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英国雇用関連統計(25年10月)-週平均賃金は再び前年比4%台に低下

2025年11月12日

(高山 武士) 欧州経済

1.結果の概要:週平均賃金は再び前年比4%台に上昇

11月11日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった1
 

【10月】
失業保険申請件数2前月(166.67万件)から2.90万件増の169.57万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.4%となり、前月(同4.3%)からやや上昇した。
給与所得者数3前月(3030.5万人)から3.2万人減の3027.3万人となった。増減数は前月(▲3.2万人)とほぼ一致、市場予想4(▲0.3万人)を下回った。

【9月(25年7-9月の3か月平均)】
失業率は5.0%で前月(4.8%)から上昇、市場予想(4.9%)を上回った(図表1)。
就業者は3419.2万人で3か月前の3421.4万人から2.2万人減少した。増減数は市場予想(0.5万人)を下回り、前月(9.1万人)からマイナスに転じた。
週平均賃金は前年比4.8%で前月(5.0%)から低下、市場予想(5.0%)を下回った(図表2)。

 
1 労働力調査ベースの統計については、回答率の低下を受け、ONSでは開発中の公式統計という位置付けで公表されている。
2 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは開発中の公式統計という位置付けで公表している。
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計。
4 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:給与所得者の月あたり給与(中央値)は約3%まで低下

まず10月のデータの求人数を確認すると、求人数が25年8-10月の平均で72.3万件とほぼ横ばい(7-9月期72.2万件)となった(図表3)。25年6月(72.6万件)以降は、横ばい推移が続いている。なお、10月単月の求人数(未季調値)は77.2万件だった。

同じく10月データの給与所得者は、10月(速報値)の前月差で▲3.2万人となった(なお、過去数値は9月分が悪化方向に改定された(9月速報値▲1.0万人→改定値▲3.2万人)。減少傾向が続き、24年8月以降の15か月のうち13か月が前月比で減少となった。産業別には卸・小売の減少が目立つ一方、飲食・居住サービス、事務・支援サービスなどは前月対比で大きく増加した。10月の給与額(中央値)伸び率は前年比3.1%と8月(5.9%、改定前は5.5%)から大幅に低下、コロナ禍以降の最低値を更新した。なお、平均給与額は9月時点で前年比5.0%だった(図表4)。
労働力調査ベースの数値は、7-9月期の失業率で5.0%となり、前期の4.8%から上昇した(前掲図表1)。就業者が減少、失業者と非労働力人口が増加で、労働参加率は63.9%とコロナ禍後のピーク水準で横ばい推移となった。
労働時間は31.8時間(前年差▲0.3時間)、フルタイム労働者で36.5時間(同▲0.4時間)となった(前掲図表2)。名目賃金は前年比で4.8%となり、前月(5.0%)から低下した。ボーナスを除く定期賃金伸び率は前年比4.6%と前月(4.7%)からやや低下、市場予想(4.6%)と一致した。同数値を3か月前比年率で見た賃金上昇の勢いは3.3%(前月3.9%)まで低下している。なお、民間部門の賃金上昇率が前年比4.4%(前月4.8%、ボーナス除きは4.2%)、公的部門が同6.8%(前月5.8%、ボーナス除きは6.6%)で公的部門の伸びと民間部門の伸びの乖離が広がっている(図表5)。実質ベースの伸び率は、ボーナス含みで前年比0.7%(前月0.9%)、ボーナスを除きで同0.5%(前月0.6%)となった。

処遇改善を求めたストライキは、9月は件数ベースで42件(8月18件)、労働損失日数で3.9万日(8月0.7万日)となっており、かなり少ない状況となっている(図表6)。

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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