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気候関連リスクへの保険対応-アクチュアリーは気候関連リスクにどう取り組むべきか
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
そんななか、国際アクチュアリー会(International Actuarial Association, IAA)は、2020年9月に、「アクチュアリーにとっての気候関連リスクの重要性」と題するペーパー(以下、ペーパー)を公表した1。本稿では、その内容をもとに、気候変動のリスクについて、考えてみることとしたい。
1 “Importance of Climate-Related Risks for Actuaries”(IAA, Sep. 2020)
2――アクチュアリーと気候変動
3――気候関連リスクの内容
1|物理的リスクには、急性のものと慢性のものがある
物理的リスクには、気候変動が引き起こす、急性(短期的)または慢性(長期的)のリスクがある。企業は、各種財産への直接的な損害や、サプライチェーンの混乱による間接的な損失など、さまざまな財務的影響を被る可能性がある。また、企業は、水資源の利用可能性、立地、操業、サプライチェーンをはじめ、従業員の安全をおびやかす極端な気温変化によっても、影響を受ける。保険会社や年金基金は、こうした資産側のリスクに加えて、給付の増大という負債側のリスクにもさらされている。特に、保険会社は保険事故を通じて、以下のような物理的リスクにさらされている。
4――気候関連リスクに関する数理モデルの設計
1|炭素集約型の企業価値が低下するなど、資産運用の前提が変わる可能性も
モデルでは、保険の価格設定、年金制度の準備金の積み立てなど、さまざまな目的のために、将来の運用収益を仮定する必要がある。すなわち、運用ポートフォリオに対する、気候関連リスクの影響を検討することが必要となる。
環境、社会、ガバナンス(ESG)は、健全な事業運営を目指す保険会社にとって、ますます重要になっている。その結果、今後は、たとえば炭素集約型産業への資金貸付や、そうした企業が発行する「ブラウン債」などでの有価証券運用は引き揚げる、といった動きも出てこよう。その結果、こうした企業の価値が低下し、資産運用戦略の見直しが遅れた保険会社の運用収益が減少することが考えられる。
これらの影響の内容や時期は、それぞれの資産運用の性質、場所・地域、産業セグメント、企業経営の質などの諸要因によって異なる。一部には、ソーラーパネル生産や洪水対策に携わる企業など、気候変動の恩恵を受ける企業もあるかもしれないが、その恩恵が永続するかどうかは不明である。
5――保険商品管理
2 たとえば、住宅を所有する人が、自宅を危険から守るために火災保険に加入する。農業従事者が悪天候に備えて、作物生産収入の補償を求める、など。
当面の課題は、気候関連のリスクと、顧客、株主、投資家等の関係者のニーズに照らして、保険商品を適切に設計し、価格を設定することといえる。発生率や被害額の増大に伴って保険料率を引き上げたり、洪水や森林火災などの気候関連の影響を受けやすい地域で保険を適用除外としたりする事象を極力抑えるために、ESG基準に従った持続可能なアプローチをとる必要がある。
しかし、こうしたアプローチは、一面的なリスク検討に陥りやすいため、注意を要する。たとえば、リスクごとに契約群団を細分化して、価格設定の粒度を向上させることは、保険料率とリスクのマッチングを高める。しかし、同時に、契約群団が小規模化して、リスクプールを減らすことにもつながる。その結果、最も保険を必要とする人々に、手頃な価格で保険を提供できなくなる可能性がある。
また、特定の気候関連リスクに対する保険適用の制限は、保険会社の給付支払を軽減する可能性がある。しかし、その一方で、顧客ニーズを十分に満たすことができず、地域内等で保障格差を引き起こしてしまう可能性がある。こうなると、民間保険事業に対する信頼度の低下は避けられない。
2|資産運用面でも運用のポジショニングを慎重にとる必要がある
運用マネジャーは、気候関連リスクに対する運用ポジションから生じる、ベンチマークとリスクの関係の適正化にも苦労している。気候関連リスクに対処しようとすると、予期せぬ顧客行動や、追加のリスク管理、商品管理を要するリスクにつながる可能性がある。
保険商品管理を成功させるためには、保険契約者の金融上の利益と、気候変動の改善行動の方向性を一致させるような商品を開発することが挙げられる。
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
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