化できず、実関数の拡張としての複素関数も多価関数になったりして、必ずしも実関数と同じ性質等を有しているわけではない。

次回は、この複素関数の微分と積分及びその性質等について報告する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月25日「研究員の眼」)

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