2025年12月03日

金融正常化と国内債券インデックスのパフォーマンス

金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

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主要な国内債券インデックスであるNOMURA-BPI(総合)は、2019年9月4日をピーク(399.082)に下落傾向を続けている。2025年10月末時点で、NOMURA-BPI(総合)は量的・質的金融緩和が導入された2013年4月時点を下回る水準にまで低下した(354.598→344.187)。同指数には、金利変化に伴うキャピタル・リターンだけでなく、クーポンから得られるインカム・リターンも含まれている。したがって、2013年4月以降の12年6か月において累積的に得られたインカム・リターンは、金利上昇に伴うキャピタル・リターンの悪化によって、大部分が相殺されたことになる。
図表1:NOMURA-BPI(総合)の指数値と修正デュレーションの推移(2013年4月以降)
NOMURA-BPI(総合)の指数値が2013年4月時点を下回る水準に戻った直接的な要因は金利上昇である。しかし、この期間に生じたインカム・リターンの低下(1.28%→1.01%)や修正デュレーションの上昇(7.63→8.15)の影響を無視できない。低金利下では低クーポン債の発行が続いたため、インカム・リターンは以前の水準を回復しておらず、金利感応度を示す修正デュレーションの水準も高い。今回の局面で特徴的だったのは、国債市場において指数のピーク時と比較して短期金利よりも長期・超長期金利の上昇幅が大きく、量的・質的金融緩和導入時よりもベアスティープ化が進行した点である(図表2)。金融正常化の過程で短期金利の上昇は緩やかであったものの、財政拡張リスクへの懸念などから長期・超長期ゾーンの上昇幅が大きく、長期債および超長期債を中心に価格調整が広範に及んだ。その結果、長期・超長期金利上昇に伴うキャピタル・リターンの悪化が、累積的に獲得してきたインカム・リターンを上回り、国内債券インデックスのパフォーマンスを大きく押し下げる要因となった。
 
今回の金融正常化は、国内債券市場における市場機能の観点からも転換点となっている。日銀による国債買い入れの減額ペースの縮小や、財務省による超長期債発行年限の再調整などの対応策に象徴されるように、特に超長期ゾーンでは従来よりも金利変動幅が大きくなった。国債市場では、これまで日銀に依存していた需給のゆがみへの対応が、市場参加者の取引へと徐々に委ねられた結果、価格発見機能は回復しつつあるが、ボラティリティも高まっている。
図表2:日本国債のイールドカーブの形状変化
金利変化が市場参加者に与える影響は、上昇と低下で非対称である。金利低下局面では、利ざや縮小や再投資利回りの低下によって収益は圧迫されるものの、含み益が資本を下支えしてきた。しかし金利上昇局面では、保有債券の評価損が顕在化し、預金取扱金融機関や生命保険などの市場参加者に対して、金融規制面での影響も生じる。特に超長期債の保有比率が高い長期投資家では、損失の振れ幅が大きくなり、金利変動への耐性が試される。
 
もっとも、教科書的な説明になるが、「金利上昇=損失」という単純な構図で理解すべきではない。債券インデックス運用の本質に立ち返れば、一時的なキャピタル・リターンよりも、長期的なインカム・リターンの積み上げこそが運用成果を左右する。むしろ金融正常化は、長らく失われていたインカム・リターンの回復を意味し、債券が本来有していた安定的な利息収益資産としての機能を取り戻す契機となっている。金融正常化により、新発債のクーポン水準が上昇し、国内債券ポートフォリオ全体の利回りが徐々に引き上げられる過程において、中長期的なトータルリターンは改善に向かう可能性が高い。
 
株式市場との関係においても再評価の余地がある。低金利環境下では、債券利回りが株式の配当利回りを大きく下回り、利回り獲得の観点から債券の「分散投資としての魅力」は低下していた。また、高インフレ環境下では、名目金利の上昇を伴って、世界的に株式と債券のリターンが資産価格の下落方向に順相関を示す時期もあった。しかし、世界的なインフレ環境が落ち着きを見せると、債券は再び株式市場のボラティリティを和らげるヘッジ資産としての役割を取り戻すだろう。年金運用において、債券はリターン源泉であると同時に、リスク低減の安定装置でもある。金利上昇局面の痛みは、その再構築のコストである。むしろ、インカム・リターンの回復を通じて、年金運用の収益基盤は再び厚みを取り戻すことができる。債券市場の「正常化」は、長期投資家にとっての再出発点であり、リスクと収益の均衡を見直す契機である。

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(2025年12月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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